佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

寝ても覚めても本の虫

「事前に相談もしてくれないで」とさらに言葉を継ごうとする家内に向かって、僕は思わず口を滑らした。「こういう本は女房を質に入れても買うべき本なのだ」と。      

  

 

 

 

                          (本書P354「本のある日々 - あとがきにかえて」より)

 

 

 

 

 

  『寝ても覚めても本の虫』(児玉清/著・新潮文庫)を読みました。児玉さんは今年の5月16日に胃ガンで亡くなられた。77歳であった。本屋で平積みされた本をぶらぶらと眺めながら歩いていたときに目にとまった本です。私は児玉さんの出演された「週間ブックレビュー」の大ファンです。これほど本好きの心を楽しませてくれる番組はありません。番組で児玉さんが無類の本好きで、番組で取り上げる本を全て読んでいらっしゃること、それ以外にもご自分の楽しみでたくさんの本を読んでいらっしゃるのを知り素敵な人だなと尊敬していました。一緒に番組を担当された中江有里さんが「児玉さんはお酒を飲んでもいつも颯爽と帰っていかれる」と話していらっしゃったのを覚えています。かっこいいな、自分もそんな風になれたらいいなと憧れてもいました。
 本書を読んで嬉しくなったのは、「”面白小説家”デュマの復権」と題した一文でフランスでA・デュマの功績が見直されたことを児玉さんがほんとうに喜んでいらっしゃること。そして、児玉さんが読んだ本を人にあげたり、売ったり捨てたり出来ず、手元に置いておきたい人であること。私も全く同じ気持ちを持つ者です。デュマについては、オモシロ小説でフランス国民を熱狂させ圧倒的な人気があったにもかかわらず、過激なプロット運びと面白さが大衆に迎合する精神的に低いものと見なされていたことを憂え、そうしたオモシロ小説が時代を経て価値があるものと見直されたことをほんとうに嬉しく思います。
児玉さんが本好きになった原点が子どもの頃読んだ講談本などのオモシロ小説であり、一生をかけて本を読んでこられた最近になっても、へんに気取ることなくアメリカやイギリスの作家が書くワクワクするようなプロットに溢れた小説を愛し読み続けてこられた姿勢に全面的に賛意を示すものであります。
 稀代の読書家でありながら、ついにアガサ・クリスティを読まずに逝かれた児玉さんは本当にかっこいいオジサンだと思います。私はとても児玉さんのように格好良くなれないけれど、少しは見習ってオモシロ本を読み続けたい。小説の世界を楽しみたい。そして酒を飲んだ後は颯爽と消えたいと思う。

 

裏表紙の紹介文を引きます。 


大好きな作家の新刊を開く、この喜び!本のためなら女房の小言も我慢、我慢。眺めてうっとり、触ってにんまり。ヒーローの怒りは我が怒り、ヒロインの涙は我が溜め息。出会った傑作は数知れず。運命の作家S・ツヴァイク、目下の“最高”N・デミル、続編が待ち遠しいT・ハリスに、永遠の恋人M・H・クラーク…。ご存じ読書の達人、児玉さんの「海外面白本追求」の日々を一気に公開。 


  

 それにしても、この本を読んでまた読みたい本が増えてしまった。これも読みたい、これもと本に貼った付箋が十や二十ではきかない。困ったことです。