佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

自選 ニッポン居酒屋放浪記


グラスの氷をコロンと回し、中の焼酎を見た。うまさに色気のある日本酒が女性ならば、焼酎は男だ。それもどこか、節を曲げずに生きてきた渋い市井の男だ。出世も栄達もなかったが「あいつは一本筋が通っている」と一目置かれる男。年配になると焼酎党の増えるのは、そんな価値観に心が動いてゆくからではないだろうか。であれば薩摩の男尊女卑は、女の「男はこうあってほしい」というあらわれ、つまり「男は小細工せんとデンとしておれ。自分の節を曲げるくらいなら出世たらせんともよか。そのくらい私が食べさせたる。よか男ばいと言われるのが女の甲斐性たい」だろう。模範はもちろん大西郷だ。
                        (本書P227”鹿児島の夜のキビナゴはひとこと多い”より)

 

 

 『自選 ニッポン居酒屋放浪記』(太田和彦/著・新潮文庫)を読みました。

 まずは裏表紙の紹介文を引きます。


古き良き居酒屋を求め全国各地へ。3年間で35の土地を訪ね歩き“居酒屋探訪記”の先駆けとなった紀行集から、著者自身のセレクトによる16篇を収録したベスト版。良い居酒屋は旨い酒と旨い肴、そして店の人の温かい笑顔で、客の心を和ませる。いまでは消えてしまった店も含めて地方に輝く極上の居酒屋が湛えていた、宝物のように芳醇な時間と空間を1冊に凝縮した、名紀行集決定版。


 『ニッポン居酒屋放浪記』は「立志篇」、「疾風篇」、「望郷篇」と全て読んでいる。3冊全てで35篇の放浪記が記されている。その中からの16篇を太田氏がセレクトした謂わばベスト版なのだ。ということは同じものを二度読みすることになり、まったく無駄なことなのである。理屈の上では、セレクト版である本書を読み、他の篇も読みたくなり、元々の『ニッポン居酒屋放浪記』(全3冊)を読むことはあっても、その逆はあり得ない。しかも、たかが590円(税別)とはいえお金を払って本を購入するとなると尚更のことだ。しかし、太田氏がどんなセレクトをしたのか、あるいはあとがきにどんなことが書いてあるのか、そんなことも興味があり買ってしまった。もうビョーキです。
 巻末の解説がまた読みごたえがある。山田詠美川上弘美椎名誠という豪華解説人である。解説がつくのも文庫本の良さなのだ。
 本書に登場する居酒屋の何軒かには実際に行ったことがある。根岸の「鍵屋」、金沢の「源左ェ門」(本書では「源左衛門」となっっているがおそらくコチラが正しい)、長田の「吟醸」、三宮の「森井本店」「八島東店」がそうだ。しかしそれは本書に紹介された居酒屋の極々一部に過ぎない。あそこにも行きたい、ここにもと付箋をつけていくと本は付箋だらけだ。とりあえず二宮の「藤原」、札幌のバー「やまざき」にはどうしても行きたい。あと大分に行って【独特のあえもの】を食べたい。