佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

銀のみち一条(上巻)

――伊作は生まれが他人とは違う。生まれながらに荷を背負っとるんじゃ。雷太よ。庇ってやれ。譲ってやれ。強い男は、弱い者に譲らにゃならん。強ければ、男はいつか自分の力で取り戻せる。天は、そういうふうに、公平にできとるもんじゃ。

                                       (本書P101より)

 

『銀のみち一条(上巻)』(玉岡かおる・著/新潮文庫)を読みました。

 

 

まずは、裏表紙の紹介文を引きます。


千二百年もの間、日本に銀をもたらし近代鉱業の中心となった生野銀山。その但馬の地に生まれつき、明治の時代を生きた三人の女がいた。東京帰りで名士の娘、咲耶子。町一番の美貌で芸妓の芳野。気立てがよく真っ直ぐな女中の志真。彼女たちの胸の中には、生涯忘れられない男として刻まれた、孤独な坑夫、雷太―。激動の変革期、恋と夢に魂を燃やした、名もなき人々の感動大河ロマン。


 

 

 生野と姫路、そしてその間を走った産業道路、銀の馬車道播但線が物語の舞台です。恥ずかしながら、私も約2年前に銀の馬車道にちなむ小説を書いたことがあります。「銀の馬車道文芸賞」という小説募集があり、それに応募したのです。とても小説といえる代物ではなく、敢えていうならば「短編小説のようなもの」といった駄文でした。そんな私がこの小説を読み始めるなり思ったことは、やっぱりすごいということ。その凄さたるや、圧倒的だということ。プロの作家とはこれほどの物語を紡げるのだということに改めて感動しました。玉岡さん、スゴイです。魅力的な登場人物、はらはらどきどきさせる物語の展開、随所に見られる人情の機微、高潔な心、読んでいて幸せです。物語に没頭しています。

 物語は明治時代の生野銀山を舞台に、才能と高い志を持ちながらも、貧困が、あるいは女に生まれたことが壁となって立ちはだかる現実とそのような現実の中で懸命に生きる人々を描く。 「千金を買う市あれど、一文字を買う店なし」 学問は人を頼らずとも自分でひとりでやれる。要は自分の心がけ次第などと甘いことを考えていた自分が恥ずかしい。一昔前までは、たとえ志があっても、出自や性別によって抗いがたい状況があったことを改めて思い知った。自分ではどうしようもない運命に翻弄されつつ、すてばちになることなく運命に立ち向かう登場人物の幸せを願いつつ、下巻に突入します。