佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

氷菓

 今年もまた文化祭がやってきた。 

 


 関谷先輩が去ってからもう、一年になる。
 この一年で、先輩は英雄から伝説になった。文化祭は今年も五日間盛大に行われる。
 しかし、伝説に沸く校舎の片隅で、私は思うのだ。例えば十年後、誰があの静かな闘士、優しい英雄のことを憶えているのだろうか。最後の日、先輩が命名していったこの『氷菓』は残っているのだろうか。

 争いも犠牲も、先輩のあの微笑みさえも、全ては時の彼方に流されていく。
 いや、その方がいい。憶えていてはならない。何故ならあれは英雄譚などでは決してなかったのだから。
 全ては主観性を失って、歴史的遠近法の彼方で古典になっていく。

 いつの日か、現在の私たちも、未来の誰かの古典になるのだろう。

                          一九六八年 十月十三日
                                    郡山養子
                                      (本書P140-141より)

 

 

氷菓』(米澤穂信・著/角川文庫)を読みました。米澤氏の小説は『Story Seller』や『きみが見つける物語  十代のための新名作 休日編』に短篇が掲載されていたので少しは読んだことがあります。殺人のない日常ミステリが新鮮で素晴らしいなと感じていました。特に「シャルロットだけはぼくのもの」 は本書と同じようなテイストで、何気ない日常のなかに潜むとりたててどうということもない事件をこれほど面白く読ませる米澤氏の手腕に舌を巻いたものです。私の中で『夏期限定トロピカルパフェ事件』(東京創元社)も是非読まなければならない本リストに揚がっています。

 

まずは裏表紙の紹介文を引きましょう。


いつのまにか密室になった教室。毎週必ず借り出される本。あるはずの文集をないと言い張る少年。そして『氷菓』という題名の文集に秘められた三十三年前の真実―。何事にも積極的には関わろうとしない“省エネ”少年・折木奉太郎は、なりゆきで入部した古典部の仲間に依頼され、日常に潜む不思議な謎を次々と解き明かしていくことに。さわやかで、ちょっぴりほろ苦い青春ミステリ、<古典部>シリーズ開幕! 記念碑的デビュー作!!


 

 

 上に掲載した表紙の写真をご覧ください。左のカバーが右のカバー付きの本の上にかけてあります。本屋で買ったときはTVアニメのキャラクター(千反田える)らしきカバー絵を気恥ずかしく思いながらレジに向かったものです。五十路のオジサンにとって、このカバーはきつい。こんな本をもってレジでお金を払っていたら、私はまるでセーラー服萌え~の変態親父ではないか。勘弁していただきたい。本を開いてみると何となく手の感触に違和感があったのではじめてこの本はカバーが二重にしてあることに気付いた。おそらく本来のものの上に、アニメ化と同時に作った新しいカバーを掛けたに違いない。と、ここまで書いてはたと気付いた。このアニメ・キャラのカバー(と見えるもの)は、厳密に言うと実はカバーではなく、広告用のオビなのではないかと。よくよく見れば本来のカバーは本のサイズにピッタリの大きさだが、上にかかっているカバー(と見えるもの)は2mmばかり小さいのだ。なるほど、オビだったか。これまで見たオビは表紙の1/3を覆う大きさしか見たことがない。このオビを考えた奴はすごい。(本来のカバーの写真を担当している清水厚氏には気の毒だが・・・) 

 それにしてもオジサン用にこのオビをはずしたものも本屋に置いていただきたい。そうでなければ小生はこの続編『愚者のエンドロール』を買うときにふたたび赤面しながらお金を払うことになるのだ。是非とも全国の書店(いや、TSUTAYA広峰店だけで良いのだが)に善処いただきたい。

 小説自体は期待を裏切らない内容であった。真夜中一気読みといえば私の満足度も想像いただけるに違いない。