佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

おとうと

「云ったってしようがないことは云わないほうがりっぱだわ。」

                             (本書P188より)

 

 『おとうと』(幸田文・著/新潮文庫)を読みました。

 私が参加している月イチの読書合評会「四金会」の6月課題本です。

 

 

 まずは裏表紙の紹介文を引きます。


 

高名な作家で、自分の仕事に没頭している父、悪意はないが冷たい継母、夫婦仲もよくはなく、経済状態もよくない。そんな家庭の中で十七歳のげんは、三つ違いの弟に母親のようないたわりをしめしているが、弟はまもなくくずれた毎日をおくるようになり、結核にかかってしまう。事実をふまえて、不良少年とよばれ若くして亡くなった弟への深い愛惜の情をこめた、看病と終焉の記録。


 

 

 高名な作家の父、リウマチを患う継母、十五歳の弟を家族に持つ十七歳のげん。家族それぞれが心に持つ鬱屈、微妙な心のあやを丹念に描ききっている。自伝的小説のようですが味わい深い文章です。露伴は文さんの文才を認めていなかったようだが、なかなかどうして、やはり血は争えないと云うことでしょう。特に書き出しの文章が素晴らしいので引いておきましょう。

 


 

 太い川がながれている。川に沿って葉桜の土手が長く道をのべている。こまかい雨が河面にも桜の葉にも土手の砂利にも音なく降りかかっている。ときどき川のほうから微かに風を吹きあげてくるので、雨と葉っぱは煽られて斜になるが、すぐ又まっすぐになる。ずっと見通す土手には点々と傘(からかさ)・洋傘(こうもり)が続いて、みな向こうむきに行く。朝はまだ早く、通学の学生と勤め人が村から町に向けて出かけて行くのである。


 

 それにしても、私はこの弟が苦手です。親に対するわだかまりや周りからの誤解を自分の中で始末できず投げやりになったり、心得違いの行動を繰り返す。おそらく周りの愛情を求めて満たされない心の表れなのでしょう。しかし私はそのような状況にあっても、誇り高く孤高を貫こうとあがく男であって欲しい。たとえ未だ十五の男であっても。厳しいようですがそう思います。