佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

二〇一二年の読書メーター その1

2012年の読書メーター
読んだ本の数:142冊
読んだページ数:42476ページ
ナイス:33978ナイス
感想・レビュー:142件
月間平均冊数:11.8冊
月間平均ページ:3540ページ

作家の酒 (コロナ・ブックス)作家の酒 (コロナ・ブックス)感想
文士の飲み方、そこにはそれぞれの個性がある。酒豪といわれた方々だけに、毎日が酒、それも大酒だけにその人の心根の奥底が見える。多士済々、皆さん魅力に溢れていらっしゃる。「一日三升飲んでも決して乱れず」立原正秋先生、私は今年の元旦にあたり、先生に少しでも近づきたいと願をかけました。先生ほどたくさんは飲めないけれど、「飲めども乱れず」を心がけます。しかし、高田喜佐さんが嘆いていらっしゃるように、「軽く、ほどほどに、格好良く」といった今時の若い男の飲み方は致しません。「とことん、しっかり、堂々と」、これです。
読了日:1月2日 著者:
夜明けのブランデー (文春文庫)夜明けのブランデー (文春文庫)感想
池波正太郎氏が60歳を超えて書かれたエッセイ。ご本人直筆の挿画も楽しめる。肩の力が抜けて洒脱な文章が心地よく読みやすい。食べ物や映画、酒、万年筆(オノト)、煙草など、日常にこだわりを持ちつつ力が抜けている様は、これから老年期を迎える者にとって、まさにお手本にすべき姿ではなかろうか。もちろん若い頃からの積み重ねがあってのことで、簡単に真似ることなどできないけれど。考えてみると、私は池波氏の小説を読まずエッセイばかり読んでいる。池波氏の粋な生き方に憧れるからだが、やはり小説も読まないとな。うん、読もう。
読了日:1月6日 著者:池波 正太郎
きみが見つける物語  十代のための新名作 切ない話編 (角川文庫)きみが見つける物語 十代のための新名作 切ない話編 (角川文庫)感想
タイトルに「十代のための」とあるが五十代が読んでなにが悪いと開き直りつつ読了。私の好きな作家、山本幸久氏、荻原浩氏、小川洋子氏の短篇が掲載されているとなれば読まない訳にはいかない。「切ない話」かどうかは人それぞれ「切ない」の定義によるだろう。切なくはないかもしれないが、味わいが深い。中でも山本幸久氏の「閣下のお出まし」、小川洋子氏の「キリコさんの失敗」、志賀直哉氏の「小僧の神様」が素晴らしかった。
読了日:1月12日 著者:
きみが見つける物語 十代のための新名作 休日編 (角川文庫 あ 100-103)きみが見つける物語 十代のための新名作 休日編 (角川文庫 あ 100-103)感想
「シャルロットだけはぼくのもの」ありきたりの日常がミステリというスパイスで素敵な一日に。「ローマ風の休日」再読だが物語の世界は決して色あせない。大好きな作品。「秋の牢獄」私はこれまで3回尿管結石を患っている。その日が11月7日でなくて良かった。「春のあなぼこ」小学校を卒業し、中学校に入学するまでの空白の二週間。自分の知らない世界へ飛び出したい気持と、知らない世界への畏れが良く現れた作品。「夏の出口」高校3年の夏、自分はこれから何者にもなり得る、が同時に今、何者にもなり得ていない自分に対するいらだちと不安。
読了日:1月15日 著者:角川文庫編集部
あずまんが大王 (1) (Dengeki comics EX)あずまんが大王 (1) (Dengeki comics EX)感想
表紙を見るかぎり一生、手に取ることはなかったであろうコミックだが、『よつばと!』の群を抜く素晴らしさに好奇心を抑えられず4巻まとめ買い。面白いではないか。画は好みとは言い難いが、読むうちにキャラクターに魅せられていく自分がいた。登場人物のちょっとした表情にもなにかしらの意味がある。四コマでリズム良く読み進むことができるが、その四コマの中に微妙なテンポのズレや漂う空気感が表されているあたり、なかなかのものです。というか、凄い。黒沢先生がゆかり先生ににぎられている恋愛系の弱みとはいったい何か? 後の楽しみだ。
読了日:1月15日 著者:あずま きよひこ
恋なんて贅沢が私に落ちてくるのだろうか?恋なんて贅沢が私に落ちてくるのだろうか?感想
「ハナビ」に続いて二作目を読ませていただきました。前作に比べて数段上を行く出来だと思います。私には女心の機微は判りません。でも、主人公・青子の気持ち、痛みを少しは判ったと感じます。そう、なにやら胸のあたりが痛くなるような切ない気持です。容姿は十人並みかもしれない。女としてのセクシーさにはややもの足りないところがあるかもしれない。しかし、青子には真心があります。大人として生きていれば、まして三十歳手前にもなれば、いつまでも無垢なままではいられない。でも、青子さんはとってもキレイなところのある女(ひと)です。
読了日:1月16日 著者:中居 真麻
きみが見つける物語    十代のための新名作 恋愛編 (角川文庫)きみが見つける物語 十代のための新名作 恋愛編 (角川文庫)感想
「あおぞらフレーク」(梨屋アリエ)これぞ十代のための恋愛小説ですな。「しあわせは子猫のかたち」(乙一)切ないミステリ&ファンタジー。秀作。「黄泉の階段」(山田悠介)非常に印象に残る物語。ええぇっという驚きがふたつ。「植物図鑑」(有川浩)会社からの帰り、道端に男(それも結構いい男)が落ちていた。”お嬢さん、よかったら俺を拾ってくれませんか? 咬みません。躾のできたよい子です”だとぉ。面白すぎるやないの。これは全篇読まずにはいられない。「小さな故意の物語」(東野圭吾)面白いことは面白いのだが後味悪し。
読了日:1月20日 著者:
あずまんが大王 (2) (Dengeki comics EX)あずまんが大王 (2) (Dengeki comics EX)感想
第一巻で登場人物それぞれの持ち味をある程度把握できているだけに、可笑しさに深みが増す。よみと榊、それぞれの魅力を放っている。大阪ととものからみはボケ具合が絶妙。大阪のくしゃみ「へーちょ」はツボに嵌る。からみといえば、ゆかり先生とにゃも先生のコンビもイイ。今後、にゃも先生の恋愛ネタに期待が高まる。それにしても、五十代のオジサンの読むコミックではないなと思いつつ、読んでしまうのだなぁ、これが。ことわっておくが、私は木村のようなロリコンではない。しかし、木村の奥さんを見て、木村を羨ましいと思ったのも事実。
読了日:1月22日 著者:あずま きよひこ
あずまんが大王 (3) (Dengeki comics EX)あずまんが大王 (3) (Dengeki comics EX)感想
ボンクラーズ結成。大阪+とも+神楽=愛すべきバカども、すなわちボンクラーズ。毛利三兄弟(三本の矢)も適わないほど強烈だな。大阪の怖い話「夜、部屋に一人っきりの時……、どこからともなく……、私のやないオナラのにおいがしてきたんや…」。こ、こ、これは怖い。ひえー。
読了日:1月22日 著者:あずま きよひこ
あずまんが大王 (4)  (Dengeki comics EX)あずまんが大王 (4) (Dengeki comics EX)感想
いよいよ高校卒業。大学受験。意外や意外、よみの合格が一番遅れた。ふぅー、やきもきしたぜ。榊にもなついたヤマピカリャーが。みんなが幸せに卒業できた。良かった良かったと言いながら、この話が終了してしまうことに一抹の寂しさをおぼえてしまう。かくなる上は「よつばと! 12」を心待ちにすることとしよう。では、さらばじゃ。皆、達者でな。
読了日:1月22日 著者:あずま きよひこ
薫風鯉幟―酔いどれ小藤次留書 (幻冬舎文庫)薫風鯉幟―酔いどれ小藤次留書 (幻冬舎文庫)感想
あれこれ悩み事が多い時に本を読むならばこれ、勧善懲悪ものがよろしい。悪党の所行によって、真っ当に生きている者が窮地に立たされた時、めったやたらと強いヒーローが登場してその悪党をこてんぱんにぶちのめしてくれる。胸がすきます。心が晴れます。スカッとします。そう、そのヒーローこそ赤目小籐次。一升酒などおちゃのこさいさい。忠義を尽くす主(あるじ)はただ一人。思いを寄せる女性(ひと)もただ一人。男の値打ちはやはり力です。強さです。そして同時に大切なものは弱い者への優しさです。それは真の強さの証でもあります。
読了日:1月26日 著者:佐伯 泰英
ソバ屋で憩う―悦楽の名店ガイド101 (新潮文庫)ソバ屋で憩う―悦楽の名店ガイド101 (新潮文庫)感想
「ソバ屋で憩う」なんと魅力的なタイトルではないか。蕎麦屋は街中のオアシスなのです。昼日中、仕事に忙しい人でごった返す時間帯を避けてのれんをくぐり、「お酒、冷やで一本ね」と声をかけて席につく。蕎麦屋では昼酒をいただいても眉をひそめる店員はいません。酒のアテは、そばがき、板わさ、味噌焼き、だし巻き卵……、通を気どって天ぬきや鴨ぬきを頼むのもよい。酒も贅沢は言わないが地酒の二、三種類もあれば申し分ない。そんなおとなの気持ちをくすぐる名店蕎麦屋を紹介し蕎麦屋でのくつろぎ方を教えてくれる本です。
読了日:1月30日 著者:杉浦 日向子,ソ連
Story Seller (新潮文庫)Story Seller (新潮文庫)感想
読みたかったのは「プロトンの中の孤独」(近藤史恵)。やはりイイ。ロードレースものとして『サクリファイス』のサイド・ストーリー的な物語だ。男たちを惹きつけてやまないロードレースという競技の本質を見事に描いている。伊坂幸太郎氏、有川浩氏はそれぞれ持ち味を存分に発揮している。道尾秀介氏「光の箱」はとても素敵な物語に仕上げているものの、氏の世界に私は違和感を持つ。逆に米澤穂信氏、佐藤友哉氏、本多孝好氏はそれぞれ独特の世界観と作風に唸った。三氏の小説を読むのはこれが初めてだが、他の作品も読んでみたい。
読了日:2月3日 著者:
偽小籐次―酔いどれ小籐次留書 (幻冬舎文庫)偽小籐次―酔いどれ小籐次留書 (幻冬舎文庫)感想
ついに十六、七年もの間、想いを寄せたただ一人の女(ひと)、おりょう様と……。これは夢じゃ、夢にございますな。夢なら醒めんでくれ。あぁ……ついに……
読了日:2月5日 著者:佐伯 泰英
うつくしく、やさしく、おろかなり―私の惚れた「江戸」 (ちくま文庫)うつくしく、やさしく、おろかなり―私の惚れた「江戸」 (ちくま文庫)感想
「ソバ屋で憩う」を読んで以来、杉浦氏の世界に傾倒しつつある。杉浦氏が惚れ込んだ江戸風俗について存分に語って下さっています。二六〇年にも及ぶ泰平の世にあって形作られた江戸という町と風俗、そこには「無用の贅」という座興に価値を見いだす「粋(イキ)」という美学が息づいていた。それは、現代において一部の高等遊民のみが獲得しうる境地であろう。そのような精神の高みに一般庶民(それも裏店に住むような貧しい者までも)が到達した「江戸」という時代に驚きを禁じ得ない。日本という国に生まれたことがちょこっと誇らしく嬉しい。
読了日:2月7日 著者:杉浦 日向子
杜若艶姿―酔いどれ小籐次留書 (幻冬舎文庫)杜若艶姿―酔いどれ小籐次留書 (幻冬舎文庫)感想
「杜若艶姿」には(とじゃくあですがた)とルビが振ってある。「杜若」をカキツバタと読むならば、カキツバタの艶やかな姿とは何を指しているのか。やはりおりょう様であろう。「いずれがアヤメかカキツバタ」という言葉もあるが、カキツバタおりょう様とすれば、アヤメは水野家の奥方お登季様だろうか。その二人をエスコートしてモクズガニ似の不器量小籐次が芝居見物に出かける。こういっちゃなんだが小籐次に華やかな表舞台は似合わない。しかしまあ、これも小籐次の十数年にわたる秘する想いに対する著者のプレゼントか……
読了日:2月8日 著者:佐伯 泰英
殺人にうってつけの日 (新潮文庫)殺人にうってつけの日 (新潮文庫)感想
主人公には復讐すべき理由が充分すぎるほどある。元KGBのスパイの裏切りにより投獄され、しかもそいつに妻まで奪われたのだ。しかしこの主人公がまた悪党なのだ。CIAのエージェントでありながら、祖国を裏切りKGBに情報を流すは、妻には虐待を加えるはというとんでもない野郎である。金と快楽のために人を利用することなど屁とも思っていない自己中。読者としてはとても感情移入できない。しかし、読み始めたが最後、因縁のスパイ同士が追う側、追われる側として繰り広げる心理戦から目が離せなくなり、一気読み。
読了日:2月10日 著者:ブライアン フリーマントル
戻り川心中 (光文社文庫)戻り川心中 (光文社文庫)感想
花にまつわる五編のミステリ。描かれているのは恋。いや、秘めたる深い情念という意味では「色」といったほうが適切か。私がこの物語にみたのは滅びの美学、そして耽美。男と女の情念を深くえぐって描きながらも、書き手自身の心は醒め、まなざしはあくまで冷徹と見える。作者は登場人物の激情をいかに読者に伝え汲み取らせるかを計算しつくして書いており、作者の抑えた筆致に、かえって読者は登場人物の心情を己の心の目を通して慮ることとなる。謎解きの妙味も素晴らしいが、読者が真に唸らされるのは主人公が罪を犯したその動機である。
読了日:2月16日 著者:連城 三紀彦
武士道エイティーン (文春文庫)武士道エイティーン (文春文庫)感想
本筋と関係ないのだが、前作を読んだ後、私はひそかに香織が中学の剣道部で一緒だった清水の存在に注目していた。清水君はヘタレで糞握りで優柔不断な男。案外さっぱりと男前な性格の香織の母性本能をくすぐって、意外や意外……などという驚きの展開をちょっぴり期待たのだが、ほんのちょい役での登場にとどまった。まぁ、当然でしょう。なにせ、「ヘタレで糞握りで優柔不断」ですからねぇ。しかし、私は諦めない。清水君がいつか大人になった香織の前に現れた時、高校の頃とは似ても似つかぬ凛々しい男になっていたりして……と私の妄想は膨らむ。
読了日:2月17日 著者:誉田 哲也
利休にたずねよ (PHP文芸文庫)利休にたずねよ (PHP文芸文庫)感想
利休はどうして秀吉から死を賜ったのか。作者の解釈は誰よりも優れた審美眼を持ち、いつも取り澄ました利休の態度が秀吉にすれば自分が蔑まれているように感じられ逆鱗に触れたというものであろう。では、利休はなぜ、命がかかる局面に際してなおその態度を改めようとしなかったのか、秀吉に詫びることを拒んだのか。それを時を溯って解き明かしていく。天下人・秀吉を単なる独善的な暴君とし、石田三成を偏狭で邪な男として描いていることに些かの不満をおぼえるものの、歴史小説として、ミステリとして、恋物語として存分に楽しみました。
読了日:2月22日 著者:山本 兼一
二流小説家 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)二流小説家 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)感想
読み始めてはたと作者名を再確認。デイヴィッド・ゴードンとある。ハンドラーではない。私が一時期はまっていたデイヴィッド・ハンドラーの小説家探偵ホーギー・シリーズにテイストが似ている。売れない小説家で、ちょっと頼りなく、頭は良いけどそれをひけらかさない凡庸さ、決して強くはないけどちょっとした勇気はある。そんな主人公、ハリー・ブロックがステキだ。そして、そのパートナーのクレアが可愛い。ハリーのお母さんが死に際に遺した「あと数年待って、クレアと結婚しなさい」の言葉どおりになるのかならないのかを知りたい。続編希望。
読了日:2月25日 著者:デイヴィッド・ゴードン
Story Seller〈2〉 (新潮文庫)Story Seller〈2〉 (新潮文庫)感想
お気に入り順:①近藤史恵(ぶっちぎり、物語の結末もぶっちぎり)②本多孝好(弥生さんのキャラに特別ポイント)③沢木耕太郎(この人のエッセイは格別)④伊坂幸太郎(前作「首折り男の周辺」との繋がりが楽しませてくれる)⑤佐藤友哉(前作「333のテッペン」のシリーズ物として良し)⑥米澤穂信(登場人物の魅力に欠ける)⑦有川浩(有川さんは私の大好きな作家さんだが、前作「ストーリー・セラー」も今作もいただけない。物語のシチュエーションからすれば仕方ないとはいえ、人に対する非難攻撃ばかりを読むのはつらい。敢えて、最下位)
読了日:2月28日 著者:
Story Seller〈3〉 (新潮文庫)Story Seller〈3〉 (新潮文庫)感想
沢木耕太郎:私は女派かな。 近藤史恵:前2作に比べるともの足りず。しかし、ロードレース界の一つの現実か。 湊かなえ:好みに非ず。 有川浩:確かにATOKでは変換できず。 米澤穂信:人生というのはままならないことが多い。切ない。 佐藤友哉:セーラー服探偵萌え~ さだまさし:読まずに済まそうかと思った。『関白宣言』なんて歌うヤツの話、読みたかねーぜって。読み始めてやはり読まなければ良かったと後悔し始めた。しかしこの話、尻上がりに良くなるではないか。素敵なラストが用意されていました。
読了日:3月4日 著者:
二つ枕 (ちくま文庫)二つ枕 (ちくま文庫)感想
秀作でありんす。郭の幾分不健康だが甘酸っぱい空気、金抜きでは成り立たないが金だけではない虚々実々の関係、己に自堕落を許した生き方が浮世絵風の絵で描かれた漫画です。そこに描かれているのは「色」と「粋」。そして、それにひたすらのめり込む杉浦さんの耽溺ぶりが色濃くあらわれている。そう、人は好きな世界に耽溺してこそ、生まれてきた甲斐があろうというもの。2005年に満46歳で亡くなられた杉浦さんの内的世界を垣間見た思いがする。
読了日:3月4日 著者:杉浦 日向子
杉浦日向子の食・道・楽 (新潮文庫)杉浦日向子の食・道・楽 (新潮文庫)感想
「酒の呑み方七箇条」、御意にござりまする~。杉浦日向子氏に蕎麦屋での憩い方を教えていただき、酒を呑む時の心構えを諭していただいた今、これから老いを迎えようとする私の人生は、しみじみ味わいを深めていけるような予感がする。思えば齢五十を数えるまでは、椎名誠氏率いる「東ケト会」(東日本何でもケトばす会)に憬れ、いつか一員に加えてはいただけまいかと念願してきた。齢五十を少し過ぎた今、杉浦日向子氏が立ち上げられたという「ソ連」(ソバ屋好き連)の末席を汚させていただきたいと切に願う私である。
読了日:3月8日 著者:杉浦 日向子
ビブリア古書堂の事件手帖―栞子さんと奇妙な客人たち (メディアワークス文庫)ビブリア古書堂の事件手帖―栞子さんと奇妙な客人たち (メディアワークス文庫)感想
仮に特定の人種だけを選んで殺すことができる細菌兵器があるとすれば、それは極めて優秀な兵器となり得ましょう。本書は正にその細菌兵器です。細菌の名はビブリオ菌。ターゲットとなる人種は書痴。そうした人が本書を読み始めるやいなや、仕事であれ、勉強であれ、何らかの価値ある活動の一切は放棄され、ひたすらこの物語に没頭する。まさに書痴にとってのリーサル・ウェポンが本書です。そして読み手がたまたま男であった場合、たちまちのうちにヒロイン栞子に恋してしまうに違いないのだ。現に本書を読み終えた私の顔は熱くのぼせている。
読了日:3月9日 著者:三上 延
ビブリア古書堂の事件手帖 2 栞子さんと謎めく日常 (メディアワークス文庫)ビブリア古書堂の事件手帖 2 栞子さんと謎めく日常 (メディアワークス文庫)感想
実は本屋の手違いでこちらが先に届いた。カバーがかかっていたのでタイトルをよく確認せずこちらから読み始めた。途中で気付いて第一巻を手に入れるまで読むのをやめようかと思ったがやめることができなかった。それほどまでにこの物語に、いや、栞子さんに魅了されていた。本書を読み終えるやいなや本屋に走り、第一巻~栞子さんと奇妙な客人たち~を手に入れ、読み始めた。二巻逆一気読み。第三巻はまだ発刊されていない。禁断症状緩和のため、せめて本の虫の女性主人公が登場するという『六の宮の姫君』(北村薫・著)を読むこととしよう。
読了日:3月10日 著者:三上 延
都と京 (新潮文庫)都と京 (新潮文庫)感想
京都と東京、二つの「みやこ」の文化比較、というか思い入れのほどを思いっ切り語った本。著者ご本人によると二つのみやこに対する愛の告白だそうです。著者の奥深い洞察を充分に分かったとは言い難いが、「わからん」→「わからへん」→「わかりまへん」→「わからしまへん」と分からない度合いが雅に活用していくほどには分かった。かな?  入江敦彦氏の著書『イケズの構造』をあわせて読むと京のおかしみがさらに深まるだろう。
読了日:3月11日 著者:酒井 順子
六の宮の姫君 (創元推理文庫)六の宮の姫君 (創元推理文庫)感想
もしも私が18歳の頃、大学進学に際して文学部を選んでいたら本や作家を巡るこのようにエキサイティングな日常を送ることができていたのだろうか? 答えはおそらくノーだ。二十歳前後の私ときたら本こそ読んでいたものの、そばにいてくれる異性を渇望していたのであり、それに比べれば芥川や菊池、谷崎に対する興味などまさに大海の一滴に過ぎなかっただろう。生まれ変わったら早稲田大学文学部に入って神保町をうろつきたい。この本を読むまでは京大に入って青龍会に入部し、吉田神社レナウン娘に合わせて踊りたいと思っていたのだけれど…汗。
読了日:3月13日 著者:北村 薫
植物図鑑植物図鑑感想
甘い、とにかく甘い。物語に出てくる食べ物のことではありません。野イチゴのジャムは甘いだろうが、それ以外は甘くない。フキノトウ苦い、セイヨウカラシナほろ苦い、ノビルは生で辛くゆでて甘い、タンポポ、クレソンほろ苦い。結論として食べ物はどちらかといえばほろ苦系である。しかし、物語はあま~いのだ。おそらく有川氏の願望全開である。しっかり乙女ですね。ところでこの本は家の西側に置きましょう。風水で「西に甘いものを置くと金運が上がる」らしい。西はお金がやって来る方位で、実はお金というのは甘いものが大好きらしいのだ。
読了日:3月15日 著者:有川 浩
楽隊のうさぎ (新潮文庫)楽隊のうさぎ (新潮文庫)感想
私はブラバンどころか楽器すらやったことがない。もちろん音楽の時間にハーモニカやトライアングルを触る程度のことはあった。しかし私にも「思春期に少年から大人に変わる~♪」経験はある。男の子はいろいろな場面に男を試される。理不尽な攻撃にさらされたり、自分の力を超えているのではないかと思うような舞台に立つことを選んだとき、まさにキンタマが縮みあがるような思いをするのだ。それを乗り越えようとするのか、はたまたシッポを巻いて逃げるのか、大人のありようはそこで決まる。「シバの女王ベルキス」に挑んだ大団円。ブラボォ!!
読了日:3月17日 著者:中沢 けい
かもめ (岩波文庫)かもめ (岩波文庫)感想
北村薫氏の『六の宮の姫君』にチェーホフは《割れた壜》でいとも簡単に月夜を作ってしまうというくだりが書かれている。P136”堤防の上に割れたボトルの口がきらりと光り、水車の影が黒ずんでいた”とある。確かにすごい。しかし「月夜」という事象は誰にも明らかで、あれこれくどくど書かずとも画として読者の心に情景がうかぶだろうが、人間の行動や心の有り様というものはそれこそ人それぞれでつかみようが無い。そこを多く語らず、説明しない謎のままの戯曲にされても読者や観客は解釈に迷う。私には分からない。まことに困ったことです。
読了日:3月19日 著者:チェーホフ
魚舟・獣舟 (光文社文庫)魚舟・獣舟 (光文社文庫)感想
上田さんの御著書は『ラ・パティスリー』から読ませていただいたので、本書では全くの別人がお書きになったもののように感じた。いろいろな引き出しをお持ちのようです。どちらの上田さんが好きかと問われれば、今のところSFに一票といったところです。読者を作品世界に引き込む力はそうとうなもの。上田ワールドに遊ばせていただきました。上田さんは物語をいくらでも紡ぐことができる方なのでしょう。物語を読むだけの人としてはまことに羨ましく、尊敬と共に軽くジェラシーを感じます。
読了日:3月22日 著者:上田 早夕里
夏天の虹―みをつくし料理帖 (角川春樹事務所 (時代小説文庫))夏天の虹―みをつくし料理帖 (角川春樹事務所 (時代小説文庫))感想
小松原様の行動はまさにノーブレス・オブリージュ。世間からの非難を覚悟の上で、周りの者すべてが上手くいくように配慮する。特に弱い者が傷つくことの無いように心を砕く。周りからの非難の目にも押しつぶされることなく、超然としていられるだけの心と力、両面の強さがあってこそこれができる。まさに高貴な者であるからこその行いだ。そして身分は低くとも澪の心も高潔そのもの。それにしても澪と小松原双方の高貴さが二人の将来に立ちはだかる大きな壁になろうとは皮肉としか言いようがない。それはそうと一年間は長いよぅ、高田さん。
読了日:3月23日 著者:高田 郁
レインツリーの国 (新潮文庫)レインツリーの国 (新潮文庫)感想
本がきっかけで知り合い、その人と自分と考えが合うことが判る。やがてその人を好きになる。その人のためになにかをしてあげたくなる。その人のための苦労が嬉しいと思うようになる。素敵なことじゃないですか。人を好きになるというただそれだけのことで、世界は昨日とは変わる。幸せがそこにある。人生はすばらしい。
読了日:3月26日 著者:有川 浩
ミノタウロス (講談社文庫)ミノタウロス (講談社文庫)感想
ミノタウロス。「ミノス王の牛」。牛頭人身の獣。太陽神ヘリオスの娘パシパエが雄牛と交わってできた罪の子。男を嬲り殺し、女を陵辱し快楽を貪る罪は、この生まれ故か。そして肺と頭蓋を銃弾に打ち貫かれた死もまた罪の報いなのか。ミノタウロスは主人公ヴァシリ・ペトローヴィチの運命のメタファー。読み終えた後、しばし放心しました。殺伐とした世界、甘さのかけらもない乾いた視線、事の本質を鋭くえぐるセンテンスの数々は圧倒的な力を持って私に迫ってきました。この物語が日本人によって書かれたということが信じられない思いです。
読了日:3月31日 著者:佐藤 亜紀
三匹のおっさん (文春文庫)三匹のおっさん (文春文庫)感想
おもしろいっ! アラ還ものとしては重松清氏の『定年ゴジラ』と双璧でしょう。これはもう、若者から中年から老年、男であれ女であれ、レディーだろうがオバサンだろうがオバンだろうが、オジンだろうがオッサンだろうがおじさまだろうがにーちゃんだろうが、老若男女だれにでも愛される小説だ。「あとがき」+「文庫本あとがき」+「特別収録・ラジオビタミン・児玉清の読み出したら止まらない 書き起こし」+「中江有里さんの解説・愛すべきおっさん。」というサービス四段ロケットで私は昇天しました。文春文庫万歳!!
読了日:4月3日 著者:有川 浩
野分一過―酔いどれ小籐次留書 (幻冬舎文庫)野分一過―酔いどれ小籐次留書 (幻冬舎文庫)感想
小説を読み切った翌朝、今日は何を読むかと本棚を眺めるのを常としている。『野分一過』は夏過ぎ台風シーズンに読もうと思っていたのだが、昨日4月3日は記録的な春の嵐。すぅっと手が伸びた。風速40mの突風と雨が吹き荒れる中、臨場感たっぷりに読みました。前巻『杜若艶姿』では想いを寄する人おりょう様と結ばれ、「眼千両」「杜若半四郎」と称せられる岩井半四郎率いる市村座の興業におりょう様をエスコートした小籐次。今巻、小籐次はあくまで分をわきまえた振る舞いながらも、おりょう様は積極的。小籐次よ、この、このっ、幸せ者め!
読了日:4月4日 著者:佐伯 泰英
空飛ぶ馬 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)空飛ぶ馬 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)感想
何気ない日常が、そこに潜む謎によって色合いを与えられる。人が死なないミステリは良い。誰にでもありそうな日常だけに、かえってリアリティーがあるからだ。ミステリとして秀逸なのは「赤頭巾」。たまたま歯医者の待合室で隣り合わせたおばさんとの会話で、子供の頃からほのかなあこがれを抱いていた女性の秘密と意外な一面があぶり出される。表題作「空飛ぶ馬」は温かみがあってすばらしい作品だ。クリスマスにもう一度読み返すのもよいだろう。クリスマスに「空飛ぶ馬」を読み、大晦日には落語「芝浜」を聴く。心温まる年の瀬になるに違いない。
読了日:4月10日 著者:北村 薫
春宵十話 随筆集/数学者が綴る人生1 (光文社文庫)春宵十話 随筆集/数学者が綴る人生1 (光文社文庫)感想
岡潔氏は数学と美術を同じものだという。同時に数学において大切なのは情緒なのだとも。これはまったく逆説的であって、我々はそれをにわかには理解できない。しかし「数学をやって何になるのか」という問いに対する氏の答えを聞いたとき、それがすうっと腑に落ち真実に違いないと判るのだ。曰く「私は春の野に咲くスミレはただスミレらしく咲いているだけでいいと思っている。咲くことがどんなによいことであろうとなかろうと、それはスミレのあずかり知らないことだ。咲いているのといないのではおのずから違うというだけのことである」
読了日:4月12日 著者:岡 潔
傍聞き (双葉文庫)傍聞き (双葉文庫)感想
長岡弘樹氏は「STORY BOX」連載の『初任』を読んで注目していた作家。表題作『傍聞き』も素晴らしかったが、私のお気に入りは『迷い箱』です。どちらのお話も謎解きの楽しみと驚きだけでなく、その謎に人情がにじみ出ています。単なる謎解きゲームではなく、謎解きの先に人間が見えてくるといえばいいのでしょうか。ミステリー小説はこうでなくてはいけません。ブラボー!!
読了日:4月12日 著者:長岡 弘樹
夜の蝉 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)夜の蝉 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)感想
信号待ちの寸暇を惜しんで本を読む父、二人の娘は美人姉妹だ。姉はちょっと怖いぐらい圧倒的な美人。妹は派手さはないものの、いくぶん少女の面影を残した美人。そんな姉妹は何となくぎくしゃくしている。子供の頃の父の愛情をめぐるお互いの「嫉妬」に端を発している。表題作『夜の蝉』はそんな姉妹の心情と、姉の恋愛にからむ嫉妬がテーマ。そして『六月の花嫁』は「はじらい」がテーマではないでしょうか。「何をどれぐらい表にし裏にするかは人によって違う。その割合こそがその人らしさを作るのでしょう」という円紫さんの言葉に肯きました。
読了日:4月16日 著者:北村 薫
秋の花 (創元推理文庫)秋の花 (創元推理文庫)感想
「小説が書かれ読まれるのは、人生がただ一度しかないことへの抗議からだ」とは作中、円紫師匠の言葉。そう、人生はただ一度しかない。そして人はただ一度しかない人生で天寿を全うできるとは限らない。神の悪意を感じるほどの悲運もあり得る。悪意のかけらもない人の行動が引き起こす過酷な運命。この世に神はいない。しかし人の心の中には菩薩が住む。そこに救いがある。円紫師匠は酸いも甘いも噛み分けた大人だ。難解な謎を解く明晰な頭脳だけでなく、人の心を思いやる優しさがある。このシリーズが再々の読み直しにも耐えうる所以である。
読了日:4月20日 著者:北村 薫
朝霧 (創元推理文庫)朝霧 (創元推理文庫)感想
主人公〈私〉も社会人になっちゃったのか。なぜかこの娘が大人になっていくのが切ない。娘の成長を見守る父の気分になってしまっている。成長を応援したい。恋もして欲しい。しかし、それを思うとちょっと切ないのが親父の気持ちだ。今作は「恋」がテーマ。もし、次作が上梓されるならば、主人公の恋の行方が描かれるのだろう。読みたい気持ちと読みたくない気持ちが相半ばしてせめぎ合っている。いつか〈私〉が「虎」を指さしたくなるほどの恋をするのかも知れないと思うと、胸が張り裂けそうになる。親父の気持ちは切なく複雑だ。
読了日:4月28日 著者:北村 薫