佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

我、言挙げす

『我、言挙げす』(宇江佐真理・著/文春文庫)を読みました。

 

まずは出版社の紹介文を引きます。


晴れて番方若同心となった不破龍之進は、伊三次や朋輩達とともに江戸の町を奔走する。市中を騒がす奇矯な侍集団、不正を噂される隠密同心、失踪した大名家の姫君等々、自らの正義に殉じた人々の残像が、ひとつまたひとつと、龍之進の胸に刻まれてゆく。一方、お文はお座敷帰りに奇妙な辻占いと出会うが…。


このシリーズも第7作をかぞえる。このところ伊三次よりも龍之進が主人公になる話が多くなっている。少年から青年に成長する過程で、様々な葛藤に立ち向かう心意気が好もしい。その意気や良し。しかし、宇江佐さんはそうした姿を描きながらも、ここに「言挙げ」という概念を持ってきた。言挙げとは「神をも畏れず、己の考えを言い立てること」。言葉には呪力がある。昨今、欧米的価値観から、自らの意志を積極的に表明することが奨励されるが、古来の日本的価値観では自己主張は慎み、神の意志に従って行動するというものであったはず。特に、経験も思索も浅い若輩にあってはそのような心がけも時には必要と言うことか。それはおそらく人の言動というものは、個人を超えて公におよぶからなのだろう。