佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

『刀圭』(中島要・著/光文社文庫)

『刀圭』(中島要・著/光文社時代小説文庫)を読みました。私にとって初めての中島要氏の小説です。

まずは出版社の紹介文を引きます。

 長患いを負い目にし、自害を試みた一三(いちぞう)を救った若き医者・圭吾(けいご)。日本橋福島町の長屋に居着き、住人から頼りにされていた。だが、懇意にする薬種問屋の若旦那とのいざこざから、薬が手に入らなくなる。亡き父から託された教えを胸に刻みながらも、圭吾は志を失いかけていた。そこに永代橋が落ち、多くの怪我人が出たとの報(しら)せが。小説宝石新人賞作家の長編デビュー作。

 

刀圭 (光文社時代小説文庫)

刀圭 (光文社時代小説文庫)

 

 

 生きていれば仕方が無いと了見できない理不尽があるものだ。流行病、火事、天災、突然の犯罪被害、謂われなき中傷。そうしたときにどうして皆が助け合い励まし合って生きて行けないのだろうと悔しい思いが募る。しかし世の中、本音と建て前、裏と表、公と私、皆がそれぞれ事情を抱えている。皆が己と己に近しい者を守るのに精一杯なのだ。邪な考えを持つ者も多い。怪我や病を得て苦しむ人をただ助けたいという純粋な思いは現実の前でしばしば思うに任せない。主人公・圭吾の葛藤は懸命に生きようとする者すべてに通底する祈りに似た想いだろう。真っ直ぐな小説でした。