佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

『なぜ若者は老人に席を譲らなくなったのか』(大林宣彦:著/幻冬舎新書)

『なぜ若者は老人に席を譲らなくなったのか』(大林宣彦:著/幻冬舎新書)を読みました。

 まずは出版社の紹介文を引きます。

老人に席を譲らない若者を責めるのは間違っている。責任は、長く生きることの尊さを教えてこなかったぼくら大人にある。戦前は、「心」がどうあるべきかを教えることのできる大人が大勢いた。しかし戦後、豊かで便利な生活を目指すあまり、誰もがモノやカネに執着し、結果、美しい日本の風習や風景がどんどん消えた。ぼくらはそれを嘆くが、まさに自業自得。今こそ、古き良き文化や知恵を若者や子供に伝える最後のチャンスだ。それができないぼくらに、もはや存在価値はない。言っておかなければ絶対に後悔する、魂の人生論。

 

 

 

  タイトルとなった「なぜ若者は老人に席を譲らなくなったのか」の答えを探して本書を読んではいけない。その答えは本書に無い。いや書いてない訳では無いが、それは当を得ていない。タイトルが本を買う動機の大きなものとなることを考えれば、本書にこのタイトルをつけたのは間違いである。読者をミスリードしてしまうだろう。
 本書の主題はタイトルから想像されるような若者批判では無い。本書が書かれるにあたって大林氏と出版社にあった思いは「日本を殺すな」であったという。敗戦とそれによる価値観の転換で日本が失ったものは大きい。今、日本は瀕死の状態にある。そうした前提をもとに、失ってはならないものは「文化」であり「心のあり方としての正気」であるという。
「モノと金」が幸せの尺度であったかつての日本を反省し、その責任は自分たちの世代にあるとし、今大切にすべきは何か、大人は子どもたちに何をどう伝えるべきかを考える。それが本書の主題です。
 大林監督が製作なさった映画『転校生』を観てみよう。子どもの頃に読まれた『みずうみ』(テオドール・シュトルム)を読んでみよう。今月10日に永遠の眠りにつかれた著者が何を伝えようとなさっていたか、何を大切になさっていたかがもう少し判るかもしれない。