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ウェルズの日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

『ワニはいかにして愛を語り合うか』(竹内久美子・日高敏隆:著/新潮文庫)

『ワニはいかにして愛を語り合うか』(竹内久美子日高敏隆:著/新潮文庫)を読みました。

まずは出版社の紹介文を引きます。

 オスガエルは必死に鳴いて思いの丈を伝えます。何千羽も同時に出産するコウモリには、親子の合言葉があります。ご馳走を見つけたチンパンジーは、叫び声で仲間に知らせます。動物たちは結構うまく意思を伝えているようなのに、すごく頭がいいはずの人間はなぜ、自分の気持が分ってもらえないと悩むのでしょう。それば昔ワニだったことを、私たち人間が忘れてしまったからなのです。

 

 

ワニはいかにして愛を語り合うか (新潮文庫)
 

 

古本屋の100円コーナーを物色する中、ふと目にとまった一冊。竹内久美子氏の著書については以前に人間の愛も憎しみもすべてその行動は遺伝子の仕業であると行った内容のものを、日高敏隆氏の著書については蝶をはじめ昆虫の行動について書かれたものをはじめ動物行動学関連のものを沢山読んできた。このお二人の共著となればオモシロくないわけはない。しかもこの題『ワニはいかにして愛を語り合うか』である。興味深いではないか。私はかれこれ56年生きてきているが、ワニが愛を語り合っている現場に遭遇したことはない。そこにどんな珍しい光景を見ることができるのか、知りたい。それに加えて裏表紙の紹介文にある一文「動物たちは結構うまく意思を伝えているようなのに、すごく頭がいいはずの人間はなぜ、自分の気持が分ってもらえないと悩むのでしょう。それば昔ワニだったことを、私たち人間が忘れてしまったからなのです」。なんだと? 人間が昔ワニだっただと? いったいどういうことなのだ? えっ? えっ? と抑えきれぬ興味が入道雲のようにムクムクとわき上がり、購入決定と相成った。

目次は以下のとおり。

 ●プロローグ かつて人間は「ワニ」であった

 ●音の信号

  1. カエルの集団見合い 居候は損か得か
  2. トリたちの紳士的な争い なわばりと婚姻形態
  3. 周期ゼミが誕生する日 捕食者を避ける知恵
  4. ウサギの耳はなぜ長い? 包括適応度のはなし
  5. ゴリラとオランウータン 一夫多妻の類人猿
  6. チンパンジーのお祭り騒ぎ 乱婚の絆
  7. カヤネズミの密談 母と子の超音波対話

 ●愛が先か、ことばが先か?

 ●匂いの信号

  1. 女王バチの出世街道 匂いの権力構造
  2. ほ乳類の糞尿合戦 平和に戦う方法
  3. ネコがトイレを決めるわけ 匂い付けときれいずき
  4. メス蛾の華麗なる誘惑 匂いの動物神話
  5. メスの匂いとオスの匂い 哺乳類ののフェロモン

 ●ジャコウの勾いは女を惑わせる?
 ●視覚の信号

  1. 蝶の翅はなぜ美しい? 極彩色の不思議な力
  2. ドクチョウの警告 捕食者攪乱大作戦
  3. サルのおしりはなぜ赤い? 生殖を目的としない交尾
  4. 類人猿は年増が好き? 魅力の遺伝学
  5. ゲラダヒヒの赤いハート 性信号となだめの信号
  6. シッポのはなし 役に立つ無用の長物

 ●ワニはいかにして愛を語り合うか?

 

 すべての話に驚きがあり、興味深いものばかりだ。その中でも私が最も興味を引かれたのは「周期ゼミが誕生する日 捕食者を避ける知恵」であった。北アメリカ東部に棲息するセミには十三年や十七年を周期として一斉に地上に出てきて羽化する種があるそうだ。セミは長い年月を地下で若虫(セミの子)として過ごす。普通のセミの若虫は地下での成長と地上での羽化という過程について、若虫ごとにずれがある。しかし周期ゼミはそれぞれの若虫の成長にずれがなく完全に同期しているらしい。彼らが地上に出るのは十三年とか十七年に一度、それも一夜のうちに、それもわずか二~三時間のうちに地上に現れて羽化するというのだ。このセミは発生時期が特定されるだけでなく、分布の仕方も特定のところに集中しているらしいのだ。ということは、前日まで全くセミの気配さえなかった場所に、ある日突然、そに集中してセミが大量発生するという。信じがたいことだがYouTubeを検索してみると多くの映像がアップされており確認することができた。どうやらウソではないようだ。そりゃそうでしょう。竹内久美子氏が日高敏隆氏との共著でほらを吹けるわけがない。


17年ゼミと13年ゼミ

十三も十七も素数である。二つの周期で羽化するセミが同時に発生する年は221年に一度だけめぐってくる。二つの種がこの周期で存続している理由を上の動画では交雑を避けるためだという説をとっているようだ。実際にこの二つの種が同時発生するエリアがあるらしく、動画では交雑の可能性に言及している。交雑種がやはり十三年あるいは十七年周期の種となるのか、あるいは十四年、十五年、十六年の種に変異するのか、そのあたりはまだ明らかになってはいないが、十数年後には解明されそうだ。悠久の歴史の中で13と17という周期を選んだ理由が捕食者との生活周期を最小限にする知恵なのか、交雑を避けるためなのかは現時点で定かでない。あるいは他の想像もつかない理由によるものかもしれない。そのあたりは今後、生物学者(ひょっとして数学者など他の分野の学者?)によって明らかにされるに違いない。なのに私のように科学に疎く本ばかり読んでいるような人間は「二百二十一年に一度の逢瀬とは・・・なんて浪漫チックなんだ」などと頓珍漢なことを考えているのだ。つくづく無益な人間なのだな、私は。