『アンソロジー カレーライス!!大盛り』(杉田淳子・編/ちくま文庫)を読みました。
まずは出版社の紹介文を引きます。
鼻をくすぐるスパイスの香りと、舌にピリリと残るほど良い辛さ―老若男女に愛される“日本人のソウルフード”カレーライス。こだわりの食べ方・調理法からカレーにまつわる家族や友人の思い出、そしてもちろん国内外で食べた忘れられない絶品カレーの味まで、作家・著名人が綴った至高のカレー・エッセイをボリュームたっぷり44篇収録。読んだら絶対カレーが食べたくなる?!
44人の作家・著名人によるカレーライス礼讃。アンソロジーとして杉田淳子氏によって編纂されたもの。
面倒だが44篇すべての目次を載せておく。
カレーライス(池波正太郎)
昔カレー(向田邦子)
カレーと煙草(林真理子)
ほんとうのライスカレー(井上靖)
カレーはぼくにとってアヘンである(安西水丸)
料理人は片づけながら仕事をする(伊丹十三)
カレーライス(北杜夫)
カレー好き(阿川佐和子)
夏はやっぱりカレーです(平松洋子)
私のカレー・ライス(宇野千代)
カレーライス[西欧式]、カレーライス[インド式](檀一雄)
カレーライスをチンケに食う(村松友視)
ライスカレー(吉行淳之介)
歩兵の思想(寺山修司)
議論(獅子文六)
カレー党異聞(神吉拓郎)
米の味・カレーの味(阿川弘之)
即席カレーくらべ(吉本隆明)
大阪「自由軒」のカレー(東海林さだお)
アルプスの臨界現象カレー(藤原新也)
洋食屋さんのキングだ(山本一力)
カツカレーの春(五木寛之)
芥子飯(内田百閒)
子供の頃のカレー(中島らも)
ライスカレー(滝田ゆう)
悪魔のライスカレー(小泉武夫)
カレーの恥辱(町田康)
ビルマのカレー(古山高麗雄)
カレー中毒(清水幾太郎)
ジョディのカレー(石田ゆうすけ)
インドのカレー(石川直樹)
カレー、ですか・・・・・・(角田光代)
カレーあれこれ(石井好子)
カレーライス(内館牧子)
カレーライス(伊集院静)
インド人もびっくり(赤瀬川原平)
カレーライス(久住昌之)
カレーのマナー(泉麻人)
セントルイス・カレーライス・ブルース(井上ひさし)
処女作前夜 ライス・カレー(小津安二郎)
カレーライス(山口瞳)
カツカレーの町(ねじめ正一)
カレーライスとカルマ(よしもとばなな)
紙のようなカレーの夢(色川武夫)
そうそうたるメンバーである。これらの方がカレーについて書く、それも熱く語るというところにカレーライス(あるいはライスカレー)がいかに愛されているかが分かる。私はこれまでカレーライスが嫌いだという人に会ったことがない。もちろんカレーライスが嫌いだという人が皆無だとは思わない。しかし探してやっと見つかるぐらいの数であろうことは想像に難くない。子供の頃、私の家のカレーは牛肉や豚肉ではなく鶏肉入りであった。そして私は鶏肉が大嫌いであった。そうであっても、鶏肉入りのカレーを鶏肉を取り分けて食べていた。一度はカレーをおかわりし続け、あげくに食べ過ぎで医者にかかったことがあるほどである。親は慌てたろうが、医者は「バカな子供だ」と笑ったに違いない。
そうなのだ。私はカレーが大好きなのだ。ちなみに私の好きな食べものは「カレー」「トンカツ」「味噌汁」である。これから先、それらを食べない人生と「松茸」「キャビア」「フォアグラ」を食べない人生と、どちらかを選べと言われれば即座に後者を選ぶ。仮に比較対象が「刺身」や「鮨」、「しゃぶしゃぶ」、「ビーフステーキ」その他であっても結果は同じだ。これは本当にうまいものは何かなどという味覚論争とは埒外の話であって、私の育ちというか子供の頃に刷り込まれた変えがたい価値観のようなものであってどうしようもない部分のものなのです。例えば、いわゆる絶世の美人といった整った顔立ちの女性と私好みの顔立ち(それがどのようなものなのかをここで語るわけにはいかないし、語ったところで他人には到底理解しにくいでしょうが)の女性、どちらかを選べといわれたら、即座に後者を選ぶということと同じなのです。つまり個人の趣味嗜好というのはまことに多種多様で、マジョリティとしての共通認識は形成されたとしても、個人としては必ずしもマジョリティが正解ではないということなのです。
さらに、不用意にも「私はカレーが大好きだ」などと言ってしまいましたが、その「カレー」にもいろいろあって、本書に収められた44人それぞれに好みに違いがあるということ。そのことは大変重要なことだと思われます。そのあたりをいちいち書いていくとややこしい。もしそれを知りたければ本書を読んでいただきたい。
いずれにしても本書を読んで読みたい本が増えてしまった。行きたい店も増えた。それはたくさんの付箋に現れています。いつになったら読めるのか、いつになったらその店にいけるのかは分かりません。ひょっとしたら読まずに死んでしまう、その店に行かずに死んでしまうことになるのかもしれません。いや、むしろそうなりそうな気がします。遠い先のことは考えても仕方がありません。とりあえず明日の昼飯はカレーにしましょうか。