佐々陽太朗の日記

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村上春樹訳で「ロング・グッドバイ」を読む

レイモンド・チャンドラーの名作「長いお別れ -THE LONG GOODBYE-」を村上春樹訳で読んだ。

ロング・グッドバイ

ロング・グッドバイ

私は20年近く前にこれを清水俊二氏の訳で読んでいる。手元にある清水氏の訳はハヤカワ・ミステリ文庫昭和51年4月30日発行、昭和62年2月28日・30刷である。何度か読み返したのでカバーがボロボロである。
最近、村上氏の訳が出たと知り、春樹ファンの私としては即刻購入したしだい。(通常、私は単行本を買わない。持ち歩けないから)
村上氏の訳では邦題が「ロング・グッドバイ」となっている。「長いお別れ」としなかったのは、おそらく清水俊二氏に敬意を払ってのことだろう。
読んでみた感想は「やはり村上氏は文章が上手い」である。洒落た言い回しも厭味でない。清水氏の訳と比べてどうかというと意見の分かれるところだろう。そもそも比べるべきものではないような気がする。村上氏もわざわざ邦題を変えているのだから。
しかし、あえてどちらが好みかといえば村上氏の訳か。原因ははっきりしている。30年近く月日が経てば言葉づかいや微妙な言い回し、それを読む人の共通認識などが変わっている。一言で言えば古臭くなってしまうのである。これは如何ともしがたいだろう。村上氏のフィリップ・マーロウのほうが清水氏のマーロウに比べて少し饒舌なような気がする。古くからのファンにはそこが嫌いになるかもしれない。村上氏の訳でいただけない点がひとつある。「はんちく」という言葉を使っているところである。私は普通の会話でこの言葉を聴いた事がない。これを清水氏は「チンピラ」と訳している。そのほうがしっくりくる。原文を読んでいないので何という単語をこう訳したのかわからないが、清水氏の使った「チンピラ」か、あるいは「ケチな野郎」ぐらいが適当ではなかったかと思うのである。

作中の素敵な言い回しを少しご紹介

  • さよならを言うのは、少しだけ死ぬことだ。
  • 「元気でやってくれ、アミーゴ。さよならは言いたくない。さよならは、まだ心が通っていたときにすでに口にした。それは哀しく、孤独で、さきのないさよならだった」