藤沢周平の初期市井小説6篇が納められている。
中でも「おふく」が良い。
造酒蔵とおふくは幼なじみだ。幼く淡い気持ちながらお互いに想い合っている。おふくの父親がケガのために働けなくなり、おふくは売られてしまう。長じてかざり職人となった造酒蔵は金をかりて店に上がるが売れっ子のおふくには逢えない。その後、おふくの消息もわからなくなるが、造酒蔵の心からおふくが消えることはなかった・・・・・
悲しい話だ。しかし、たとえ思いが遂げられなくとも、たった一人の女性を思い続ける一生。すばらしいではないか。
悲しくとも、密度の濃い想い。淡くとも深い人生。そんな生き方がここにはある。