佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

旅のラゴス

2011/03/23

 

「わしらがご先祖のこの地に来なさったは今を去ること二千二百年の昔、詳しくは二千二百と十五年、三ヵ月と四日になる。ご先祖が罪とけがれの極みに達したその黄色い星を捨てなされて出発した時その人数はきっかり千。この地に着いた時は千と三人。二人死んで五人生まれたとやら。宇宙の暗闇をわしらの暦で足かけ三年、この船は光を追い越して飛んだのじゃ」

                                        (本書P106より)

 

 

 『旅のラゴス』(筒井康隆/著・新潮文庫)を読みました。

 

 裏表紙の紹介文を引きます。


  北から南へ、そして南から北へ。突然高度な文明を失った代償として、人びとが超能力を獲得しだした「この世界」で、ひたすら旅を続ける男ラゴス。集団転移、壁抜けなどの体験を繰り返し、二度も奴隷の身に落とされながら、生涯をかけて旅をするラゴスの目的は何か?異空間と異時間がクロスする不思議な物語世界に人間の一生と文明の消長をかっちりと構築した爽快な連作長編。


 

 1986年に書かれた作品である。はじめ徳間書店から出版されたようだが、後に新潮文庫の出版となった模様。

 私の中で筒井氏といえばギャグ、ウィット、あるいは諧謔といったイメージが強い。ところがところがである。本書において主人公ラゴスは常識を大切にする極めつけの善人だ。他に対する攻撃性や棘など持ち合わせず、紳士として振る舞う真っ当な男。ややリリシズム過剰なところが格好良く、そこがまた女心をくすぐる、そんな男の一生をかけた旅を描いた物語なのだ。筒井版「西遊記」とでも申しましょうか……

 筒井氏お得意のギャグ、ウィット、あるいは諧謔とはほど遠い小説であるが、これがまた素晴らしい物語です。。こんなロマンチックな小説も書かれるのですね、筒井先生。改めてスゴイ方なのだなぁと山より高く尊敬します。そしてこのSFファンタジーを海より深くしみじみと味わわせていただきました。