佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

板谷バカ三代

この10年  虫だと思って つきあってきました。

                                 (西原理恵子

 

 『板谷バカ三代』(ゲッツ板谷・著/角川文庫)を読みました。

 将さんのオススメ本です。将さんのお薦めが無ければおそらく読んでいなかったと思います。「読んで良かった」これが正直な感想です。将さんには池井戸潤氏の金融ミステリの面白さも教えていただきました。池井戸氏は今年『下町ロケット』で第145回直木賞を受賞されましたね。将さんの目は確かです。将さん、ありがとうございました。

 

 まずは裏表紙の紹介文を引きましょう。


 初代・バアさん…古くなったパンストを帽子にしている大正生まれ。趣味はふりかけ作り。2代目・ケンちゃん…火炎放射器で我が家を全焼させた家長。趣味はベンチプレス。3代目・セージ…30過ぎても机の中には爆竹が満杯。趣味はポストの投函口の匂いをかぐこと。バカの「黒帯」たちが繰り広げる戦慄のバカ合戦が、貴方の腹をよじりまくり!立川の“ナイスなスポット”をナビる「アド街ック地獄」、各界の“板谷家”ファンからのメッセージ「We love“バカ三代”」を収録。読めば必ず元気が湧き出る、全人類必読の超絶コラム。


 

 まさに「抱腹絶倒」という言葉がピッタリの一冊。笑いすぎて涙が出ます。しかしその涙は決して笑いすぎたためだけに流したものではない。人は何かが心の琴線に触れたとき目頭を熱くする生き物です。本書に登場する人々は皆、バカです。それも超ド級のバカです。著者の言葉を借りれば「核兵器級のバカ」です。悲しいことにその表現に偽りはありません。しかし、どんなにバカだろうと、どんなにやっていることがむちゃくちゃだろうと、このバカどもには心の琴線にふれるなにかがあります。それはおそらく真心だろう。たとえば著者がバカの真打ちという父ケンちゃんは18歳の時から某自動車会社に定年になるまで勤め42年間無遅刻無欠勤、有給休暇など一度も取得せず、8時半始業のところ6時半には会社に行くようにしていたという。バカといえばバカかもしれない。しかしバカはバカでも愛すべきバカだ。そう、板谷家のバカは忌むべき小賢しさの対局にあるのだ。本書が読者に愛される所以でありましょう。

 この本はゲッツ板谷氏が自分のおバカな家族に降り注ぐ暖かい目差しに満ちあふれています。「あ~ぁ、イタイ野郎どもだなぁ、まったく……」といいながら家族を見つめる温かいまなざしは愛に満ちあふれています。そして著者のゲッツ板谷氏もまた、それと同じまなざしを人から受けているバカです。よしもとばなな氏をして「板谷家よ永遠なれ!」と言わしめ、矢井田瞳氏から「えーっと、一度、みんなで食事会でも是非……」と親愛の情を示されているではないですか。そして本書にイラストと漫画を寄せている西原理恵子氏はゲッツ板谷氏と家族ぐるみの付き合いのようだ。冒頭に引用したのは本書に挿入されている西原氏の漫画の最後に添えられた言葉です。「この10年 虫だと思って つきあってきました」 なんと愛に満ちあふれた言葉ではないか。