佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

『海の見える理髪店』(荻原浩・著/集英社)

『海の見える理髪店』(荻原浩・著/集英社)を読みました。

まずは出版社の紹介文を引きます。

主の腕に惚れた大物俳優や政財界の名士が通いつめた伝説の床屋。ある事情からその店に最初で最後の予約を入れた僕と店主との特別な時間が始まる「海の見える理髪店」。意識を押しつける画家の母から必死に逃れて16年。理由あって懐かしい町に帰った私と母との思いもよらない再会を描く「いつか来た道」。仕事ばかりの夫と口うるさい義母に反発。子連れで実家に帰った祥子のもとに、その晩から不思議なメールが届き始める「遠くから来た手紙」。親の離婚で母の実家に連れられてきた茜は、家出をして海を目指す「空は今日もスカイ」。父の形見を修理するために足を運んだ時計屋で、忘れていた父との思い出の断片が次々によみがえる「時のない時計」。数年前に中学生の娘が急逝。悲嘆に暮れる日々を過ごしてきた夫婦が娘に代わり、成人式に替え玉出席しようと奮闘する「成人式」。伝えられなかった言葉。忘れられない後悔。もしも「あの時」に戻ることができたら……。誰の人生にも必ず訪れる、喪失の悲しみとその先に灯る小さな光が胸に染みる家族小説集。

 

海の見える理髪店

海の見える理髪店

 

 

 にっぽん丸で種子島へのクルーズ中に読みました。船内のライブラリーにあったのです。第155回直木賞受賞作だけにおそらく図書館では順番待ち、私のように文庫化されてから読む読者ならもっと先まで待たねばならないところでしょう。ラッキーでした。他の人より早く乗船したのも良かったのかもしれません。(もう一冊、石原慎太郎氏の著書『天才』もつれ合いが借りています。これも今から読むつもりです)

 父と息子、母と娘、夫と妻、人は皆、家族の幸せを願っている。それは祈りに近い切ない思いだ。しかしたいていの場合、その通りにはならない。たとえ思い通りの家族の姿を手に入れたと思っても、よき時は儚く姿を変えてしまうものだ。それだけに幸せな刹那は決してわすれられない宝物だ。しかしその宝物が輝いていればいるほど、大切にすればするほど、それを失った哀しみは深く鬱々たるものだ。その人を失って心に空いた穴は決して無くなりはしない。その傷跡は決して無くなりはしないけれど、無理にでも少しずつ癒やしていかなければならない。なぜならそれが先立った者の願いであるはずだから。そういうことかな。