佐々陽太朗の日記

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『死者の代弁者 上・下』(オースン・スコット・カード:著/塚本淳二:訳/ハヤカワ文庫)

2021/01/27

『死者の代弁者 上・下』(オースン・スコット・カード:著/塚本淳二:訳/ハヤカワ文庫)を読みました。

 まずは出版社の紹介文を引きます。

 宇宙に進出しはじめた人類が初めて遭遇した地球人以外の知的生命体、それが昆虫型異星人のバガーだった。だがコミュニケーション不足のため戦争となり、最終的には双方の種族に不幸な事態を招いてしまった。その事件から3千年、銀河各地に植民して領土を広げていった人類はついに第二の知的生命体に遭遇した。あらたに発見した惑星ルジタニアに入植しようとしたところ、森に住んでいる動物ピギーが高度の知性と能力を持っているとわかったのだ。今度こそバガーのときのような過ちは繰り返すまい…。人類はピギーと慎重に交渉しはじめたが。ヒューゴー賞ネビュラ賞受賞。

 

死者の代弁者〈上〉

死者の代弁者〈上〉

 

 

 ルジタニアの原住種族ピギーを研究していた異類学者ピポがピギーに殺害されてしまった。それも残酷きわまりない殺し方で。からだのあちこちを切り裂かれ、地面にばらばらに並べられていたのだ。死んだピポになりかわり、ピポがするはずの話をしてほしい,その真実の生涯について語ってもらいたい。そういう依頼を受けた〈死者の代弁者〉エンダーは、さっそくルジアニアをめざし旅立った。ピギーの未来を、さらには人類の未来をも変えるために…。前作『エンダーのゲーム』に続いて、2年連続でヒューゴー、ネヴュラ両賞を受賞した傑作長篇。

 

  前作『エンダーのゲーム』を読み終えたのが今月の21日。そしてその続編の本書『死者の代弁者』の上下巻を今日読み終えた。その間に映画『エンダーのゲーム』も観た。

jhon-wells.hatenablog.com

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 正直なところ、前作『エンダーのゲーム』(野口幸夫:訳)を読んだ後つづけて翻訳ものを読むことに少々抵抗があった。というのも、読んだ『エンダーのゲーム』(野口幸夫:訳)が新訳版でなく、直訳っぽい文章が延々と540Pにわたったので翻訳ものに食傷気味だったのだ。しかし、だからといって続編『死者の代弁者』を読まないわけにはいかない。『エンダーのゲーム』がその読みにくさにかかわらず飛び切り面白かったし、このまま続編に進まなければ、登場人物や小説上の設定や世界観を忘れてしまうことも危惧される。本もずっと前に古書店で購入して本棚で手に取られるのを待っているとなれば、即刻読むしかないではないか。

 ということで読んでみた。上巻333P、下巻323Pの大作である。多少時間がかかったが読み終えた。訳も塚本淳二氏のものは幾分読みやすかった。記憶に新しいので『エンダーのゲーム』の最後の章「死者の代弁者」からそのまま新しい物語に入ることができた。ただ『エンダーのゲーム』が戦士として異彩を放つ少年の成長と異星人との戦いに主題があったのに対し、『死者の代弁者』では戦う者から語る者に変貌を遂げている。もちろんもう少年ではなく、30代の半ばの大人です。前作から20才あまり年をとったわけですが、前作(異星人バガーを殲滅して)からおおよそ3千年の年月が経過しています。どうして3千年も経っているのにエンダーは20才あまりしか年をとっていないのかは相対性効果によっています。つまり「速度における時間の遅れ」によってそうした差が生じたということらしい。バガーを殲滅した戦いの後、エンダーは姉のヴァレンタインとともに恒星間を超高速で旅し続けていたため、エンダーとヴァレンタインにかかる時間経過は20年あまりだが、世の時間軸では3千年が経過しているというからくり。ここからはウィキペディアの受け売りだが、「特殊相対性理論では、基準となる慣性系内の観測者から見ると、観測者に相対して動いている時計は、観測者の基準系内で静止している時計よりも時間の進みが遅くなって観測されることを示している。相対速度が速ければ速いほど時間の遅れは大きくなり、光速 (299,792,458 m/s) に近づくにつれて時間の進み方がゼロに近くなる。これにより、光速度で移動する質量のない粒子が時間の経過の影響を受けないということになる」ということらしい。知らんけど。

 とにもかくにも『エンダーのゲーム』読んですぐに本書を読んでいなければ、なぜエンダーが「死者の代弁者」たるのか。なぜ敵対ではなく共存なのか。そうしたことが分からなかったに違いない。物語の背景が分からず、独特の言葉にも悩まされ上巻を読み切ることすら難しかっただろう。何とか上巻を伏線を理解しながら読み終えたあたりからぐんぐん面白さを増してきた。久しぶりに本を読んで徹夜した。傑作です。前作『エンダーのゲーム』が受賞したヒューゴー賞ネビュラ賞を本作『死者の代弁者』も受賞したという事実もそのことを裏付けている。

 価値観や行動原理が全く違う異星知性体との関係で自らの存続が危ぶまれる想定で、相手の真意を測る方法がないとき、如何なる手段を執るべきか。お互い理解できない中でもあくまで対話と説得に努めるのか、あるいは相手を殲滅すべく動くのか。前者であれば相手の先制攻撃でこちらが殲滅させられる危険があり、さりとて後者であれば勝者のみが生き残り共存の道は絶たれる。現状世界で例えばアメリカと中国、あるいは日本と北朝鮮というモデルで考えてみるのも興味深いだろう。おそらく議論百出、相対する意見の溝は埋まらず、皆が納得する結論には至らないだろう。どちらかを選んだ結果は不可逆である。時計の針は戻せないだけにこの決断は空恐ろしく重い。

 ちなみに本作にも新訳版が出ているそうな。さらに読みやすくなっているのだろう。知らんけど。