『蠅の王』(ウィリアム・ゴールディング:著/黒原敏行:訳/ハヤカワepi文庫)を読みました。
まずは出版社の紹介文を引きます。
疎開する少年たちを乗せた飛行機が、南太平洋の無人島に不時着した。生き残った少年たちは、リーダーを選び、助けを待つことに決める。大人のいない島での暮らしは、当初は気ままで楽しく感じられた。しかし、なかなか来ない救援やのろしの管理をめぐり、次第に苛立ちが広がっていく。そして暗闇に潜むという“獣”に対する恐怖がつのるなか、ついに彼らは互いに牙をむいた―。ノーベル文学賞作家の代表作が新訳で登場。
いつか読むべしと思っていた海外文学の一冊。ノーベル文学賞作家の作品、しかも「TIME紙が選ぶ100冊」のうちの一冊とあらば弥が上にも興味がわこうというもの。私がこの本を読みたいと思ったのは今年の2月のこと。『BOOK MARK 翻訳者による海外文学ブックガイド』(金原瑞人・三辺律子:編/CCCメディアハウス)に紹介されていたのを読んだからである。
その時に読みたい本としてリストアップしたものが39作品。遅々としてではあるが以下のとおり4冊を読んできて、本作が5冊目である。
それぞれ期待に違わぬ名作ぞろいであり、本作もその例にもれない。
少年たちが無人島に不時着してそこでのサバイバル生活が始まるという設定からまず想像したのは、少年たちの冒険活劇である。様々な逆境と困難にも負けず、それぞれの軋轢がありながらも友情と協力でそれを乗り越え、最後にはめでたく生還を果たす。そんなストーリーを思い描き、そうあって欲しいと願った。彼のジュール・ヴェルヌの名作『十五少年漂流記』のような展開である。事前情報から分かっていたことではあるけれど、その期待は見事に裏切られた。南の島の青い空に嵐が迫りきて少しずつ暗雲が垂れ込めるがごとく、少年たちのなかに不穏なものが見え隠れし始める。読んでいる私はなんとかそうはなって欲しくないと願いながらも、その実、おそらくこうなるのだろうなと悪い予感を持つ。そしてまるでその悪い予感に促されるように物語が展開していってしまうのである。まるで悪夢である。おそらく私の中にある邪なものがその悪夢を見させるのだろう。
少年たちの年齢はおおよそ6歳から12歳。小学生の年齢である。子どもというのは社会的訓練が未熟な分、感情表現であれ行動であれ直截的である。そして子どもは決して無垢ではない。むしろ直截的であるがゆえに残虐ですらある。ゴールディングは小説舞台を子どもたちだけにした。それぞれが気ままで統制が取れず、未だ多くの物事を知らず非力なゆえに得体のしれない怖れを心の内に持つ。そうした子どもだけで構成されたコミュニティーがどのような末路を辿るのか。文明と社会組織の枷が外れた世界で、人が内に持つ本性がいったい何を為し、何を為さないのか。そうした興味と恐怖で読者を惹きつけ、グイグイ読ませる。上手い。恐ろしいくらいに上手い。そう思いました。ゴールディングの他作も是非読みたい。次は『後継者たち』あたりかな。これもなにやら怖そうです。