佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

『トラベリング・パンツ』(アン・ブラッシュアーズ:著/大嶌双恵:訳/理論社)

『トラベリング・パンツ』(アン・ブラッシュアーズ:著/大嶌双恵:訳/理論社)を読みました。市立図書館からの借り本です。まずは出版社の紹介文を引きます。

癇癪持ちなカルメン、美人のレーナ、反抗屋のティビー、運動神経抜群のブリジットという、ワシントンに住む4人の女子高生は生まれたときからの友だちどうし。母親たちが妊婦教室で知り合ったのがきっかけなので、生まれる前からのつきあいといってもいいかもしれない。本人たちの性格や趣味はもちろん、家庭環境や通う学校も違うが、4人は週末や長期休暇は必ずいっしょに過ごしてきた。
ところが今年の夏休みは、生まれてはじめて、4人がまったくばらばらに過ごすことになる。夏休み前夜、集まった4人は、カルメンが古着屋で買ってきた1本のジーパンを面白半分に着まわしてみる。4人それぞれにぴったりフィットすることがわかる。しかもそれぞれにとても似合うのだ。体つきがまったく異なるのに、みんなフィットするというのは魔法のジーンズにちがいない、ということになり、4人はそのジーンズを夏休みのあいだかわりばんこに手元におくことにする。彼らはジーンズの使用規則を作り、最長1週間で次の人に送ること、そして互いの生活についてこまめに報告しあうことを約束する。……

トラベリング・パンツ

トラベリング・パンツ

 

 小さい頃から仲良しで育ってきた4人の女の子たち。そんな仲良しが少し色あせた一本のブルージーンズを共有する。不思議なことにそのジーンズはそれぞれ体型が違う4人全員に似合ってしまうのだ。バラバラで過ごした4人のティーンエイジャーの夏を一本のブルージーンズがつなぐ。それぞれの思い出は甘酸っぱく、少し切ない。還暦を迎えた私が読むような小説ではないかもしれないが、読んでいる間、ほんの少しそんな気持ちを共有できた気がする。読み終えてしみじみ思うのは、人はみなティーンエイジにはティーンエイジなりの経験をするものだということ。その思い出が人生の味わいになるのだということ。
 4人の少女の中でもレーナの話に特に心惹かれた。言ってしまえばありきたりのボーイ・ミーツ・ガール。いや、この場合、ガール・ミーツ・ボーイである。しかし出会いのみずみずしさ、不器用さが微笑ましい。人は不器用で良いのだ。不器用であっても、生涯に一度だけ、ただ一人の人に出会えれば良いということ。人生は素晴らしい。

 ちなみにレーナが初めて運命の男の子に会ったときの記述が素晴らしいので書き留めておく。作者アン・ブラッシュアーズの慧眼のほどがよくうかがえる一節である。

・・・・あまりにかっこよすぎることが、レーナにはかえってうさんくさく見えた。

 世の中にうさんくさいと思うものはたくさんあるけれど、なかでも男の子がいちばんだ。男の子は女の子のうわべしか見ないからだ。友だちみたいな顔で近づいてきて、こっちが信用すると、すぐにずうずうしい態度になる。女の子の気を引くために、歴史研究会に入ったり、献血活動のボランティアをはじめたりして、相手にその気がないとわかると、とたんに、歴史年表にも、しんこくな血液不足にも、興味がなくなってしまうのだ。

 最悪なのは、意中の子と仲よくなりたくて、まずその親友に近づこうとするやつ。ほんとうのことがわかったとき、親友がどれほど傷つくことか。