佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

『ぼくと1ルピーの神様』(ヴィカス・スワラップ:著/子安亜弥:訳/ランダムハウス講談社)

『ぼくと1ルピーの神様』(ヴィカス・スワラップ:著/子安亜弥:訳/ランダムハウス講談社)を読みました。

 まずは出版社の紹介文を引きます。

学校にも通わなかった。
本も読まなかった。
でも確かに、ぼくは「答え」を知っていた。クイズ番組でみごと全問正解し、史上最高額の賞金を勝ち取った少年ラム。警察は、孤児で教養のない少年が難問に答えられるはずがないと、インチキの容疑で逮捕する。しかし、奇蹟には理由があった――。殺人、強奪、幼児虐待……ずっと孤独に生きてきた少年が、インドの貧しい生活の中で死と隣あわせになって目にしてきたもの。それは、偶然にもクイズの答えでもあり、ほかに選びようのなかった、たった一つの人生の答え。幸運を呼ぶ1枚のコインだけを頼りに生きてきた孤児の、残酷だけれど優しさに満ちた物語。 

 

 

 

 良くできた物語です。ほんとうに良くできています。つくづく良くできています。物語の主人公はラム・ムハンマド・トーマスという18歳の青年。トーマスはクイズ番組に出場して全問正解し10億ルピーをもらえることになったが突如として警察に逮捕されてしまう。クイズに不正があったに違いないというのだ。そこに依頼もしていないのに若い女性弁護士が現れ警察から出してくれる。果たしてこの女性弁護士は何ものなのか? また主人公は何故12問のクイズ全問に答えられたのか? 物語はトーマス が自分の生い立ちを弁護士に話していくかたちで、無学なトーマスが何故13問全問正解という奇跡を成し遂げられたかを解き明かしていく。

 捨て子であったトーマスの18年間を振り返ることで、インドという社会が最下層の人間にどれほど厳しい環境なのか、あるいは、インドが抱える子供の虐待、階級差別、同性愛、売春、スラムの現実といった社会問題をあぶり出していく。貧困の中にいる最下層民の青年が億万長者になるという痛快な話でありながら、エピソードに織り込まれた苦みが手放しで喜べない味わいを添えている。

 この小説は『スラムドッグ$ミリオネア』というタイトルで映画化され、オスカーに輝いたようだ。是非とも観たい。