2021/05/12
『あした咲く蕾』(朱川湊人:著/文春文庫)を読みました。
まずは出版社の紹介文を引きます。
美しい容姿からは想像もつかないほどガサツな叔母の意外な秘密についての表題作、雨の日だけ他人の心の声が聞こえる少女を描く「雨つぶ通信」、西日暮里の奇妙な中華料理屋を巡る奇譚「カンカン軒怪異譚」など、『花まんま』『かたみ歌』の著者が、昭和の東京下町を舞台に紡ぐ「赦し」と「再生」の七つの物語。
朱川湊人氏の作品を読むのはこれが二冊目。先日読んだ『花まんま』がすごく良かったからだ。『花まんま』は直木賞受賞作だということで知り読んでみたのだが、もしそうでなければ朱川氏の小説を読むことがなかったかもしれない。そうしてみると文学賞のブランディング効果は覿面です。
さて本書は『花まんま』と対になる作品だとか。なるほど『花まんま』は昭和の大阪が舞台だが、『あした咲く蕾』は昭和の東京が舞台となっている。登場人物の言葉のイントネーションはもちろん、町の空気といったものも違ってはいるが、時代はほぼ同じで、どちらも心にしみる不思議な物語だという点で共通している。七編の短編すべてが良かったが、出色は『虹とのら犬』だろう。泣いてしまうほどの幸福感を味わった。個人的には最近読んだ短編で一番だった。