2021/05/06
『花まんま』(朱川湊人:著/文春文庫)を読みました。
まずは出版社の紹介文を引きます。
母と二人で大切にしてきた幼い妹が、ある日突然、大人びた言動を取り始める。それには、信じられないような理由があった…(表題作)。昭和30~40年代の大阪の下町を舞台に、当時子どもだった主人公が体験した不思議な出来事を、ノスタルジックな空気感で情感豊かに描いた全6篇。直木賞受賞の傑作短篇集。
六篇の短編小説集、それも色とりどりの味わいのものであれば、たいていは一篇か二篇は好みから外れるものがあるものだ。しかし本作にはそれがない。もちろん気に入り度合いに差はある。しかし六篇どれもがそれぞれの味わいを持ち、心をざわつかせる。
人の世の罪、穢さ、不条理、弱さ、哀しみを見つめつつも、どこか救いのあるストーリーが、猥雑で濃密な空気を持つ大阪の町の風景の中に展開される。大阪の町らしい温かみとユーモアも感じられた。'60年代に少年時代を過ごした私にはどこか懐かしく、過去にタイムトラベルしたような気分で読んだ。
差別される側の弱者、差別する側も弱者、それを克服し跳ね返そうとする強さと負けそうになる弱さ。差別に対する作者の視点は心の柔らかい部分に沁みる。