『プレゼント』(若竹七海・著/中公文庫)を読みました。
まずは出版社の紹介文を引きます。
ルーム・クリーナー、電話相談、興信所。トラブルメイカーのフリーター・葉村晶と娘に借りたピンクの子供用自転車で現場に駆けつける小林警部補。二人が巻き込まれたハードボイルドで悲しい八つの事件とは。間抜けだが悪気のない隣人たちがひき起こす騒動はいつも危険すぎる。
不運な女探偵・葉村晶と警部補・小林舜太郎を主人公とした8篇の短編小説集。TVドラマ化され、話題となっている葉村晶が初めて登場した小説集である。初登場といえば、別に「御子柴くんシリーズ」となっている御子柴刑事も本書で小林警部補の相棒として登場している。ということは若竹七海さんの人気シリーズのうち二つがここから始まっているのだ。その意味で若竹さんを読むなら決して外せない一冊といえる。
テイストはハードボイルド。若竹さんはそんなテイストのミステリを書きたかったのだろう。そしてその意図は成功している。本書はハードボイルド小説に目がない私のような読者の心をがっちり掴む。例えば8篇目の「トラブル・メイカー」の一節、こうした書きぶりがたまらなくイイのだ。その一節をここに引く。
誰だって、生きていれば幸運が舞い込んでくることもある。願ってもないラッキーが、昨日まで人気薄だった店に行列を作ることがあるのだ。私の場合、それはわずか一週間の間に起きた。思いがけなく隣人からテレビを譲られ、三年も前に書いたハウツー本が文庫化されて印税が入ってき、そのうえ姉に勧められて冗談で応募した懸賞で香港旅行があたったのだ。
しかし、ご用心。二十八年間の平凡な生活を続けてきた私にもわかっていることがある。幸運が何の目的もなく、不意に改心していままでの無沙汰を詫びる気持ちになることなどありえない。それはのちに配分予定の不幸の言い訳を早めにやっておくための大盤振舞いなのだ。
イイですねぇ。たまりませんね。これで葉村晶シリーズのうち二冊(『依頼人は死んだ』と本書)を読んだことになる。残りの五冊と『暗い越流』を買い置いている。順番に読んでいくのが楽しみだ。間を空けず一気に読みたい気もするが、他の作家のものも読みながら少しずつ時間をかけて読んでいこうかと思う。楽しみを少しでも長引かせるために。