佐々陽太朗の日記

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『さよならの手口』(若竹七海・著/文春文庫)

『さよならの手口』(若竹七海・著/文春文庫)を読みました。

 まずは出版社の紹介文を引きます。

仕事はできるが運の悪い女探偵・葉村晶が帰ってきた!

 

探偵を休業し、ミステリ専門店〈MURDERBEARBOOKSHOP〉でバイト中の葉村晶は、ある家からの古本引き取りを頼まれる。ほとんどあばらやのようなその家で、大量の本と格闘したが床が抜けてしまい、床下に落ちた葉村は怪我を負うと同時に、白骨死体を見つけてしまう。入院先で刑事に事情を聞かれた葉村は、ある事実を指摘。それが骨の身元判明につながり、事件は解決したのだが、話を聞いていた同室の入院患者で元女優の芦原吹雪から、二十年前に家出した娘の安否についての調査を頼まれ、引き受ける。
一方、やめるつもりだったミステリ書店のバイトも続けるはめになったのだが、そこで女性客の倉嶋舞美と親しくなる。しかし、彼女は警察の監視下にあり、葉村は担当の警察官・当麻から舞美に対するスパイの役割をしろと強要されるのだった……。

 

さよならの手口 (文春文庫)

さよならの手口 (文春文庫)

 

 

 

『さよならの手口』 これが本書の題名だ。そしてエピグラフとして引用されているのは「警官にさよならを言う方法はまだ見つかっていない」。チャンドラーの "THE LONG GOODBY" の結びの一文。村上春樹の訳である。ちなみに清水俊二の訳なら「警官にさよならをいう方法はいまだに発見されていない」である。そして原文は "I never saw any of them again--except the cops. No way has yet been invented to say goodbye to them."  つまりこの小説はチャンドラーの名作 "THE LONG GOODBY"  へのオマージュとして書かれている。

 さて、仕事はできるが運の悪い女探偵・葉村晶は本作でも出だしからエンジン全開である。しかし決して元気満タンではない。笑顔満点でもないし、意気軒昂でもやる気満々でもない。いややる気は結構ある。葉村晶は仕事ができる探偵なのだから。物語はしゃれこうべに頭突きを喰らわせるという出だしから始まる。えええっ? である。そして本作でも葉村晶には次から次へと災厄が降りかかる。まさに満身創痍の女探偵をそれこそ冒頭から結末まで応援した。どうやら私はすっかり葉村晶に魅了されてしまったようだ。私が過去惚れ込んだ女探偵はサラ・パレツキーの生み出したシカゴの女性探偵V・I・ウォーショースキーとジャネト・イヴァノヴィッチが生み出した賞金稼ぎステファニー・プラムなのだが、この度めでたく3人目に葉村晶が加わった。彼女は文句なしに魅力的なキャラだ。

 余談であるが、本書の末尾に「おまけ ~富山店長のミステリ紹介~」がある。小説内に書名が出て来たミステリ作品の解説である。これを読んだだけで若竹七海さんのミステリ愛がわかろうというもの。ここに紹介されたミステリ小説に興味津々である。しかし、これだけのものを読むには暇が要る。あぁ、どうして人生には限りがあり、しかも一度っきりしかないのか。

 本書の次に『暗い越流』(光文社文庫)を手に取った。amazonで新品を買ったのだが『文春文庫「不穏な眠り」発売記念 仕事はできるが不運すぎる女探偵 ハムラアキラシリーズガイド』というフライヤーが折り込んであった。出版社が異なっているのだが、お互いに販売促進策として協力しようとする取り組みなのか、amazonが独自でやっているのか定かではない。しかし葉村晶シリーズを読む人間にはなかなかにありがたいものなのだ。まず「葉村晶語録」。シリーズ作中にある12の名言が語録としてまとめてある。ハードボイルド好きはこうした語録が大好物である。ありがたや、ありがたや。つづいて若竹七海さんのエッセイ風の文章「女探偵が歩く街」。若竹さんが葉村晶という女探偵を書こうと思ったいきさつや、なぜこうも不運に見舞われるのかといったことが書かれている。これもファンにとってたいへん嬉しい文章である。そして極めつけは「葉村晶クロニクル」である。シリーズ作品が葉村晶の年齢を追って整理されている。20代、『プレゼント』、『依頼人は死んだ』。30代、『悪いうさぎ』、『暗い越流』。ここまで見て、読む順序を間違えたことにはたと気づいた。30代の『暗い越流』より先に40代の『さよならの手口』を読んでしまったのだ。仕方がない。今から読もう。

 

【葉村晶語録】

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【女探偵が歩く街】

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【葉村晶 クロニクル】

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