佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

『不思議カフェ NEKOMIMI』(村山早紀:著/小学館)

2023/08/15

『不思議カフェ NEKOMIMI』(村山早紀:著/小学館)を読んだ。

 まずは出版社の紹介文を引く。

あなたの、ささやかな生には意味がある。
毎日こつこつと働き、余暇には本を読み、紅茶を淹れて音楽を聴く。つつましく生きてきた律子に人生の終盤、ある奇跡が訪れる。

<彼女は善い魔法使いとなり、出会ったひとびとを救い、幸福にするための力を手に入れるのですが、それは世界の片隅で起きるひそかな物語、ほんとうに小さな魔法です。地球を救ったり、闇の力と戦ったり、そういう壮大な物語ではありません。時の狭間の中で忘れられてゆくような、忘れられてきたような、小さな祈りや命をひとつひとつ大切にすくい上げてゆく、そんな物語です>――著者あとがきより

人ならぬ身となり、黒猫メロディとともに空飛ぶ車に乗った律子は、旅先でいろんなひとや妖怪と出会ったり、時にはカフェを開いてお客様に料理やお茶をふるまったり…。2017年本屋大賞ノミネート作品『桜風堂ものがたり』や2018年同賞ノミネート作品『百貨の魔法』、そして「コンビニたそがれ堂」シリーズなど、ファンタジー小説の名手が贈る、ささやかな、小さな魔法の物語。

 

 

 

 ある日律子は家に帰る道すがら、昔飼っていた猫そっくりの黒猫が雨に濡れぐったりしているのを見つける。律子は猫をなじみの動物病院に行き治療を施してもらって家に連れ帰る。猫は一命を取り留めたようだが、今度は律子の体調に異変が訪れる。床に倒れ込んだ律子の耳に黒猫の声が聞こえる。その声は「ランプの魔神を、呼べばいいのに」と言っていた。倒れた律子のそばには古びたランプがあった。そのランプはずいぶん前に知り合いの占い師のおばあさんからもらったものだった。律子はそのランプに触れ、ほんとうにそのランプの中に魔神が住んでいるものなら会ってみたいと願う。すると不思議なことに・・・・・・という話のはじまりである。「ご都合主義が過ぎる。」これはその時、律子が感じたことだ。読者である私もまったく同感であった。興ざめしてしまった感も半分あった。しかし、そこで読むのを止めることなく読み続けた。この物語の先に、何かがありそうな気がして、それが何かを知りたかったのだ。
 読み終えて、正直なところ、作者が何を仰りたかったのかがよくわからなかった。村山氏は読者に何かを訴えたかったのではないのかもしれないと感じる。村山氏は本書の「あとがき」に次のように書いていらっしゃる。

 この作品は、毎日こつこつと働き、余暇には本を読み、紅茶を淹れ、音楽を聴いたりしつつ、優しく謙虚に生きてきたある平凡な女性のところに、その人生の終盤にして、彼女のための奇蹟が訪れる、そういうお話です。

 どう老いるか。この物語にはそれに対するひとつの答えがある。才能に恵まれた両親の子に生まれ、しかし自分は何ものにも成り得なかった普通の女性が五十路を迎える。しかしそんな自分にも世の中で何か出来るかもしれない。世のため人のために出来ることがあれば喜んでそれをしたいとの思いを持つ女性(律子)の物語。その気分は「しっかりしなきゃね」だ。そう、律子は地味で普通の人生を、日々真面目に生きている。この物語はその生きかた、日々の生活態度への祝福だ。この物語を紡ぐ作業、それは村山氏にとって祈りに似たものであったに違いない。私にはそう思える。