2023/10/18
『悪徳の都 ”HOT SPRINGS”』(スティーブン・ハンター:著/扶桑社ミステリー)上下巻を読んだ。ヴェトナム戦争で活躍した元アメリカ海兵隊狙撃兵、ボブ・リー・スワガーと、その父、同じく海兵隊出身で太平洋戦争の英雄、アール・スワガーの活躍が描かれたスティーヴン・ハンターの推理・冒険小説シリーズ『スワガー・サーガ』(Bob Lee & Earl Swaggers Saga)のひとつである。
まずは出版社の紹介文を引く。
【上巻】
1946年、酒浸りの日々を送っていた元海兵隊先任曹長アール・スワガーは硫黄島の戦功により名誉勲章を授与された。式の後、彼の前に二人の男が現れる。野心満々のガーランド郡検察官フレッド・ベッカーと伝説的な英雄である元FBIエージェントのD・A・パーカーだった。二人はギャングが牛耳る歓楽の街ホットスプリングズの浄化をもくろみ、その為に摘発部隊の編成を計画していた。彼らはその隊員を軍隊並に鍛え上げる役をアールに依頼してきたのだ。彼は承諾する。だが、妻からは子供が出来たことを知らされた。
【下巻】
ホットスプリングズの陰の帝王オウニー・マドックスはスワガーとパーカー率いる摘発部隊の急襲を受け大打撃を被る。彼は怒りに燃え凄腕の武装集団一味を呼び寄せ復讐戦を挑んだ。両者、知略・謀略の限りを尽くしての銃撃戦が展開される。だが、アールは次第に孤立無援の状態に追い込まれてしまった。一方、永年彼の心の奥底に秘めてあった父チャールズの死の真相が部下の調査から明らかに…。練達のスナイパー、ボブ・リーの父アール・スワガーを主人公に展開される銃撃アクション巨編。
本書を読むきっかけになったのは、本屋でたまたまボブ・リー・スワガー・シリーズの最新作『囚われのスナイパー』を見かけたからである。スワガー・シリーズはかれこれ20年以上前に『極大射程』を皮切りに読み始めた大好きなシリーズだ。2010年ごろまでに日本で刊行されたものはすべて読んでいる。しかしそれ以降のものは読んでいない。またそれに派生して書かれたボブ・リーの父であるアール・スワガーのシリーズについても一冊のみを読んで、他は読んでいない。当時発売されていたボブ・リーを主人公とするものは読み切って、他の本に目が向いているうちに十数年間もご無沙汰となってしまったのである。とりあえず最新作『囚われのスナイパー』を買って帰ったものの、調べてみるとこの十数年間に読み落としてしまっている作品がずいぶんあることがわかった。『囚われのスナイパー』を読む前に読むべき本があるではないか、まずは既購入で未だ読んでいないアール・スワガーものを読むべきだろうということで本書『悪徳の都』を手に取ることに相成ったわけだ。
そんなわけだからシリーズの発刊歴と既読・未読の別を手持ち情況を含め整理してみた。以下、邦題、原題、アメリカ刊行年、日本刊行年、備考、既読・未読の別の順に記載している。
【スワガー・サーガ(Bob Lee & Earl Swaggers Saga)】
- 極大射程 Point of Impact 1993年 1998年 ボブ・リー・スワガー三部作の第1作 (既読)
- ブラックライト Black Light 1996年 1998年 ボブ・リー・スワガー三部作の第2作 (既読)
- 狩りのとき Time to Hunt 1998年 1999年 ボブ・リー・スワガー三部作の完結編 (既読)
- 悪徳の都 Hot Springs 2000年 2001年 アール・スワガー・シリーズの第1作 (今次既読)
- 最も危険な場所 Pale Horse Coming 2001年 2002年 アール・スワガー・シリーズの第2作 (既読)
- ハバナの男たち Havana 2003年 2004年 アール・スワガー・シリーズの第3作 (未読)
- 四十七人目の男 47th Samurai 2007年 2008年 ボブ・リー・スワガー・シリーズ。日本が舞台であり、主人公が銃器ではなく日本刀で戦うなど異色作である。 (既読)
- 黄昏の狙撃手 Night of Thunder 2008年 2009年 ボブ・リー・スワガー・シリーズ (既読)
- 蘇るスナイパー I, Sniper 2009年 2010年 ボブ・リー・スワガー・シリーズ (既読)
- デッド・ゼロ 一撃必殺 Dead Zero 2010年 2011年 ボブ・リー・スワガー・シリーズ(レイ・クルーズ・シリーズ) (未読・未購入)
- 第三の銃弾 The Third Bullet 2013年 2013年 ボブ・リー・スワガー・シリーズ (未読・未購入)
- スナイパーの誇り Sniper's Honor 2014年 2014年 ボブ・リー・スワガー・シリーズ (未読・未購入)
- Gマン 宿命の銃弾 G-Man 2017年 2017年 ボブ・リー・スワガー・シリーズ (未読・未購入)
- 狙撃手のゲーム Game of Snipers 2019年 2019年 ボブ・リー・スワガー・シリーズ (未読・未購入)
- 囚われのスナイパー Targeted 2022年 2022年 ボブ・リー・スワガー・シリーズ (未読・購入済み)
他に次の作品もシリーズとみなしても良さそうだ。
- ダーティホワイトボーイズ Dirty White Boys 1994年 1997年 シリーズの番外編的な作品 (未読)
- ソフト・ターゲット SOFT TARGET 2011年 2012年 レイ・クルーズ・シリーズ (未読・未購入)
整理してみてわかったことは、アール・スワガー・シリーズは本作『悪徳の都 ”HOT SPRINGS”』を読み終えた今、残り一作品『ハバナの男たち Havana 』を残すのみであること。これは既に入手しているので、これからすぐに読む。そしてボブ・リー・スワガー・シリーズで未購入のもの、すなわち『デッド・ゼロ 一撃必殺 Dead Zero』『第三の銃弾 The Third Bullet』『スナイパーの誇り Sniper's Honor』『Gマン 宿命の銃弾 G-Man』『狙撃手のゲーム Game of Snipers』があること。これらはすぐに購入し順次読んでいくこととする。その後、先日購入した『囚われのスナイパー Targeted』を読む。それで『スワガー・サーガ』(Bob Lee & Earl Swaggers Saga)読みは完結する。さらにレイ・クルーズ・シリーズの『ソフト・ターゲット SOFT TARGET』も読めば完璧だろう。よし、これを残り二ヵ月あまりとなった今年の読書方針とすることに決めた。めでたし、めでたし。
さて本書『悪徳の都 ”HOT SPRINGS”』の感想である。主人公のアール・スワガーは太平洋戦争をアメリカ海兵隊員として戦い武勲をたてた英雄である。硫黄島での戦いを生き残った猛者でもあって、日本人の私は本書に散見される「ジャップ」といった表現も含め些かの抵抗感がある。しかし「ジャップ」という言葉はともかく、日本兵を侮蔑するような印象はない。この物語が戦争終結後の1946年のアメリカ南部を舞台とするものだから、登場人物の会話に日本人を「ジャップ」と呼んだのは事実であって、そうした表現が不当だとか、改めるべきだとかいうことではない。日本人としてはちょっとイヤな気分になる、それだけのことだ。同じく、当時のアメリカ社会の慣習として強烈な人種差別感(特に黒人に対するもの)がある。これも日本人として私が読むと反吐が出そうなものだ。しかしこれも当時はそうだったのであって、それをどうこういうものではない。むしろ主人公アール・スワガーにおいてそうした意識は全く無く、戦地で黒人兵に命を救われたこともあり、アール自身はそうした偏見を全く持っていない。むしろ白人にも黒人にも同じ赤い血が流れているというアールの意識が物語の終盤、アールの妻ジュニィが息子(ボブ・リー)を出産する場面を劇的に演出することになる。
そうした些細な違和感はさておき、銃器の扱いに優れ不撓不屈の精神と屈強な肉体を持つ男が繰り広げる緊迫の銃撃戦を経た懲悪の物語に痺れた。とりわけシリーズの大ファンである私には、ボブ・リー・スワガーの誕生秘話を知ることができたのはうれしいかぎりであった。