佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

『春秋山伏記』(藤沢周平:著/新潮文庫)

2024/04/28

『春秋山伏記』(藤沢周平:著/新潮文庫)を読んだ。先日、チャリンコ旅で山形県鶴岡の藤沢周平記念館を訪れた時、本書を未だ読んでいないことに気づき、受付で売っているのを購入したもの。新潮文庫版と角川文庫版があって、どちらにするかと訊ねられ新潮文庫版を買った。新潮版、角川版、どちらもユーモラスなカバー装画で良いなと思ったのだが新潮版にした。やはり新潮版には「スピン」(しおり紐)がついているので、どちらかといえば新潮版を選ぶことになる。それに新潮版の装画は朱色が基調となっており、紅花の産地山形らしいなと思ったことも理由のひとつである。

 まずは出版社の紹介文を引く。

白装束に高足駄、髭面で好色そうな大男が、羽黒山からやって来た。はじめ彼は村びとから危険視され、うさん臭く思われていたが、子供の命を救ったり、娘の病気を直したりするうち、次第に畏怖と尊敬の眼差を集めるようになった……。
年若い里山伏と村びとの織りなすユーモラスでエロティックな人間模様のうちに、著者の郷里山形県荘内地方に伝わる習俗を小説化した異色の時代長編。

 

 藤沢周平といえば武家もの、あるいは市井ものというイメージが強いが、本書は異色作。出版社の紹介文に引いたように、藤沢氏の故郷である山形県庄内地方の習俗を小説化している。藤沢氏の小説に期待するのは、多くは登場人物の高潔な生き方ではないか。しかしこれは庄内地方里山伏と村人が主人公とあって、もう少し肩の力が抜けていくぶん下世話な内容を含む。村人の習俗が描かれるとなると当然のことながらゴシップのようなものもあり、その中には少しエロティックな話も混じる。全体として海坂藩の武家の息苦しい人間関係にくらべると、農村のいかにもおおらかで人間くさい様がほほえましく楽しめる。そのあたりが藤沢氏の小説群の中にあって異色とされるところか。