暖簾に名はない。
食堂のあるじは「名無しの食堂」を気取ったのである。ところが、十字路にうなる風に巻き込まれた客たちの誰もが、
〈つむじ風食堂〉
と、少し目を細めて、そう呼ぶようになった。
『つむじ風食堂の夜』(吉田篤弘/著.ちくま文庫)を読み終えました。
吉田篤弘氏の本を読むのは初めてで、どのような小説を書かれるのか全く知りませんでしたが、
さるWeb上の読書サイトで"うりぼう"さんがこの本について寄せていらっしゃったコメント
……<二重空間移動装置>と「オノレ・シュブラックの消滅」が重なる中につむじ風が舞う。……
が気になり読むことにしました。
なんともこころやさしく、ゆったりとした気分にしてくれる小説でした。その気分を味わいながら素直に読み進めるも良し、一言一言をかみしめながら著者の言葉のセンスを楽しむのも良し、さりげない一節に込められた意味を深く考え哲学するも良し、読まずに本棚に飾っておくのも良し。(だってこの題名、素敵ですよね)
裏表紙の紹介文を引きます。
懐かしい町「月舟町」の十字路の角にある、ちょっと風変わりなつむじ風食堂。無口な店主、月舟アパートメントに住んでいる「雨降り先生」、古本屋の「デニーロの親方」、イルクーツクに行きたい果物屋主人、不思議な帽子屋・桜田さん、背の高い舞台女優・奈々津さん。食堂に集う人々が織りなす、懐かしくも清々しい物語。クラフト・エヴィング商會の物語作家による長編小説。
さて、<二重空間移動装置>と「オノレ・シュブラックの消滅」とはなにか?
それは、小説を読んでいただくしかなさそうです。