佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

元日の夜(猪鍋を囲んで)

 正月ということで久々に我が家に子どもたちがそろった。もちろん子どもたちとは昨年の10月、一緒にサイクリングしたりとたびたび会ってはいる。しかし子どもたちが育ったこの家に顔がそろうのはやはり良いものだ。

 全員の好物である猪鍋を囲んで酒を飲んだ。娘は重箱に入ったおせち料理を持ってきてくれた。私の作った豚角と大根の煮物、ポテトサラダ、餃子、つれ合いの作ったサラダ、唐揚げなど、普段食卓に並ぶものも加えてワイワイやる。私とつれ合い二人だけの家が昔のように賑々しくなる。餃子は焼きすぎてしまったがそれも愛嬌だ。

 

2019年に読んだ本(1月~6月)

 昨年読んだ本は97冊。100冊を割ってしまった。原因は12月にある。12月に読んだ本は3冊にとどまった。還暦祝いもあって、毎晩酒を呑んでいたのだ。呑むと酔う。酔えば眠る。眠れば本が読めない。

 しかしまあ昨年も楽しい読書であった。そして100冊近く読んでも読みたい本は減るどころか増え続けている。本の海は果てしなく大きく、人生はあまりに短い。「読まずに死ねるか!」という気持ちは強いがとても追いつかない。今年は少し酒を控えねばなるまい。あぁ、時間が欲しい。

 

2019年の読書メーター
読んだ本の数:97
読んだページ数:31410
ナイス数:13657

ふりだしに戻る〈上〉 (角川文庫)ふりだしに戻る〈上〉 (角川文庫)感想
時空を超えたタイムトラベルロマンスを読むならば押さえておくべき古典的名作。前半は冗長だがここは辛抱して丁寧に読み進める必要あり。ここでの辛抱がめまぐるしい展開を見せる後半に生きてくるのだから。
読了日:01月03日 著者:ジャック・フィニイ,福島 正実


ふりだしに戻る (下) (角川文庫)ふりだしに戻る (下) (角川文庫)感想
タイムトラベルロマンスを読むならまず読むべき古典的名作。人類はタイムパラドックスの危険性を認識しながらもタイムトラベルを中止することができない。人類とはそうしたものだということ。そして、過去へのタイムトラベル中に、好ましくない未来を予感させる出来事が進行しつつあるとき、人はそれを傍観すべきか。それを目の当たりにしてじっとしていられるのだろうか。そうしたことがテーマとなっています。自分ならどうするだろう。
読了日:01月03日 著者:ジャック・フィニイ


味見したい本 (ちくま文庫)味見したい本 (ちくま文庫)感想
食に関する蘊蓄を深めながら書評として本の興味もそそられる。しかも終盤に酒本について書かれている。私にとってこれほど嬉しいことはない。さすがはお酒ミニコミ『のんべえ春秋』編集発行人の木村衣有子氏だ。特に気になったのは『東京ひとり歩き ぼくの東京地図。』(岡本仁) すぐに注文したことは言うまでもない。湯島の酒場「シンスケ」、浅草「アンヂュラス」のハイボール、池袋の酒場「千登利」の肉豆腐、これらはまさに東京の”粋”というものだろう。根っからの関西人の私には少々悔しいが、イイものはイイ。
読了日:01月05日 著者:木村 衣有子


太陽の黄金(きん)の林檎〔新装版〕 (ハヤカワ文庫SF)太陽の黄金(きん)の林檎〔新装版〕 (ハヤカワ文庫SF)感想
22篇の短編小説。正直なところ、よく分からないものも収録されている。もちろん味わい深いものが多いのではあるが。私は過去にタイムトラベルして蝶を踏みつけてしまったために、元の年代に戻ってみたらタイムトラベル前と世の中が変わってしまっていたという話「サウンド・オブ・サンダー(雷のような音)」を読みたくて本書を読んだ。「四月の魔女」が最高。それ以外では「黒白対抗戦」「ごみ屋」が良かった。考えさせられるところの多い作品で、何度も読み返すに値する短編だろう。
読了日:01月05日 著者:レイ ブラッドベリ


アンソロジー カレーライス! ! 大盛り (ちくま文庫)アンソロジー カレーライス! ! 大盛り (ちくま文庫)感想
そうそうたるメンバーによるカレーライス礼讃。これらの方がカレーについて書く、それも熱く語るというところにカレーライスがいかに愛されているかが分かる。私はこれまでカレーライスが嫌いだという人に会ったことがない。もちろんカレーライスが嫌いだという人が皆無だとは思わない。しかし探してやっと見つかるぐらいの数であろうことは想像に難くない。子供の頃、私はカレーライスを食べ過ぎて医者にかかったことがある。親は慌てたろうが、医者は「バカな子供だ」と笑ったに違いない。そうなのだ。私はカレーが大好きなのだ。文句あっか?
読了日:01月19日 著者: 


毎日のお味噌汁毎日のお味噌汁感想
季節季節に本書の頁をぱらぱらめくって、旬を感じる味噌汁を作ると毎日に彩りがそえられるだろう。今の季節なら「蓮根のすりおろし味噌汁」「小芋と芽キャベツの味噌汁」「鰤の塩焼きとおろし大根の味噌汁」あたりが良いかな。
読了日:01月20日 著者:平山由香


夢みる葦笛 (光文社文庫)夢みる葦笛 (光文社文庫)感想
10篇の短編を収録。すべて極上のSFです。『眼神』『完全なる脳髄』が特に好み。人間と機械を分けるものはなにか。人の知能と人工知能の違い。人工知能は人の知能を超える能力を持つことは明らかだろうが、そんな人工知能でも人の知能の真似が出来ない部分があるだろう。人工知能はどこまで人に近づけるのか、果たして同化できるのだろうか。そんなことを考えながら本書を読むのは非常にエキサイティングな経験でした。極上の時間を下さった上田早夕里氏に感謝したい。
読了日:01月24日 著者:上田 早夕里


かあちゃん (ハルキ文庫)かあちゃん (ハルキ文庫)感想
ここに描かれた主人公達はバカです。もっとうまい立ち回り方があるだろうに、真正直に生きようとしたり、己のことを後回しにして人のために何かをしようとする。ひと言で言えば不器用なバカ正直。何に対してバカ正直なのか、それは自分で決めたこと、自分の価値観に対してバカ正直なのです。損得も後先もない。自分はこう生きると決めたらそう覚悟する。そういう生き方がここに描かれています。人を出し抜いてやるとか、人をだましても儲けたいといった昨今の小賢しい輩とは全く違う生き様に感動を覚えます。
読了日:01月27日 著者:山本 周五郎


100万分の1回のねこ (講談社文庫)100万分の1回のねこ (講談社文庫)感想
本書は佐野洋子100万回生きたねこ』への、13人の作家によるトリビュート短篇集です。私のお気に入りは江國香織「生きる気まんまんだった女の子の話」、井上荒野「ある古本屋の妻の話」、角田光代「おかあさんのところにやってきた猫」といったところ。それぞれ”人を愛することとはなにか”についてひとつの答えに到達していると思えるからである。久しぶりに『100万回生きたねこ』の頁を開いてみたくなった。
読了日:01月28日 著者:江國 香織,岩瀬 成子,くどう なおこ,井上 荒野,角田 光代,町田 康,今江 祥智,唯野 未歩子,山田 詠美,綿矢 りさ,川上 弘美,広瀬 弦,谷川 俊太郎


のんべえ春秋のんべえ春秋感想
「のんべえによるのんべえのための本」というのが良いではないか。紹介された酒器「左藤吹きガラス工房」の居酒屋コップとワインコップが欲しくなり、工房のHPを訪問してみたが”SOLD OUT”であった。いずれ手に入れることにして、とりあえず「ロートグラス」と「酒ピッチャー」を発注。素朴な手作り感と機械を使わない故のひとつひとつの”ゆらぎ”ともいうべき個性がたまらなく魅力的なのだ。酒場小説「ホシさんと飲んでいる」にでてくる居酒屋で文庫本を読んでいる人は私のことでもある。「気取りやがって」と思われているのかなぁ。
読了日:02月02日 著者:木村衣有子


のんべえ春秋 2のんべえ春秋 2感想
今号で紹介される酒器は大治将典さん「JICON」のぐい飲み、二上と組んで作った栓抜き。すばらしい。私は大治氏のデザインに富山の「能作」で出会った。これからも注目して、気に入りのものが見つかれば使いたい。富山は高岡の居酒屋「かめ蔵」で大治氏デザインの器で酒を呑むのもいいなぁ。夏にでもいってみるか。
読了日:02月03日 著者:木村衣有子


おいしい旅 夏の終わりの佐渡の居酒屋 (集英社文庫)おいしい旅 夏の終わりの佐渡の居酒屋 (集英社文庫)感想
例によって読み終えた後は行きたい居酒屋、食べたい食堂につけた付箋が数知れず。情報を記録しGoogleマップに☆印を付けるのに忙しい。次に京都に行ったときに「ハマムラ」の中華にするか「千登利亭」の鯖寿司にするか、はたまた祇園「平安」のカラシソバにするか迷うところ。  信州松本にも行くべき居酒屋が新たに紹介された。「満まる」である。もうまったく太田さんは追いかけてもとうてい追いつけそうもない。
読了日:02月03日 著者:太田 和彦


ときどき旅に出るカフェときどき旅に出るカフェ感想
カフェを舞台にしたコージー・ミステリ。私にとっておいしいミステリの代表は近藤史恵「ビストロ・パ・マルシリーズ」、北森鴻「香菜里屋シリーズ」、柏井壽「鴨川食堂シリーズ」である。そのどれもがよだれを垂らしながらストーリーに引き込まれる醍醐味を存分に味わわせてくれる。本書はカフェが舞台で、味に関しては飲み物やスイーツが中心。酒飲みの私としては若干的外れではある。しかし辛党の私にもスイーツのおいしさを想像させ、食べてみたいとおもわせるところは流石です。
読了日:02月04日 著者:近藤 史恵


これは経費で落ちません! ~経理部の森若さん~ 2 (集英社オレンジ文庫)これは経費で落ちません! ~経理部の森若さん~ 2 (集英社オレンジ文庫)感想
前作1を読んだのが2016年11月5日のこと。もう2年以上前のことになるのか。月日が経つのは早い。おぉ、そういえばこの小説は『風呂ソムリエ ~天天コーポレーション入浴剤開発室~』からのスピンアウト小説であった。読もうと思って購入したきり積読本になったままではないか。2年間も本棚で手に取られるのを待っておったのか。すまぬ。明日からはこれを読もう。  天天コーポレーションにはどこの会社にでもある小さな事件が起こる。しかしそこはけっして魑魅魍魎の住処ではなく、地味だがイイ会社だ。続編も当然読む。
読了日:02月05日 著者:青木 祐子


風呂ソムリエ 天天コーポレーション入浴剤開発室 (集英社オレンジ文庫)風呂ソムリエ 天天コーポレーション入浴剤開発室 (集英社オレンジ文庫)感想
2時間モノのTVドラマに出来そうな小説。気楽に楽しませていただきました。好き嫌いが分かれるところが入浴剤研究開発員の鏡美月の存在。年齢20代中ごろの理系女子、かなりの美人でスタイル抜群だが、若い女の子の可愛さを持たないという設定。男に対して科を作らないのである。いや意識してそうしているのではなく、多くの女性がそのような行動をとるのをそもそも理解できないのである。他の人はどうだか知らないが、私のツボにはまっています。かなり萌えます。(笑)
読了日:02月07日 著者:青木 祐子


これは経費で落ちません! ~経理部の森若さん~ 3 (集英社オレンジ文庫)これは経費で落ちません! ~経理部の森若さん~ 3 (集英社オレンジ文庫)感想
人生いろいろ、社員もいろいろ。だいたいの社員は入社すると少しずつずるくなる。経理女子から見る社内の人間ドラマはおもしろい。いつのまにやら私、森若沙名子さんに「ホ」の字でございます。
読了日:02月10日 著者:青木 祐子


これは経費で落ちません! ~経理部の森若さん~ 4 (集英社オレンジ文庫)これは経費で落ちません! ~経理部の森若さん~ 4 (集英社オレンジ文庫)感想
本巻はちょうどバレンタインデーにちなんだ話となっている。第三話「本命は落ちません、義理なら落ちます」、第四話「正しければ勝つわけではないのなら、正しさに何の意味がある」はなかなか含蓄のある題名だ。  沙名子の好きな言葉は「イーブン」。釣り合って安定していること。毎日、借方・貸方を意識している女史らしい。職場は戦場ではない。人は誰でもデコボコしているものだが、差し引きゼロになればよしとする。私も心にと留めておこうと思う。
読了日:02月11日 著者:青木 祐子


獅子吼 (文春文庫)獅子吼 (文春文庫)感想
泣かせ屋浅田の短編集とあって、大いに期待して読んだが、泣けるものあり、それほどでもないものもある。「獅子吼」「流離人(さすりびと)」の2篇は反戦もの。こういうものはいかにも新聞が褒めそうでいやだなあ。とはいえ、「獅子吼」は浅田氏らしさが出た良作。「うきよご」こういうややこしい小説は文学好きが褒めそうな話である。私としてはもっとシンプルに情に訴えるものが浅田氏らしいと思うのだが・・・「帰り道」におやっと思うような味わい深さがあって良かった。
読了日:02月11日 著者:浅田 次郎


わが心のジェニファー (小学館文庫)わが心のジェニファー (小学館文庫)感想
ニューヨーク育ちのアメリカ人青年ラリーが日本を旅して、日本の文化に驚いたり感動したりする姿をユーモアを交えて描いている。日本のことをよく知っているはずの我々が、案外その良さを意識しておらず、外国人の目を通してみて改めて再認識するという構図がおもしろい。まさに日本再発見。小説の出来としては上々と言いがたいが、著者の慧眼に舌を巻く。
読了日:02月15日 著者:浅田 次郎


センネン画報センネン画報感想
「冬 春よりも あたたかかった」という言葉にはっとする。白と淡い青の世界。風とカーテン、カーテンに隠れた世界、隠れているのに目をそらせなくてはと焦る。日常にあるちょっとエロティックでドキリとする瞬間。こんな感性を持つ作者は、同じ時代を生きていても、私とはまったく違う世界を生きている。
読了日:02月17日 著者:今日 マチ子


センネン画報 +10 yearsセンネン画報 +10 years感想
今日さんによると、「言葉にならないきらめきや揺らぎを、描いていけたらいいなと思います」とのこと。既刊の『センネン画報』と多くは同じものが収録されている。しかし校正も新たに、未収録作品も収められている。なにより嬉しいのは『センネン画報』では一部だけがカラーであったのが、本書ではオールカラーになっていること。眼福である。カーテン、風、靴紐、傘、はさみ、カメラ、付箋、マフラー、そして水。今日マチ子さんの青い世界ふたたび。
読了日:02月17日 著者:今日 マチ子


スティグマータ (新潮文庫)スティグマータ (新潮文庫)感想
期待に違わぬ面白さ。ツール・ド・フランスの緊迫した内幕を選手の視点で描ききっています。物語の肝になっているのはロードレースが実はチーム競技なのだということ。そしてレースの過酷さは体力的にピークを越えた選手にとって意欲や経験でカバーできるほど甘いものではないという現実。ステージ優勝のチャンスを目の前にしたチカがとった行動に心が震えた。気になるのはチームメイトのアルギの妹ヒルダの存在。想像するだに魅力的なヒルダが次作以降でどのように物語にからんでくるのか、ひょっとして・・・と期待は高まる。
読了日:02月22日 著者:近藤 史恵


ことり (朝日文庫)ことり (朝日文庫)感想
小川さんの「やさしさ」について少し書いておきたい。小川さんはお兄さんにも小鳥の小父さんにも、唐突な死を与えた。世の中はその片隅でひっそりと暮らすか弱き者にしばしば過酷で在ろうとする。放っておいてくれないのだ。それが世間というものなのだが、唐突な死によってそんな世間から隔絶され、平穏をとりもどすことができたのではないか。そしてもうひとつ、小鳥の小父さんがうら若い司書の女性に出会うエピソード。女性は小鳥の小父さんの特別なところ、佳き特質に気づいた人であった。小鳥の小父さんの人生に花が添えられたように感じる。
読了日:02月23日 著者:小川洋子


のんべえ春秋3のんべえ春秋3感想
記事を読んで「酒器今宵堂」の器が欲しくなりHP覗くもほとんどが売り切れで半年以上待つ必要があるそうです。残念。しかし、次に京都をサイクリングするときにでも工房を訪れてみたい。関東を中心に揚げ玉を載せたうどんが「たぬきうどん」。しかし大阪で「たぬき」といえばおあげさんが入った蕎麦のこと。さらに京都で「たぬきうどん」といえばおあげが刻んで入ったあんかけうどんのこと。ええい、ややこしい! 世間には「たぬきケーキ」なるものがあるらしい。「全国たぬきケーキ生息マップ」によると兵庫県には二匹しか生息していないようだ。
読了日:02月24日 著者:木村 衣有子


のんべえ春秋4のんべえ春秋4感想
4号にもステキな酒器が登場。『アトリエ七緒』の“酔う徳利”が良い感じだ。冷たさと柔らかさを併せ持った白。抑制のきいた色っぽさを感じる名器であることは写真を見ただけで伝わってくる。秋田県横手を訪ねることがあればぜひとも『アトリエ七緒』に寄ってみたい。ステキな酒器といえば「やきものコラム 鋳込みから汽車土瓶への旅」に大阪の酒器専門骨董店『はこ益』という店が出てくる。私の勤務先の西天満にあるではないか。これは是非とも覗いてみなければなるまい。第5号『どこでもビール号』も手元にあるが、これは夏まで寝かしておこう。
読了日:02月28日 著者:木村 衣有子


蜻蛉始末 (文春文庫)蜻蛉始末 (文春文庫)感想
傳三郎と宇三郎は固い絆で結ばれている。二人の関係はまさに「光」と「影」であり、表舞台で光りを浴びる人間と影勤め(陰守り)の関係といえる。そしてまたこの物語は、傳三郎(光)と宇三郎(影)だけの物語でなく、倒幕、明治維新、そして西南戦争と時代が大きな渦となって変わる中、眩いばかりの光を放った人物達と、彼らが輝くためにあえて影に回った人間や、時代の流れと運命に抗えず陰となった者達を鮮やかに描いた物語でもある。ここに描かれているのは志士たらんとした者達の心の揺らぎ、裏切り、変節、欲による薩摩閥と長州閥の暗闘だ。
読了日:03月02日 著者:北森 鴻


これは経費で落ちません! 5 ~落としてください森若さん~ (集英社オレンジ文庫)これは経費で落ちません! 5 ~落としてください森若さん~ (集英社オレンジ文庫)感想
第4巻までの登場人物(脇役)視点で書かれた短編集。そもそも『これは経費で落ちません!』シリーズ自体が『風呂ソムリエ』からのスピンオフであった。しかし、そのスピンオフが主要なシリーズを構成することになった。そしてその中の登場人物からシリーズの主役を張れるような新たな主人公が登場するのかどうか。今のところ不明であるが、今巻のように天天コーポレーションの社員をめぐるスピンアウト的な物語は今後も出てきそうな気がする。人生いろいろ、社員もいろいろ、天天コーポレーションは今日も概ね平和である。そして明日もおそらく・・
読了日:03月03日 著者:青木 祐子


私の好きな民藝 (趣味どきっ!)私の好きな民藝 (趣味どきっ!)感想
アンコール放送分のテキストを購入。民藝品との接し方は「美意識を鍛える」「自分の目線で選ぶ」「気に入ったものを使う」につきると思う。紹介された中で特に気になっているのは因州・中井窯。現当主の坂本章さんの三色染め分け皿が以前から気になっている焼きもので、民藝とデザインを融合した名品だと思う。緑、黒、白の釉薬が生み出すコントラストに強く惹かれる。普段あまりTVを視ないが、今日の夜だけはアンコール放送を視なくては。
読了日:03月06日 著者: 


太宰治の辞書 (創元推理文庫)太宰治の辞書 (創元推理文庫)感想
主人公が社会人になった時点で完結したと勘違いしていたが第六作が出た。本作では表紙の画を見ても主人公は落ち着いた人妻風情である。結婚して、今も出版社に勤めており、中学生の息子がいるのだ。なるほど、たいへん喜ばしいことである。円紫さんはいつもながらの博覧強記ぶりを発揮します。円紫さんと私のやりとりは文系人間にはたまらないところ。「女生徒」にでてくる大学時代の同級生「正ちゃん」とのやりとりもそうなのだが、文学をめぐっての会話ににじみ出る知性が本シリーズの醍醐味である。分かる奴にしか分からないってことですね。
読了日:03月11日 著者:北村 薫


落語小説集 芝浜 (小学館文庫)落語小説集 芝浜 (小学館文庫)感想
大方のあらすじを知ってはいても、思わず引き込まれます。山本一力氏によって選ばれた演目はどれも味わいの深い噺です。人としての矜持、人の心を思いやる気持ち、要は人としての品格を題材にしたものばかり。元々良くできた噺であるうえに、山本氏の筆で細部が描かれ、伏線が張られたうえ、噺がふくらまされるだけに、読んでいて落語を聴く以上に気持ちが高ぶります。「芝浜」では思わず泣いてしまいました。さすがは一力先生です。
読了日:03月13日 著者:山本 一力


お菊さん (岩波文庫)お菊さん (岩波文庫)感想
訳者が「ロチの此の甘味を缺いだ小説が日本人の大部分に喜ばれようとは思へない」と書いたとおり、私も日本人として全く喜ばなかった。むしろ不快であった。百三十年も前のこと故、そういう時代だったのだと割り切ればよいのだろう。しかしそうしなければならない理由もない。ロチにとって日本人は未開の土人であり、現地妻はペットである。焚書せよとは言わないが私は読むに値しないと思う。蛇足ながら、私は芥川の「舞踏会」を二度ばかり読んだが、二度とも何の感興をもよおすことがなかった。これに登場するフランス人海軍将校はロチである。
読了日:03月16日 著者:ピエル・ロチ


微光星微光星感想
死刑判決で人ひとりの命を奪うことの重さは計り知れない。国家が罰として人に死を科して良いのかという議論は当然ある。しかし、死刑判決を受けた者はそもそもそれほど大切な他人の命を自分の勝手で奪ったのだ。死刑が相当と思われる人殺しの命においてなお死刑に疑念が生じるのである。況んや罪なき者の命をやであろう。年端もいかない少女を己の性欲を満たしたいがために誘拐したあげく殺した者の命がそれほど尊重されねばならないのか。目的刑論は非常に高邁な理論である。しかし、被害者に近しい者の心に少しも寄り添っていない。やりきれない。
読了日:03月16日 著者:黒谷 丈巳


解錠師 (ハヤカワ・ミステリ文庫)解錠師 (ハヤカワ・ミステリ文庫)感想
秀逸なのが物語の語り口です。高校生のマイクルが何故解錠師になったのかと、実際にプロの解錠師として犯罪に手を染めていく過程が、カットバックの手法で交互に語られていく。はじめに読者に三つの謎「8歳のマイクルに起こったのはどんな事件だったのか?」「マイクルは何故解錠師になったのか?」「マイクルは何故犯罪に手を染めどのように逮捕されたのか」を抱かせる。それらの謎が交互に語られる物語の中で少しずつ証されていく緊張感がたまらない。極上の翻訳ミステリにして青春浪漫小説。ハードボイルドの秀作。
読了日:03月20日 著者:スティーヴ・ハミルトン


人生の目的 (幻冬舎文庫)人生の目的 (幻冬舎文庫)感想
人生に決まった目的などあろうはずはない。人生はそれぞれで、それがどうなるかは全く予測が付かず、その意味で思い定めようがないだろう。人間とは不自由なものであり、人はそれぞれ不公平と理不尽の中で生きている。人生は母の胎内から出生した瞬間から、それぞれ違った条件を与えられてスタートする。不公平だろうがなんだろうがそれが現実であり、人はそれを願いや祈り、あるいは努力や誠意で変えることはできない。本書の素晴らしいところは、けっして気休めを言うこと無く、運命と宿命と理不尽とを受容し生きろと言っているところである。
読了日:04月06日 著者:五木 寛之


氷の闇を越えて (ハヤカワ・ミステリ文庫)氷の闇を越えて (ハヤカワ・ミステリ文庫)感想
著者の最新作『解錠師』を読み、再読したくなり本棚から取り出した。読んだのはいつだったか。おそらく十数年前のことだっただろう。再読であっても緊迫感をもって読ませるところは流石。極上のハードボイルドです。若き日の挫折。人生を変えてしまった出来事とそれによって受けた心の傷。そこから立ち直ろうとする克己心。繊細で弱い面を持つ人間でありながら、あるべき自分を追い求める姿に魅力を感じ、思い入れたっぷりで読みました。シリーズ第二作『ウルフ・ムーンの夜』も読もう。
読了日:04月09日 著者:スティーヴ ハミルトン


疾れ、新蔵 (徳間時代小説文庫)疾れ、新蔵 (徳間時代小説文庫)感想
久しぶりのシミタツ。カバーイラストが卯月みゆき先生の手に成るものと知り買い求めました。『青に候』を読んだのがおよそ10年前。ずいぶんご無沙汰でした。最近は時代小説を書いていらっしゃるのですね。志水氏はいろいろなものが書ける作家ですね。『青に候』はハードボイルド・タッチ時代小説でしたが、今作は冒険エンタメ系。シミタツ節は影を潜めていますけれど、これはこれでおもしろい。逃走と追跡の緊迫感で一気読みさせます。
読了日:04月13日 著者:志水 辰夫


裂けて海峡 (新潮文庫)裂けて海峡 (新潮文庫)感想
シミタツ節全開。ちょっとクサイけれど、良い。すごく良い。鳥肌がたつ思いの後、しばし放心。余韻に浸る。  このラストシーンの書きぶりですが、本書、2004年新潮文庫版と1986年講談社文庫版で少しちがう。  新潮社「天に星。地に憎悪。南溟。八月。わたしは死んだ。」  講談社「天に星。地に憎悪。南溟。八月。わたしの死。」  志水氏が何故書き換えたのかはわからない。なるほど新潮文庫版のほうがしっくりくる。しかし、わたしは講談社文庫版を推す。徹底した体言止めでテンポと余韻においてこちらの方に軍配があがる気がする。
読了日:04月19日 著者:志水 辰夫


裂けて海峡 (講談社文庫)裂けて海峡 (講談社文庫)感想
つい先日、新潮社版を読んだ。ラストの書きぶりの違いを確認。本書「天に星。地に憎悪。南溟。八月。わたしの死。」 新潮社版「天に星。地に憎悪。南溟。八月。わたしは死んだ。」 どちらが良いだろう。新潮社版が後の出版であることから、志水氏は「わたしは死んだ」で締めることを選んだということだ。なぜ、書き換えたのか志水氏に訊いてみたいところ。私はといえば、はじめは講談社版を支持していたが、日が経つうちに新潮社版が良いように思えてきた。しかしまた日が経てば講談社版に気が行く。これは悩ましい。
読了日:04月23日 著者:志水 辰夫


飢えて狼 (新潮文庫)飢えて狼 (新潮文庫)感想
志水辰夫の冒険小説デビュー作。本書と『裂けて海峡』、そして『背いて故郷』は志水氏の初期三部作と呼ばれている。克己心の塊のような男が、ひたすら自らの想いを抑制しながら強くあろうと生きていく。心情はセンチメンタルなくせにそうではないように振る舞う。クールであろうとしながら、抑えきれない熱い想い。ハードボイルドですねぇ。こういう小説は大好物です。今月3冊目のシミタツ。シミタツ節に酔い痴れております。
読了日:04月26日 著者:志水 辰夫


日本の朝ごはん (新潮文庫)日本の朝ごはん (新潮文庫)感想
平成から令和に変わる夜、本書の最初に紹介された石川県珠洲市「さか本」に泊まった。もともと単行本が上梓されたのは平成6年1月なのでもう25年も前のことになる。二年半前に本書に出会い、それ以来、泊まってみたくてたまらなかった。本書が書かれた当時から「さか本」は変わっているのかいないのか、あるいはさらに進化しているのだろうか、ワクワクした。大切な部分はおそらくは変わっていない。夕食も朝食も滋味に富み大満足であった。躰が喜んでいるのがわかる。巻末に志水辰夫氏の「朝めしまえ」と題した文章がある。これも贅沢。
読了日:05月01日 著者:向笠 千恵子


室町無頼(上) (新潮文庫)室町無頼(上) (新潮文庫)感想
「無頼」とは何か。所謂「ごろつき」ということか。本書の登場人物たちにそれはあたらない。もっと品格があり、己に対する規範を持っている。ではもう少し格好良く「伝統的な価値観や規制を無視するニヒリズム」ととらえるか。それも少々ちがう。無頼派を気取った太宰のような弱いものではない。室町中期は、貨幣経済が発達し、持てる者と持たざる者の格差を広げ、それに幕府が何の手も打たない状況の中で、やむなく体制秩序の枠を外れ、法も掟も無視して、何にも頼らずに自力で道を切り開いていく野武士的な生き方が本書の「無頼」であろう。
読了日:05月08日 著者:垣根 涼介


室町無頼(下) (新潮文庫)室町無頼(下) (新潮文庫)感想
本作は第156回直木賞の候補に挙がった。恩田陸さんの『蜜蜂と遠雷』が賞に輝いた回である。その選考に異議はないが、選者の中にもっと土一揆に立ち上がった民衆視点での社会問題に焦点を当てるべきだったかのような評価があったのは残念である。本作で垣根氏が書きたかったのは、救いようのない時代にあって「無頼」の気骨で時代の流れに抗った痛快さであっただろう。暗黒面を描く社会小説ではなく痛快無比剣豪小説で良いではないか。本書が『蜜蜂と遠雷』と並んで直木賞同時受賞であっても良かったのではないかと思うのは私だけではないだろう。
読了日:05月08日 著者:垣根 涼介


火喰鳥 羽州ぼろ鳶組 (祥伝社文庫)火喰鳥 羽州ぼろ鳶組 (祥伝社文庫)感想
襤褸を着てても心は錦。「羽州ぼろ鳶組」との蔑称はいつしか賞賛の色を帯びはじめる。時の老中田沼意次火付盗賊改方長谷川平蔵宣雄、役者はそろった。火事と喧嘩は江戸の華。命を救うが火消の本分。新庄藩火消ぼろ鳶組頭取松永源吾久哥、人呼んで「火喰鳥」の心は熱く、風読み加持星十郞、新庄の麒麟児鳥越新之助、壊し手組頭寅次郎、纏番組頭彦弥と多士済々の心に火をつける。ぼろ鳶組の面々の八面六臂獅子奮迅の大活躍は読者の心にも火をつけずにおかない。ぼろ鳶組よ、存分に火を喰え! 昂奮必至、滅法界おもしろい時代小説だ。
読了日:05月11日 著者:今村 翔吾


京都下鴨なぞとき写真帖2 葵祭の車争い (PHP文芸文庫)京都下鴨なぞとき写真帖2 葵祭の車争い (PHP文芸文庫)感想
京都のうまいもんと名所案内が人情噺を交えて読める。茗荷を食べると物忘れするといわれるようになった由縁や和ろうそくと洋ろうそくの違いなど、ちょっとした物知りになれるのもありがたい。「鉄板洋食 鐵」のハラミステーキランチ、「グリル富久屋」のフクヤライス、「うどんや ぼの」のカルボナーラうどん、「松葉」のにしんそば、うまそうです。先週京都に行く前に本書を読んでいたら「ホホホ座」から「恵分社一乗寺店」を廻って「うどんや ぼの」に行ったに違いない。しまった。もう少し早く読んでいればなぁ・・・。
読了日:05月17日 著者:柏井壽


夜哭烏 羽州ぼろ鳶組 (祥伝社文庫)夜哭烏 羽州ぼろ鳶組 (祥伝社文庫)感想
人の心と心は意想外の化学反応を起こし、引き起こされたエネルギーは甚だしく強く尽きることは無い。ここに描かれたのは火消の心意気と矜持の物語。そして親と子、夫と妻、師弟そして友のお互いを思いやる人情の物語だ。読み始めたが最後、頁をめくる手を止めることはできない。一気にクライマックスまで読み進め、昂奮し感激し涙した。今村翔吾氏は確かに鉱脈を掘り当てたと言ってよい。こいつぁ、掛け値無しにおもしろい時代小説だ。
読了日:05月18日 著者:今村翔吾


あなたに捧げる私のごはん (バーズコミックス スペシャル)あなたに捧げる私のごはん (バーズコミックス スペシャル)感想
先週、京都の本屋「ホホホ座」で買ったものです。  ヒロインがいきなり未亡人で始まる物語。表紙の画は喪服を着た未亡人が横座りで新米の入った米袋を抱きかかえている。その本がビニール袋に包まれていたものだから、中身をパラパラ立ち読みもできない。なんだかロマンポルノっぽいなと思わず購入と相成ったのである。さて、中身はどうだったのか。それをここで語るわけにはいかない。ビニ本は買ってはじめて中身を観ることができるものだから。「ホホホ座」の企てはそうに違いないのだから。
読了日:05月19日 著者:松田 洋子


九紋龍 羽州ぼろ鳶組 (祥伝社文庫)九紋龍 羽州ぼろ鳶組 (祥伝社文庫)感想
いい。どんどん良くなっている。昂奮度合いは前作『夜哭烏』のほうが上だったかもしれない。しかし巻が進むにつれ、読者のなかで登場人物の人となりがますますはっきりと像を結び、どんどん思い入れが深まっていく。本作ではさらに興味深いキャラクタの戸沢正親という藩主の親戚筋の男も登場した。次巻でこの男がどのように絡んでくるのか想像するのも楽しい。シリーズものとして完全に成功しているといえる。ぼろ鳶組・組頭の松永源吾の妻・深雪の魅力がますます際立ち、火消という男の世界に華を添えているところも見逃せない。
読了日:05月23日 著者:今村翔吾


慈雨 (集英社文庫)慈雨 (集英社文庫)感想
待ってました。《『本の雑誌』が選ぶ2016年度ベストテン》の第一位に選ばれた傑作がやっと文庫で発売になった。発売即重版。今年の4月25日に第一刷、直後の5月21日に第二刷という売れ行きである。さもありなん。読み始めるや否やぐんぐん作品に引き込まれ、寸暇を惜しんで読み続けた。作者のプロフィールを読むと、すでに大藪春彦賞日本推理作家協会賞を受賞した作品があるようだ。また追いかけてゆきたい推理作家に出会ってしまった。一日が24時間では短すぎる。一年が365日では足りないではないか。四国遍路もしたい。足りない。
読了日:05月26日 著者:柚月 裕子


竈河岸 髪結い伊三次捕物余話 (文春文庫)竈河岸 髪結い伊三次捕物余話 (文春文庫)感想
髪結い職人の伊三次と深川芸者・お文の恋から始まった物語は、いつしか伊三次が仕える北町奉行定廻り同心の不破友之進とその妻・いなみの物語になり、さらにその息子・不破龍之進とその妻・きいの物語になり、さらに不破友之進の娘・茜と伊三次・お文の息子・伊与太の物語となった。伊与太、友之進、きい、茜がどのような人生を歩むのかをもっと読みたかったのだがそれも叶わない。残念だが本作が未完の最終巻と了見するほかない。人とは、人の人生とはそのようなもので、一人ひとりの人生はけっして完結することのない物語だ。
読了日:05月29日 著者:宇江佐 真理


下町ロケット ガウディ計画 (小学館文庫)下町ロケット ガウディ計画 (小学館文庫)感想
世の中にベストセラー小説の書き方というセオリーがあるとすれば、池井戸氏はそれを体得していらっしゃるに違いない。読み始めるや否や主人公たちに次々と降りかかる窮地、その元凶となる憎らしくも邪な悪役たち。それを権威や金は持たないが誠実でまっとうな主役たちが艱難辛苦の末に自らの努力と才能で打ち負かすのだ。そう、池井戸氏の真骨頂は悪役(ヒール)の描き方の妙にある。ヒールに対する鬱憤憎悪が最高潮に達したところで一気に逆転劇を見せてくれる。読者はプロレス的予定調和に強烈なカタルシスを得る。あぁ・・・スッキリした。
読了日:05月30日 著者:池井戸 潤


鬼煙管 羽州ぼろ鳶組 (祥伝社文庫)鬼煙管 羽州ぼろ鳶組 (祥伝社文庫)感想
火喰鳥の異名を持つ新庄藩火消頭・松永源吾と心を通じ合わせる長谷川平蔵は『鬼平犯科帳』(池波正太郎)の描く鬼平こと火付盗賊改方長官長谷川平蔵の父である。今巻ではその鬼平の若き頃、銕三郎と呼ばれていた頃のエピソードが織り込まれた物語。序章と終章に描かれた長谷川平蔵宣雄と銕三郎(後の鬼平)の心のふれあいが泣かせる。「魁」の異名を持つ武蔵と六代目平井利兵衛・水穂に恋愛フラグが立ったか。次作が楽しみ。
読了日:06月02日 著者:今村翔吾


菩薩花 羽州ぼろ鳶組 (祥伝社文庫)菩薩花 羽州ぼろ鳶組 (祥伝社文庫)感想
今巻で光ったのは麒麟児と称される新庄藩火消の頭取並・鳥越新之助一刀流が冴え渡る。前巻でほとんど出番がなかっただけに、今巻での活躍はめざましくまぶしいほどだ。ただ番付には殆ど影響しなかった。作者は新之助をこのような形でいじってかわいがっていると見える。それは深雪が新之助をいじるやり方と同じだ。存分にかわいがっている。(笑)  本シリーズは「ぼろ鳶組」であるが、深雪シリーズの様相を呈してきた。おそらく男女に共通して支持されるキャラだろう。深雪が登場する場面を楽しみに読み進める読者も多いに違いない。
読了日:06月05日 著者:今村翔吾


夢胡蝶 羽州ぼろ鳶組 (祥伝社文庫)夢胡蝶 羽州ぼろ鳶組 (祥伝社文庫)感想
前巻では新之助と武蔵の活躍にスポットがあたったが、今巻ではぼろ鳶の纏番・彦弥が主役級の扱い。女好きの色男の彦弥ゆえ、どうしても軽薄なイメージがついてしまい脇役に甘んじていた彦弥だが、ところがどっこい根っこの部分で純なところがあった。「女の頼みは断らねえ」という意気や良し。流石、女心への寄り添い方は堂に入っている。
読了日:06月09日 著者:今村翔吾


狐花火 羽州ぼろ鳶組 (祥伝社文庫)狐花火 羽州ぼろ鳶組 (祥伝社文庫)感想
前巻『夢胡蝶』で田沼によって語られた問「千人の籠る屋敷、一人が暮らす小屋、どちらかしか救えぬならば、お主はどちらを救う」に対する答えが今巻での源吾の行動であろう。それは一つの答えであり、誠実な生き方、あるいは死に方に違いない。しかし本当にそれで良いのか。松永源吾は妻・深雪、子・平志郎にとって、さらにぼろ鳶組の面々にとってかけがえのない存在だ。もはや蛮勇をふるって死んでも良い存在ではない。源吾が最終的にどのような答えに至るのか興味津々である。このシリーズが描くのは「死に様」ではなく「生き様」であるはずだ。
読了日:06月12日 著者:今村翔吾


玉麒麟 羽州ぼろ鳶組 (祥伝社文庫)玉麒麟 羽州ぼろ鳶組 (祥伝社文庫)感想
満を持して鳥越新之助が主役に登場。と言っても豪商一家惨殺及び火付けの下手人として逃走し失踪するというとんでもない展開。窮地に追い込まれながらも一人で立ち向かう新之助とそんな新之助を信じてなんとか真相を突き止めようとするぼろ鳶組の面々。いや新之助を信じて疑わないのは他の火消も同じ。若き日の長谷川平蔵鬼平)の探索も冴え、事件の真相に迫っていく。失踪中の新之助を描く場面、何が起こっているのかわからないまま事件を探り新之助を助けようとする火消したちや平蔵を描く場面、それぞれをカットバックの手法で描いたは見事。
読了日:06月13日 著者:今村翔吾


ブックのいた街 (祥伝社文庫)ブックのいた街 (祥伝社文庫)感想
犬好きと猫好き。やっぱり私は犬が好きだ。犬の心には”献身”がある。いとおしいではないか。私は生き物を飼うことをしないと心に決めている。かわいがるだけの十分な時間がとれないし、なんといっても死に別れるのがいやだから。しかし、本書を読んで犬を飼いたくなった。狂おしいほど飼いたくてたまらなくなってしまった。この気持ちを抑えきることができるかどうか、不安である。良い物語を読ませていただきました。ほんとうにじんわり心が温まりました。
読了日:06月14日 著者:関口尚


如何なる星の下に (講談社文芸文庫)如何なる星の下に (講談社文芸文庫)感想
がっかりである。舞台は昭和10年代の浅草。浅草に仕事部屋を間借りした中年作家・倉橋が別れた妻への未練を持ちつつ、踊り子の少女に恋慕の情を抱く。浅草の芸人や物書きたち、その他住民との交流、浅草の持つ混沌の不思議な魅力とそこに住住む宿命への諦念を前衛的・実験的な手法で描いたということなのだろう。  私小説だかプロレタリア文学だか知らないが、ぐだぐだと無秩序に書き殴った文章は読みづらく美しさのかけらもない。安っぽいヒューマニズムなどまっぴらごめんだし、自己憐憫のニオイがプンプンというのはいただけない。
読了日:06月18日 著者:高見 順


背いて故郷 (新潮文庫)背いて故郷 (新潮文庫)感想
志水辰夫氏の初期三部作と称される一作。やはりラストの叙情性がたまらない。シミタツ節全開である。主人公が男くさい。というかオッサンくさい。しかも面倒くさい性格でもある。直木賞候補には挙がったらしいが、そのあたりに難があったかと思う。しかし、それにしてもシミタツらしい。好きだなあ。
読了日:06月21日 著者:志水 辰夫


ウルフ・ムーンの夜 (ハヤカワ・ミステリ文庫)ウルフ・ムーンの夜 (ハヤカワ・ミステリ文庫)感想
私立探偵アレックス・マクナイト・シリーズ第二弾。アレックスは自分は私立探偵をやめたと言い張っているが、助けを求める人を目の前にして放っておくことなどできない。優秀な(?)相棒(?)も現れた。すくなくともこの相棒は「あんぽんたん」などではない。いけ好かない野郎とおもっていたメイヴン署長が案外味のある男だったことにびっくり。今後の展開が楽しみ。シリーズ第三弾『狩りの風よ吹け The Hunting Wind』も読まねばなるまい。
読了日:06月22日 著者:スティーヴ ハミルトン


モモンガの件はおまかせを (文春文庫)モモンガの件はおまかせを (文春文庫)感想
ペットを巡る人間の身勝手ゆえの問題。これは結構深刻な問題である。その問題を真正面から取り組みながら、軽妙な語り口、登場人物の掛け合いがユーモラスで重くならず、ミステリ小説として存分に楽しませてくれる。お見事としか言いようがない。  相変わらず鴇先生は魅力的で今巻でも大活躍だが、今巻で特に爬虫類担当の服部君とその愛犬・ディオゲネスの活躍が目立った。変態服部君の無駄な知識も笑える。
読了日:06月24日 著者:似鳥 鶏

 

2019年に読んだ本(7月~12月)

 昨年後半の読書記録。

 

深川駕籠 (祥伝社文庫)深川駕籠 (祥伝社文庫)感想
男、それもひとかどの男であることは難しい。彼の漱石も言っている。智に働けば角が立つ。情に掉させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。意地、見栄、いやそんなものじゃない。己の胸に手を当てて納得できるかどうか、誰に対しても胸を張れるか、それを己に矜持にかけて問うて一点の曇りもない。窮屈だがそんな男がカッコイイ。
読了日:07月17日 著者:山本 一力


双風神 羽州ぼろ鳶組 (祥伝社文庫)双風神 羽州ぼろ鳶組 (祥伝社文庫)感想
いよっ! 待ってました! 早速読みましてございます。  源吾が風読み・加持星十郎と魁・武蔵を伴い上方へ向かうという成り行きから、当然いよいよ星十郞が暦法論争で憎き土御門をぎゃふんと言わせ、武蔵と水穂の仲が進展するのだろうと想像したがさにあらず。大坂の火消とともに“緋鼬”に立ち向かうというストーリーであった。肩透かしを食らったかたちだが、なんの、楽しみは先にとっておこう。それにしても舞台が江戸を離れると深雪殿の出番が減ってしまう。それがさみしいと感じてしまうのは私だけではないだろう。次作に期待が高まる。
読了日:07月20日 著者:今村翔吾


お神酒徳利 (深川駕篭) (祥伝社文庫)お神酒徳利 (深川駕篭) (祥伝社文庫)感想
お神酒徳利とは「酒を入れて神前に供える一対の徳利」のこと。作中で尚平と相思相愛の仲にあるおゆきが尚平と新太郎のことを例えていう場面がある。尚平とおゆきはお互いの思いはどんどん強まるが現実面で二人の仲は遅々として進まない。それが読者としてじれったくもあるが、そうであってこそ尚平と新太郎というコンビがおそらくは唯一無二のものであることを物語る。本作で光ったのは芳三郎の肝の太さ。どうやら山本一力氏は肝の太さが男の値打ちを図るもの差しであると考えていらっしゃるのではないか。そのことに異論は無い。
読了日:07月24日 著者:山本 一力


花明かり 深川駕籠 (祥伝社文庫)花明かり 深川駕籠 (祥伝社文庫)感想
単行本は2011年に上梓された。続編の出版を探したが無い。一力先生、酷うございます。これまでの二巻で新太郎とさくらの間に明らかに恋愛フラグがたっていたはずじゃないですか。今巻で花椿の女将・そめ乃に恋煩いした。そういうこともあるだろう。しかしこれを切りに続編が無いとなると話は別だ。今巻の結末で新太郎はそめ乃への想い一応のけりを付けたかのように読める。ではやはりさくらと結ばれるのか。あるいは幼なじみのひとみとという展開が。一力先生、伏線が回収されないままです。どうあっても続編を書いていただくしか無いでしょう。
読了日:07月25日 著者:山本 一力


小説 天気の子 (角川文庫)小説 天気の子 (角川文庫)感想
ひと言でいうと「一途」。ただ会いたいという気持ちだけで突っ走る。そんな感覚は遠い昔に忘れてしまっていた。「そう強く願う。そう信じる。そのはずだと思い込む。世界はちゃんと、そうやってできているはずだ。強く望めば、きちんとその通りになるはずだ。そう思う。そう願う。そう祈る」という一節が印象的だ。映画はヒットするだろう。映画を観てこの小説を読むともう一度熱い想いがこみ上げるだろう。でも私は映画を観ずに小説を読んだ。ディスる気はないが小説のみでは新海氏の世界を脳内変換しづらい。それでも描かれた世界に胸を熱くした。
読了日:07月26日 著者:新海 誠


これは経費で落ちません! 6 ~ 経理部の森若さん ~ (集英社オレンジ文庫)これは経費で落ちません! 6 ~ 経理部の森若さん ~ (集英社オレンジ文庫)感想
発売と同時に購入。新刊を心待ちにしている自分がいる。私はすっかり沙名子さんを好きになっている。そんな沙名子さんが自分の生活スタイルを大切にしつつも、微妙に太陽にペースを乱されるところを見ると軽く嫉妬を覚える。と同時に常に冷静さを保ちつつも、太陽のこととなると心にさざ波が立つところがかわいくもある。TVドラマ化された由。森若沙名子←多部未華子、山田太陽←重岡大毅か・・・うーんイメージが違うように感じるのは私だけか。
読了日:07月31日 著者:青木 祐子


リーチ先生 (集英社文庫)リーチ先生 (集英社文庫)感想
沖亀之助とその子・高市は実在の人物では無く、著者が物語の中で作り上げた人物のようである。第三者たる亀之助の目を通じることによって、リーチと柳宗悦武者小路実篤白樺派の若者、のちに陶芸家として偉大な足跡を残す富本憲吉、濱田庄司河井寛次郎らとの交流を読者は目の当たりにするように知ることができる。しかし亀之助のリーチ崇拝ぶりが極端すぎて鼻白む場面もある。しかしそれも陶芸家として成功を収めた息子・高市がすでに九十歳になるリーチに会うためにリーチ・ポタリーを訪れるという美しいエピローグに救われている。
読了日:08月03日 著者:原田 マハ


鴨川食堂まんぷく (小学館文庫)鴨川食堂まんぷく (小学館文庫)感想
6話それぞれに味があるが、第5話「カツ弁」が特に味わい深い。昨今の「情熱こそすべて」とする恋愛礼賛主義にさりげなく異を唱え、人を思いやる心こそが至上であるとしたところがよい。「夫子の道は忠恕のみ」日本男児大和撫子はもう一度節度を取り戻さねばならぬと私も思う。余談であるが、食堂で供される酒にも注目したい。福井「紗利」、姫路「八重垣」、新潟「鶴齢」、京都「蒼空」と日本酒のセレクトが素晴らしい。日本酒だけではない。沖縄の泡盛「瑞泉」、マンズワインの「リュナリス」「ソラリス」と食にあわせて供される酒は本物だ。
読了日:08月07日 著者:柏井 壽


カール・エビス教授のあやかし京都見聞録 (小学館文庫)カール・エビス教授のあやかし京都見聞録 (小学館文庫)感想
京都には連綿とした人の営みによる歴史の屍が累々と積み重なっている。現代にあってもそこかしこに古さの残る京の街には、ちょっとしたきっかけで怪しい世界に足を踏み入れてしまいそうな危うさがある。現実世界と隣りあわせにもののけの住む異相世界があり、ふと何かの弾みに人が迷い込んでしまうような怖さがある。蘆屋道満安倍晴明陰陽師伝説(葛の葉)、横笛伝説、おかめ伝説、小野小町を慕った深草少将の悲恋伝説、現代を歩きながらその昔に思いをはせる愉しみは京都ならではのものだろう。そこかしこにちりばめられたグルメ情報も楽しい。
読了日:08月10日 著者:柏井 壽


夜空の呪いに色はない (新潮文庫nex)夜空の呪いに色はない (新潮文庫nex)感想
この物語に登場する人物は皆、純粋である。しかも若くても大人になると言うこと、失うと言うことがどういうことか知っている。たとえ十分な経験がなくとも、世界が完璧でないことを知っている。どうすれば良いか解らないからといって虚無的な態度に逃げるような浅はかなバカでもない。あくまでひねくれたりひがんだりすることなく知的で、物事を真正面からとらえている。おそらく自分の一部を捨てるという否定から始まった物語は登場人物がその物語を否定することによって肯定に変わる。この物語は悲劇では終わらない気がする。次作完結編に進む。
読了日:08月10日 著者:河野 裕


きみの世界に、青が鳴る (新潮文庫nex)きみの世界に、青が鳴る (新潮文庫nex)感想
もし成長の過程で捨てた自分の一部を別の世界で生きつづけさせることができたら。この物語はそうしたことをモチーフとして書かれたのだろう。憐憫かもしれない。感傷的に過ぎるかもしれない。しかし若さとはそういうものだろう。変わりたくない自分がいる。捨てたくない夢がある。最終的に選ばなかったものの、あのときそうしていればという選択がある。還暦近くなった私でも、そうした若さを思うとき涙を流しそうになる。それは自分の心の中の奥底に閉じ込めているやわらかく傷つきやすい部分だ。本シリーズで若かった頃の心緒に触れた気がする。
読了日:08月22日 著者:河野 裕


風のかなたのひみつ島 (新潮文庫)風のかなたのひみつ島 (新潮文庫)感想
壱岐島に旅行したときにバッグに詰めて携行した本。島に行くときこれほど携行するにふさわしい本もあるまい。東ケト会のころに比べると歳を重ねた落ち着きを感じるものの、シーナさんの島に対する偏愛ぶりは健在である。答志島、網地島、粟島、池間島加唐島怒和島奄美大島加計呂麻島・・・未だ行ったことのない島ばかりである。いずれ自転車旅のコースに入れて訪れるとしよう。自転車と本とカメラ。それらを携えて島に渡り、島の魚と冷たく冷えたビールがあれば島は天国だ。
読了日:08月23日 著者:椎名 誠


週刊 「 司馬遼太郎 街道をゆく 」 17号 5/22号 壱岐・対馬の道 [雑誌] (朝日ビジュアルシリーズ)週刊 「 司馬遼太郎 街道をゆく 」 17号 5/22号 壱岐・対馬の道 [雑誌] (朝日ビジュアルシリーズ)感想
壱岐島クルーズに出かける際、本棚から抜き出して持っていった。島に息づく歴史、島の風土、司馬遼太郎の時空を超えた旅がビジュアルに蘇る。同じく玄界灘に浮かぶ島であっても、壱岐人が農耕と対馬人が漁村と気質が違い、お互いに反目していることが興味深かった。実際に壱岐島で赤雲丹丼を食べているときに壱岐の人と話してみてそれを確認して笑ってしまった。また現在の壱岐の人は長崎県人でありながら、長崎に行くことはまれで、福岡の文化圏であると聴いて興味深かった。旅をするとき、その地の巻を持っていくと旅に興を添えることができる。
読了日:08月29日 著者: 


貝がらと海の音 (新潮文庫)貝がらと海の音 (新潮文庫)感想
ひと言でいうと満ち足りた老後。ここには幸せのかたちがある。それは普遍的な幸せではないかもしれない。でも私がそうありたいと願う幸せそのものだ。何もかもがそろっているというのでははい。贅沢をしているのでもない。老いに伴うちょっとしたイヤなこともある。たとえばものを落としそうになってもとっさに反応できない。お茶をこぼしてしまうこともある。そうした老いを受け入れて、今ある現状を、毎日を肯定する。歳をとれば誰もが自然にそのような境地になれるわけではない。おそらくそうあるために積み重ねてこられたものの結果だろう。
読了日:08月31日 著者:庄野 潤三


酒呑みに与ふる書酒呑みに与ふる書感想
五月に京都で書店めぐりをしたときに買った一冊。上京区俵屋町の「誠光社」であった。装丁はあまり好きではない。表紙にごちゃごちゃと活字が踊っているしその書体も陳腐だ。美しくないのである。しかし、このアンソロジーに収められている作品の作者を見るや、これほどの豪華作家陣を目にして買わずにはいられないではないか。
読了日:08月31日 著者:マラルメ,村上春樹,川上未映子,角田光代,小池真理子,いしいしんじ,田村隆一,木山捷平,中島らも,谷崎潤一郎,森澄雄,岡田育,安西水丸,草野心平,菊地信義,夏目漱石,室生犀星,菊地成孔,藤子不二雄A,内田樹,鷲田清一,ボードレール,堀口大學,江戸川乱歩,佐藤春夫,井伏鱒二,吉行淳之介,開高健,伊集院静,北方謙三,松浦寿輝,古井由吉,島田雅彦,吉井勇,大伴旅人,折口信夫(訳),松尾芭蕉,佐伯一麦,福田和也,水上瀧太郎,吉田健一,丸谷才一,中村稔,大岡信,筒井康隆,ヴァレリー


男のチャーハン道 日経プレミアシリーズ男のチャーハン道 日経プレミアシリーズ感想
パラパラでおいしいチャーハンを作るための実験と検証の繰り返し。その過程を丁寧に綴ったレシピ。チャーハン一品の作り方を237ページで解説した世界一長いチャーハン・レシピである。なにもチャーハンはパラパラでなければいけないわけではない。私はラードを使った濃厚味ベタベタチャーハンも好きである。しかし、ごはんに卵をまとわせながら大振りの中華鍋を煽りぱらぱらになるまで炒めるスピード技はやはりあこがれ。だが、なんと鍋を煽ることに意味はないと意外な結論。そうではあっても私は鍋を煽って作りたい。パフォーマンスも一興です。
読了日:09月03日 著者:土屋 敦


波のむこうのかくれ島 (新潮文庫)波のむこうのかくれ島 (新潮文庫)感想
島はイイ。山間部生まれの私には海に対する憧れがある。海は広いな大きいな。月がのぼるし日が沈むのだ。魚もうまいのだ。それが島となれば独立した一箇の主体性を感じるのだ。小さな島の持つ主体性。小さくともキチンと自分を主張しているところがイイ。時間の過ぎ方も島では違う気がする。そんなところがイイ。すごくイイ。印象的なのは写真の「青」。青は私の一等好きな色である。カバー写真の白砂の海岸にある白い物見台に据えられた白い椅子で日光を浴びているシーナさんの写真がすべてを物語っているではないか。
読了日:09月05日 著者:椎名 誠


上流階級 富久丸百貨店外商部 (小学館文庫)上流階級 富久丸百貨店外商部 (小学館文庫)感想
上流階級、誰もがなりたいと憧れる階級である。一部のひねくれ者を除いて。今や死語だろうが、プチブルなどといった中途半端なブルジョアではなく、正真正銘のハイソサイエティに属する人々。日本は外国ほど格差が激しくないし、敗戦によってリセットされたこともあってさほど目立たないが、そのような上流階級が確かにいる。むしろあからさまに上流階級であることをひけらかさないところが上流階級たる所以かもしれない。上流階級と話すときに褒められたことを真に受けてはならない。もしや当てこすりではないかと疑わねばならないとは怖いことだ。
読了日:09月10日 著者:高殿 円


上流階級 富久丸百貨店外商部 (2) (小学館文庫)上流階級 富久丸百貨店外商部 (2) (小学館文庫)感想
其の一を読んで、その面白さにびっくり。 早速、其の二を購入。一気読み。読んでいて改めて感じたのは一日二四時間一年三五六日という時間だけは貧富の差なく与えられるもの。富める人は時間を外商という道具を使って金で買うのだということ。後半のヤクザとの駆け引き、四季子夫人とのやりとり、どちらも緊迫した場面ながら腹の据わった静緒の対応が小気味よい。どうやら高殿円氏は鉱脈を探り当てたらしい。二巻で終わるのはもったいない。続編希望。
読了日:09月20日 著者:高殿 円


山の上の家―庄野潤三の本山の上の家―庄野潤三の本感想
「山の上の家」が舞台となった庄野氏の晩年の作品において、充たされた「いま」の表現は切ない。ほほえましいが切ないのだ。取るに足りない日常がいかにかけがえのないものであることか。人が生きるのであるから辛いこと、悲しいこともあったに違いない。しかし庄野氏はその中に良きものだけを見ようとした。嬉しかった。楽しかった。おいしかった。キレイだった。そこには伴侶の、あるいは子どもたち、孫たち、さらにはご近所さん、友人の幸せを切ないほどに希求した姿がある。今日は2019年のお彼岸。「山の上の家」が一般公開される日である。
読了日:09月23日 著者:庄野 潤三


遠い山なみの光 (ハヤカワepi文庫)遠い山なみの光 (ハヤカワepi文庫)感想
ラストシーンでの悦子とニキの会話に港に行った日のことが語られる。「あの時は景子も幸せだったのよ」と。確かに物語の中盤にフェリーで稲佐へ渡ったシーンがあるが、その時は景子は未だ悦子のお腹の中だったはずとどんでん返しに気づく。ということは想い出として語られる佐知子と万里子親子は悦子の作り話で実は自分たちのことなのか。あるいは悦子は狂いかけているのか。なんだか落ち着かない不穏な余韻を残す小説。ブンガク的価値はあるのかもしれないが、私の好みではない。以前に読んだ『日の名残り』は好きなのだが・・・
読了日:09月30日 著者:カズオ イシグロ


東京會舘とわたし 上 旧館 (文春文庫)東京會舘とわたし 上 旧館 (文春文庫)感想
まるでタイムスリップして東京會舘に足を踏み入れたかのような錯覚に陥る。「灯火管制の下で」が良い。「しあわせな味の記憶」も。「ガトー」「ガトーアナナ」「プティフール」「パピヨン」どの菓子も食べてみたい。とりあえず東京會舘のオンラインショップで「プティフール」を買ってしまった。(^^ゞ
読了日:10月04日 著者:辻村 深月


東京會舘とわたし 下 新館 (文春文庫)東京會舘とわたし 下 新館 (文春文庫)感想
大正から令和まで、會舘の時間はゆっくりと今日も歴史を刻む。それはそこに働く人たち、訪れた人たち一人ひとりの思い出の積み重なりだ。會舘に縁のあった人たちのエピソードがささやかな伝説として語られる。その人たちに対する深い敬意とともに。いかなる時代、状況下にあっても、真心はある。それは明日をあきらめず信じる人だけが持てる心かもしれない。章を重ねるごとに會舘への愛着が増し感動が深まっていく。少しずつ高まっていた感情がピークに達し涙腺が決壊した。「金環のお祝い」で一度、「煉瓦の壁を背に」でさらにもう一度。
読了日:10月08日 著者:辻村 深月


いちばんやさしいRPAの教本 人気講師が教える現場のための業務自動化ノウハウ (「いちばんやさしい教本」シリーズ)いちばんやさしいRPAの教本 人気講師が教える現場のための業務自動化ノウハウ (「いちばんやさしい教本」シリーズ)感想
RPAとは、デジタル労働者を雇うようなもの。ただし、その労働者は自分で気を利かすような臨機の判断が出来ないので、あらかじめすべてを細大漏らさず指示してやる必要がある。そのように融通は利かないが、指示さえ的確であれば、正確さとスピード、勤勉さにおいて極めて優秀な働き手となる。何でもしてくれるわけではない。どんな業務に向いているか、あるいは不向きかを見極めることがポイント。「RPA」導入に必要なことは「業務の洗い出し」「見える化」「標準化(誰がやっても出来る)」→つまりは業務の効率化そのもの
読了日:10月11日 著者:進藤圭


山の音 (新潮文庫)山の音 (新潮文庫)感想
ひと言で云えばこの世は無常ということか。信吾の老いと死の予感、保子の姉や友の死、菊子の堕胎、戦争と戦争未亡人、物語全体を死がおおっている。信吾は人生が思いどおりにならないことを諦観する心境にまでは至らない。かといって、自らの思いを遂げるべく能動的に動くこともしない。そのことは信吾が内心愛している息子の妻、菊子も同じである。世を無常であると知り、それを受け入れるかたちで生きようとする姿は無常という苦を克服しようとするよりむしろ受け入れようとする態度であり極めて日本的で、そこに高度な精神性を感じる。
読了日:10月25日 著者:川端 康成


ザ・ボーダー 上 (ハーパーBOOKS)ザ・ボーダー 上 (ハーパーBOOKS)感想
この小説は日本人には書けない。むしろ書けないことを喜ぶべきだろう。金が人の心を支配し、金を巡る猜疑心は信頼の絆を裁ち切る。金が人を屠り、恐怖をあやつり誇りは地にまみれる。人を思うやさしい心など道ばたに咲く花の如くいとも簡単に踏みにじられる。果てしなく増幅し続ける憎しみと復讐の連鎖は制御不能なのか。これはもはや麻薬を作る者、売る者、買う者、取り締まる者だけの物語では無い。人は金のためにどれだけ良心から目を背け続けることが出来るのか。果たして読者はこれをフィクションだと傍観者をきめこむことができるだろうか。
読了日:10月31日 著者:ドン ウィンズロウ


犬の力 上 (角川文庫)犬の力 上 (角川文庫)感想
読み出したらもう停まらない。これは本当にフィクションなのか? アメリカと中南米にわたる麻薬戦争。この本の臨場感といったらどうだ。現実にもこんなことはあるんじゃないか? 実在の人物や事件をベースに書いたのかと思うほど物語がリアルに迫ってくる。主人公アート・ケラーの魅力もさることながら、麻薬カルテルの面々の人物像が異彩を放つ。娼婦のノーラ、アイルランド系の若者カランとその妻シヴォーンと魅力的な脇役が哀しみを添える。ケラーが正義のために為したことが殺しと復讐の連鎖を生む。罪の意識こそがケラーの背負う十字架だ。
読了日:11月13日 著者:ドン・ウィンズロウ


犬の力 下 (角川文庫)犬の力 下 (角川文庫)感想
上巻574P、下巻467Pの量感、物語の始まりから最後まで息をつかせない疾走感、すごいというしかない。「このミステリーがすごい! 2010年版 海外編」(宝島社)で第一位に輝いたのも肯けようというもの。読み出したらもう停まらない。これは本当にフィクションなのか? 実在の人物や事件をベースに書いたのかと思うほど物語がリアルに迫ってくる。ケラーが正義のために為したことが殺しと復讐の連鎖を生む。赤ん坊が母親の腕の中で死んでいる姿、母が上に子が下に、その姿を常に思い起こす罪の意識こそがケラーの背負う十字架だ。
読了日:11月17日 著者:ドン・ウィンズロウ


夜行 (小学館文庫)夜行 (小学館文庫)感想
まことに怖い小説です。何か得体の知れない世界に潜り込んでいくような感覚が読者を落ち着かない気分にさせます。登場人物それぞれが語る物語、「尾道」「奥飛騨」「津軽」「天竜峡」「鞍馬」がバラバラのようで繋がっているように感じる。まさに夜はどこにでも通じているのだ。そして夜行とパラレルの状態で曙光がある。いや、パラレルの状態というよりは対極として曙光がある。いやいや、そうではなく夜行の末に曙光があるのかも知れない。そう考えるとこの不気味な物語にも救いと希望がある。
読了日:11月20日 著者:森見 登美彦


モップの精は旅に出る (実業之日本社文庫)モップの精は旅に出る (実業之日本社文庫)感想
「この本はキリコちゃんシリーズの五作目になり、そして最後の本になる」 近藤史恵さんは本書の「あとがき」の書き出しにこう書かれた。それによると近藤さんがキリコを主人公とした短編を書き始められたのは1997年だとか。私がキリコちゃんシリーズを読み始めたのが2014年8月のことでシリーズ第一弾から第四弾まで一気に読んだ。そしてとうとう本作が最後。完結ではない。しかし最後であるからにはこの後新作に出会うことはなくなったわけだ。少し寂しい気がする。しかし近藤さんの他の作品を読むことはできる。それで良いではないか。
読了日:11月20日 著者:近藤 史恵


赤めだか赤めだか感想
8年前の今日、談志は逝った。今月の四金会(毎月第四金曜日の読書会)の課題本に私はこの本を推薦した。立川流一門の弟子たちがいかにして談志(イエモト)に育てられたか。いかに談志(イエモト)に心酔していたか。本書を読むとそうしたことがひしひしと感じられる。「修行とは矛盾に堪えることである」「落語とは人間の業の肯定である」「嫉妬とは己が努力、行動を起こさずに対象となる人間の弱みを口であげつらって、自分のレベルまで下げる行為」談志(イエモト)の言葉がまざまざと蘇り、この時代にあってさらに輝きを増す。
読了日:11月21日 著者:立川 談春


黄金雛 羽州ぼろ鳶組 零 (祥伝社文庫)黄金雛 羽州ぼろ鳶組 零 (祥伝社文庫)感想
火喰鳥こと松永源吾と深雪との出会いの話をいつか詳しく読みたいと思っていた。今巻で読むことができたいへん嬉しい限りである。本作で考えさせられたのは「男の値打ち」 火消しは江戸の華。鯔背な姿は人々の憧れだ。命がけの仕事に配下の者を率いるとなれば見栄を張ることも大事だろう。しかしその男がホンモノかどうかは度量のあるなしだろう。本当に大切なものは何か、ものの道理はどうか、己が力の限界、そうしたことをわきまえて一番良い結果を得るために敢えて見栄を捨てて行動する。松永重内は男だぜ。
読了日:11月29日 著者:今村翔吾


ぐるぐる問答 森見登美彦氏対談集 (小学館文庫)ぐるぐる問答 森見登美彦氏対談集 (小学館文庫)感想
伊坂幸太郎氏、辻村深月氏との対談が加わっている。豪華なおまけである。装画がカメントツ氏になり番外編として登美彦氏インタビューが「カメントツの漫画ならず道」として漫画になっている。これにより登美彦氏が腐れ大学生を続け切らなかった理由が明らかになった。それは「逃げ」ではないかというカメントツ氏のスルドイ指摘に対し、登美彦氏は曰う。「読者が不幸になっても幸せになりたい・・・」と。本音を言えば私も腐れ大学生ものを書いて欲しかった。しかしおまけに免じて登美彦氏には「死んでも腐れ大学生ものを書け!」とはいわずにおく。
読了日:11月30日 著者:森見 登美彦


ストラスブール美術館展(図録)ストラスブール美術館展(図録)感想
2019/11/11、姫路市立美術館での展覧会開会式に出席し観覧。クロード・モネの「ひなげしの咲く麦畑」はぼかしたような柔らかい光と色は観る者のこころを癒やしてくれる。はポール・シニャックの「アンティーブ、夕暮れ」は観たかった作品。青色とバラ色、黄色、オレンジの点描による港の風景。一日の終わりの柔らかい光がほんとうに美しい。そして、最も強く惹きつけられたのはマリー・ローランサンの「マリー・ドルモワの肖像」でした。アーモンド型のブルーの瞳に完全に魅せられました。なんと美しい女性であることか・・あぁ・・・
読了日:11月30日 著者: 


雪国 (新潮文庫)雪国 (新潮文庫)感想
島村が私から見ればいけ好かないヤツです。しかし川端の文章が美しく抒情的で、物語がゲスに流れずに済んでいる。島村は、田舎芸者の駒子との関係が終わりに近いことを感じながら、その潮時をはかりつつ別れかねて逗留を続けている。駒子とのことに正面から向き合おうとせず、結局どちらにも踏み出さないずるさと非情さを持つ。それに対し駒子は純粋である。島村との関係において駆け引きや計算高さなどみじんもないのである。純粋といえばもう一人の女、葉子もそうである。島村と駒子、葉子の対比によって雪国とそこに棲む人の美しさが際立つ。
読了日:12月04日 著者:川端 康成


乙嫁語り 12 (ハルタコミックス)乙嫁語り 12 (ハルタコミックス)感想
相変わらずの緻密な画。これまで森さんの描く民族衣装に感心しきりだったが、今巻では「髪」が凄い。それこそ第八十一話が「髪」と題した逸話である。よくもまあここまで見事に描けるものだ。 「何もやることがない一日」を描くなど、事の無い日常が過ぎて行くがそれがかえってロシアの南下政策の不穏な影を強調しているように感じるのは私だけか。スミスとタレスの前途に幸あれと願う。  それはそうと応募者全員にあたるという【ハルタ豆文庫】は5冊すべて是非とも手に入れたい。早速amazonのサイトをポチッとしてしまったぞ。
読了日:12月25日 著者:森 薫


ザ・カルテル (上) (角川文庫)ザ・カルテル (上) (角川文庫)感想
”悪魔は天使の羽を生やして現れる”  前作『犬の力』で一匹狼のDEA(アメリカ麻薬取締局)捜査官、アート・ケラーは悪魔の粉の流入を断つためメキシコの麻薬カルテルと壮絶な戦いを繰り広げた。一見それは持ち込もうとするメキシコ(麻薬カルテル)とアメリカの国境を挟んだ攻防、いわば麻薬との戦争である。持ち込もうとする南米を叩き潰せば解決するように見える。しかし問題は北米にある麻薬に対する飽くなき欲望だ。快楽(薬)への欲望と富への欲望(貧困)は人の愚かさの典型だ。人は欲望によって怪物にも悪魔にもなる。下巻を読もう。
読了日:12月29日 著者:ドン・ウィンズロウ

読書メーター

年越し夜明け前の様子(落語三題)

 私の毎年の年越し風景はおおかた決まっているような気がします。正月を迎える準備として鰤の照り焼きを作る。豚の角煮を手間暇かけて作る。その二つが私の担当だ。あとは酒を呑む。大商大の学生が造ったという「商酎」という芋焼酎をやる。知人からいただいたものだがなかなかうまい。息子が帰ってきてからは酒に帰る。息子が手土産に持ち帰った「桜室町 備前幻」。雄町米らしい味を堪能する。蕎麦を手繰る。今年は親戚からもらった巻き寿司もいただいた。

 紅白は視ない。お笑いのバカ騒ぎに嫌気がさし、テレビ朝日の「朝まで生テレビ!」を視る。しかし朝日的なところに嫌気がさす。かつては展開される議論に熱くなり文字どおり朝まで視たものです。しかしこの歳になると世の中が白黒、善悪、左右といったように単純に割り切れるものではないということがわかってしまい、TVで映される喧々囂々の議論がむなしくなる。やはり落語がいいなとYouTubeで落語を聴きながら元日の朝を迎えます。

 年越しに聴きたい落語の一番はやはり「芝浜」。私は酒呑みなので自分への戒めの意味もあります。いろんな噺家のものがそれぞれに味わい深いものですが、今年は談春にしました。談志の「芝浜」を聴いて立川流の門をたたいたというエピソードを思い出す。


立川談春・芝浜

 

 二番目は「掛取万歳」。圓生の語りが好みです。


圓生 掛取万歳

 

 三番目は志の輔の新作「歓喜の歌」。志の輔さんの人への温かいまなざしが感じられる名作です。


立川志の輔・歓喜の歌

 

マッシュルームとフレッシュトマトとミニセロリたっぷりパスタ

本日の厨房男子。

年末になぜ年越し蕎麦をいただくのか。これにはいろいろな説があるらしい。

  • 細く長いことから延命・長寿を願ったものであるとする説
  • 蕎麦が切れやすいことから、一年間の苦労や借金を切り捨て翌年に持ち越さないよう願ったという説

他にもいろいろあるそうですが、昼飯にマッシュルームとフレッシュトマトとミニセロリたっぷりパスタを作りました。細く長いし、固めにゆでたので切れやすい。文句なかろう。

午後にはご近所さんが手打ちの蕎麦を下さるという。夜は蕎麦を食う。酒はその時までおあずけだ。