佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

小松菜とさつま揚げの煮びたし、肉豆腐ほか

2021/07/02

 本日の厨房男子。

 まずは朝餉。昨夜、久しぶりに酒をがぶ飲みしたので、ウコンを摂取。「さやインゲンのキーマカレー」と「卵と桜エビのスープ・蜆エキス風味」。これで胃腸も肝臓も完全復活。

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 続いて昼餉。あっさりと和風で。まずは「小松菜とさつま揚げの煮びたし」。こいつで黒糖焼酎「喜界島」をロックでやる。今日も肝臓は絶好調だ。

 〆御飯は「ガゴメ昆布と野菜のきざみ漬け」のぶっかけメシ。「きゅうりのキューちゃん」もうまい。キューちゃんはご近所のHさんの自作のものをいただいた。市販のものよりうまい。

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 夕餉は松阪牛。弟が贈ってくれたもの。しゃぶしゃぶ用だったが、肉豆腐にしていただいた。こうすると牛も豆腐も葱も主役になる。葱は浅く切り目を入れて少量の油で焼いておくと芳ばしく、しかも出汁が良く沁みてやわらかい。牛肉には片栗粉を軽く振っておくとしっかりと煮ても堅くならず出汁を吸ってぷるぷるの肉になる。もともとしっかりおいしい和風だしに葱と牛の風味を加えた汁で煮込んだ豆腐のうまいのなんの。こいつぁ酒がすすむぜ。酒は「池亀 金魚ラベル」。〆は雑炊。あぁ、たまらん。

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2021年6月の読書メーター

2021/07/01

 先月の読書のまとめ。

 シーナさんのエッセイ、犬の物語、食にまつわるミステリ、本の物語、ブラッドベリのSF金字塔・・・なかなか充実した読書でした。

 

6月の読書メーター
読んだ本の数:14
読んだページ数:4958
ナイス数:1398

どうせ今夜も波の上 (文春文庫)どうせ今夜も波の上 (文春文庫)感想
山形県酒田市への「ワンタン麺突撃隊」、私もやってみたい。酒田が間違いなく日本の、いや世界のワンタン麺の未来を担っているとの椎名氏の指摘に激しく同意する。シーナさんがオモシロ本だと仰る『ブレイン・ドラッグ』(アラン・グリン:著/文春文庫)を発注してしまった。読むべき本がどんどんたまっていく。もっともっと長生きしなければならないな。積読本がたまればたまるほど健康に対する意識と意欲が高まっていくぞ。わけの分からないサプリメントを飲むよりシーナさんのエッセイを読め。
読了日:06月01日 著者:椎名 誠


幻想の犬たち (扶桑社ミステリー)幻想の犬たち (扶桑社ミステリー)感想
『少年と犬』(ハーラン・エリスン)は先日読んだ短編集『世界の中心で愛を叫んだけもの』で読んだもの。やはり名作で、本書の16作品中でもベストであった。他に気に入ったのは『私刑宣告 』(デーモン・ナイト)、『銀の犬』(ケイト・ウィルヘルム)、『悪魔の恋人』(M.サージェント・マッケイ)、『一芸の犬』(ブルース・ボストン)といったところ。個人的には犬の物語に心温まるものを期待していたので少々期待はずれ。そうはいっても犬と人との関係は作家の創作意欲を一際かき立てるようで、それぞれキラリと光る短篇ぞろいでした。
読了日:06月02日 著者: 


陽だまりの天使たち ソウルメイトII (集英社文庫)陽だまりの天使たち ソウルメイトII (集英社文庫)感想
本書に馳氏が神という登場人物に語らせた言葉がある。「人間は過去のことを悔やみ,未来のことを思い悩む。だが、犬には過去も未来も関係ない。ただ懸命に今を生きているだけだ」 私もこれからどんどん年老いていくだろう。病を得るかもしれないし、いつかは死んでしまう。しかしそんなことは考えても仕方がない。今を精一杯生きる。できれば楽しく。それしかないのだと本書に、そして本書に登場する犬たちに学ばせてもらった。 7篇すべて良いが、とりわけ「ミックス」と「バセット・ハウンド」「フレンチ・ブルドッグ」が良かった。
読了日:06月04日 著者:馳 星周


トンカチからの伝言 (文春文庫)トンカチからの伝言 (文春文庫)感想
今巻は「一人座談会」が多かったな。なかなか面白かった。シーナさんが激賞するSF小説、ダン・シモンズハイペリオン・シリーズ。おもわず買いそうになったが、そのボリュームに畏れをなし思いとどまる。『ハイペリオン』上巻442P、下巻478P。『ハイペリオンの没落』上巻476P、下巻574P。『エンディミオン』上巻511P、下巻541P。『エンディミオンの覚醒』上巻703P、下巻717P。一月近く家に引きこもることができて、しかも気力、体力がともに充実したタイミングをとらえて一気読みしなければなるまい。
読了日:06月09日 著者:椎名 誠


マカロンはマカロン (創元推理文庫)マカロンはマカロン (創元推理文庫)感想
私は食べることが好きだが、フランス料理ではなく日本料理や居酒屋の肴といったものを好む。中華料理で酒を飲むのも好きだ。ワインよりも日本酒が好きなので、どうもフランス料理には縁遠い。それでも、本作に出てくる料理やデセールは充分おいしそうに感じられる。近藤氏はビストロを訪れる客の所作や食べものの好みで見事に人物の輪郭を描ききる。そしてその客が抱える悩み、屈託、時には悪巧みや逆に人を想う温かい気持ちなどをシェフの三舟がその鋭い洞察力で見抜き、見えなかった真相を皆の前につまびらかにする。お見事としか言いようがない。
読了日:06月10日 著者:近藤 史恵


鎮魂歌  不夜城II (角川文庫)鎮魂歌 不夜城II (角川文庫)感想
いやはやなんともすごいノワール小説であった。ここには愛やら正義などかけらもない。金、セックス、快楽のためなら他人を踏みにじり搾取することを躊躇わない。食うか食われるか、弱いヤツは限りなく奪われる。”弱い”となめられることは死に繋がる。面子が傷つけられたらそれを回復すべく徹底して報復する。でなければ弱者に身を落とし奪われる側になる。殺られる前に殺る。命と面子をかけた殺しと復讐の連鎖はどこまでも続く。どんなことをしても生き残る、それだけが目的であり、生き残った者が正義となる非情な世界はいっそ清々しい。
読了日:06月12日 著者:馳 星周


長恨歌  不夜城完結編 (角川文庫)長恨歌 不夜城完結編 (角川文庫)感想
意外な結末。しかし考えてみれば劉健一が小蓮を自らの手で殺してしまった時点で、この結末しかなかったのかもしれない。彼にはもう小蓮を殺させるように仕向けた者達に対して復讐を果たすことしか生きる目的はなかっただろう。そして復讐を果たすためには、彼は自分が最も忌み嫌っていた人間に自らを造り変える必要があった。復讐が果たされたとき、もう彼に生きる目的はない。馳星周氏は健一に死を与えることで救いようのない地獄を描きたかったのか。あるいは健一を死なせることで魂の安らぎを与えようとしたのか。私には後者であるように思える。
読了日:06月16日 著者:馳 星周


鴨川食堂ごちそう (小学館文庫 か 38-11)鴨川食堂ごちそう (小学館文庫 か 38-11)感想
今作も思い出の味と人情の六話。それぞれおいしく味わわせていただいたが、特に私の舌にあったのは「タマゴサンド」。「親の意見と冷や酒は後に効く」私にも覚えがある。そういえば、この話の導入部で流が川井太郎に振る舞った汁そばの出汁は何だったのだろう。「カツオ出汁の香りは無く、ショウガらしき匂いがする。醤油は使っているが、どちらかというと塩味が勝っており、ほのかに日本酒の香りがする。汁に細かな身らしきものが混ざっている」という情報から、果たしてどんな出汁を引いたのだろうとあれこれ考えたがわからないで悶々としている。
読了日:06月17日 著者:柏井 壽


dancyu (ダンチュウ) 2021年1月号「dancyu30年の集大成。おいしいレシピ100」dancyu (ダンチュウ) 2021年1月号「dancyu30年の集大成。おいしいレシピ100」感想
記念誌に紹介されるレシピだけあって、どれもこれも作ってみたい料理ばかり。この国をリードする料理人や料理研究家、評論家などの想像力と創造力が誌面から津波のように押しよせてくる。私の如き小者にはとてもじゃないが受け止めきれない。それでも我が愚かしき脳が僅かに刺激を受け浮かんだイマジネーションを今後の料理に活かしていきたい。巻末エッセイ「一食入魂」。小山薫堂氏の食に対する気合いに、よよっと圧倒される。「おいしいはいかに感情移入できるか」そして「感情移入とは”愛”なんです」、けだし至言なり。
読了日:06月18日 著者:プレジデント社


雨降る森の犬 (集英社文庫)雨降る森の犬 (集英社文庫)感想
馳星周氏の本を読んだのは本書で7冊目。『少年と犬』『ソウルメイト』『陽だまりの天使たち ソウルメイトⅡ』、本書は人と犬との愛と信頼の物語。『不夜城』『鎮魂歌 不夜城Ⅱ』『長恨歌 不夜城完結編』は殺人と裏切りと復讐の物語だった。馳氏の作品世界の二面性に思い浮かぶ言葉は ”If I wasn't hard, I wouldn't be alive. If I couldn't ever be gentle, I wouldn't deserve to be alive.”  彼のフィリップ・マーロウの科白だ。
読了日:06月19日 著者:馳 星周


仕事で大切なことはすべて尼崎の小さな本屋で学んだ仕事で大切なことはすべて尼崎の小さな本屋で学んだ感想
主人公の成長のきっかけとなる町の小さな書店のオバチャンの話は実在の書店経営者の経験談としてズシリと重い。あたりまえのことをしていてはネット書店や大手書店に勝てない。長くその町にあって、一日一日の積み重ねの結果生まれる信用が書店経営の基本であること。どこで買っても同じ本を、わざわざこの店で買って下さるお客様への心からの感謝の気持ち。あきらめないでなんとかしようとする粘りと根性、さらには周りを巻きこんでいく熱意と行動力。どんな苦労にもめげない明るさ。市井にあって頑張っている人の姿に奮い立つものがあった。
読了日:06月20日 著者:川上 徹也


コロナと潜水服コロナと潜水服感想
ちょっと不思議な物語が五つ。リアリズムこそが知性と信じている私には若干の違和感あり。「コロナと潜水服」という題名に大いに興味を惹かれたのだが、そういうことだったのか。「海の家」大人でいるってことは切ない。「ファイトクラブ」主人公の心の変化が興味深い。その気分、良く分かります。「占い師」ありがちな話だな。ここにある生き方を否定はしないが、好きじゃ無い。伴侶を計算でしか選べない人は切り捨てられても文句は言えないな。「パンダに乗って」いい話だ。小説にはこれが出来る。ファンタジーはこうあって欲しい。
読了日:06月21日 著者:奥田英朗


華氏451度〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫SF)華氏451度〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫SF)感想
現在の社会で表だった焚書は無い。むしろネットなどによる情報過多の様相を呈する。しかし社会の進歩的良識派を自認する人びとが、彼らと考えを異にする人を言論で袋だたきにし、社会から抹殺してしまうほどの苛烈な言動をおこすことに危うさを感じる。例えば反核・反原発、あるいはLGBTジェンダー、反捕鯨などの問題についての議論。私はそれらについて、正論とされるものを否定するものではない。しかし苛烈に正義を振りかざすことも一つの暴力。大切なことは盲信に陥ることなく常に考え続けることと異質なものへの一定の許容だろう。
読了日:06月24日 著者:レイ・ブラッドベリ


たんぽぽのお酒 (ベスト版文学のおくりもの)たんぽぽのお酒 (ベスト版文学のおくりもの)感想
ブラッドベリはダグの十二歳の夏を感性とイメージと言葉の洪水で描いた。暗喩による表現、情景描写が多く、翻訳ということも相俟って読み進むのに苦労する。投げ出さずに丁寧に読んだつもりだが、きちんと理解できたかどうか心許ない。しかし齡六十一歳を数える私の胸がキュンと切なくなった。少しは本書の世界を理解できたということか。三十一歳で独身の新聞記者の青年と九十五歳の老婦人ヘレン・ルーミスの邂逅のエピソードが特に好きだ。同時代に生まれず、この世ではすれ違ってしまった二人が来世では・・・というロマンチックなエピソードだ。
読了日:06月29日 著者:レイ ブラッドベリ

読書メーター

さやインゲンのキーマカレー、煮干しじゃが

2021/06/30

 本日の厨房男子。

 昼餉はさやインゲンのキーマカレー。さやインゲンはご近所さんからたくさんいただいたもの。付け合わせの胡瓜の漬物も別のご近所さんからいただきました。皆さんから気にかけていただいて感謝です。

 デザートはブルーベリーとヨーグルト。あれ? このブルーベリーもご近所さんにいただいたのだった。重ね重ね感謝感謝であります。

 酒は冷凍庫でキンキンに冷やしたラム酒BACARDI。

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 夕餉は煮干しじゃが。肉ではなく煮干しを使ってジャガイモをあまからく煮る料理。田作りを作るような煮干しを油でこんがり炒めて作ると、芳ばしく仕上がります。煮干しからでる出汁の味がジャガイモに沁みて肉じゃがよりうまい。酒は黒糖焼酎「喜界島」を合わせた。

 〆御飯にガゴメ昆布、長芋、胡瓜、オクラ、人参を出汁で和えたものをぶっかけて食う。

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映画『ぼくの伯父さん』

2021/06/30

 映画『ぼくの伯父さん』(1958年フランス)を観た。

 ほのぼのゆる~い人柄の主人公ユロの日常をコメディータッチでスケッチした映画。

 ユロの妹夫婦(旦那は工場経営者)が建てたスタイリッシュで機械化した家での場面が多く出てくるのだが、妹夫婦がブルジョア然とした見栄を張ってはいるが実は小者であるところ、デザインに凝った庭が見た目重視の為にいちいち不便なところ、機械で自動化した便利が実は不自由だったりするところなど、何でも近代化し新しさを気取り、格好をつけ、古き良きもの、人間らしい温かみやゆとりを見失っていくことへの風刺が笑える。

 例えば妹夫婦邸に来客があると、まずは普段は止めている庭の噴水のスイッチを入れてから門の扉を開け客を招き入れる。普段は噴水を稼働させないケチくさいところ、でも人には噴水のある家を演出したいええかっこしいなところを少し小馬鹿にしつつ、しかしあくまでも温かい目でユーモラスに描く。そんなところがこの映画の良いところ。

 

 

 

キャベツと豚バラ肉の春雨炒め

2021/06/29

 本日の厨房男子。

 ふるさと納税でいただいた「かごしま黒豚スライス」とご近所さんからいただいたキャベツを使って春雨炒めを作った。

 最近TVで視た五十嵐美幸さんのレシピを参考に作ったのだが、これがうまかった。仕上げに桜エビをぱらぱらっとかけるところなど、風味が数段良くなった。さすがは五十嵐先生。

 もう一品は「メカブ昆布と納豆のオムレツ」。これまたうまい。

 酒は「奥播磨 山廃純米」を飲み切り。

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『たんぽぽのお酒 Dandelion wine』(レイ・ブラッドベリ:著/北山克彦:訳/晶文社)

2021/06/28

『たんぽぽのお酒 Dandelion wine』(レイ・ブラッドベリ:著/北山克彦:訳/晶文社)を読んだ。

 まずは出版社の紹介文を引く。

輝く夏の陽ざしのなか、12歳の少年ダグラスはそよ風にのって走る。その多感な心にきざまれる数々の不思議な事件と黄金の夢…。夏のはじめに仕込んだタンポポのお酒一壜一壜にこめられた、少年の愛と孤独と夢と成長の物語。「イメージの魔術師」ブラッドベリがおくる少年ファンタジーの永遠の名作。12歳からみんな。

 

 

 

 時は六月のある朝。ダグラス・スポールディングは十二歳。ところはイリノイ州グリーン・タウン。町はまだ安らかに眠っている。静かな朝だが夏の気配がみなぎっている。夏の気配にシンクロするようにダグにも精気が満ち満ちている。夏の最初の朝。一九二八年の夏が今はじまった。

 夏は来て、去っていく。自然の循環の中では毎年の繰り返しに過ぎない。しかし少年にとって十二歳の夏は特別のものなのかもしれない。世界はすべてが新しく不思議に満ちている。彼は世界のあらゆるものを見たい、さわりたい、聴きたい、嗅ぎたい、味わいたい、感じたいと興味津々。色、光、香り、小鳥、樹、花、水、太陽、月、老人、孤独な人、恋する人、機械、夜、暗闇、死、押しよせてくるあらゆるもののイメージを感受する。十二歳は世界を自分なりに解釈し智覚しようとする年ごろ。まだ何も決めつけのない感性は揺らいではいるがしなやかで自在に拡がる。

 プロットが論理的にきちんと組み立てられているような一貫したストーリーはない。ダグの十二歳の夏のエピソードがオムニバスのように連なる。

 ここに書かれたのは次のようなこと。
 例えば、なんでもかんでも時間を省き、仕事を省いて効率化することのつまらなさ、自動車で時速八十マイルでとばすより、散歩が素晴らしいこと。一見ありきたりでささいなことにより味わいがあり、だからこそ大切なのだということ。
 例えば、パリに行きたいと念願していたとして、その願いを機械がバーチャルでかなえて見せてくれたなら、本当に幸福を感じられるのだろうか。その機械は本当に《幸福マシン》なのだろうかということ。
 例えば、人はどうして入場券の半券や劇場のプログラムを取っておくのか。人はいくらかつてあったものになろうとしてみたところで、今ここに現にあるものにしかなれないというのにということ。
 例えば、人は老いていくが、精神はいつも若々しいままかもしれない。人はその人と丁度良い具合に巡り会うために、遅く生まれすぎたかもしれないし、早く生まれすぎたかもしれない。でも生まれ変わっていつか・・・ということだってあるかもしれないということ。
 例えば、人はいつかは死ぬのだということ。幼いときには考えもしなかった死というものへの戸惑い。こんなにも生気に満ち、眩いばかりに輝く夏にも死の影はあるのだということ。
 ブラッドベリはダグのそんなひと夏を感性とイメージと言葉の洪水で描いた。暗喩による表現、情景描写が多く、翻訳ということも相俟って読み進むのに苦労する。投げ出さずに丁寧に読んだつもりだが、きちんと理解できたかどうか心許ない。しかし齡六十一歳を数える私の胸がキュンと切なくなったということは、少しは彼が描いた世界を理解できたということだろう。

 三十一歳で独身の新聞記者の青年と九十五歳の老婦人ヘレン・ルーミスの邂逅のエピソードが特に好きだ。同時代に生まれず、この世ではすれ違ってしまった二人が来世では・・・というロマンチックなエピソードだ。
 本書は図書館で借りた。海外文学の書架を探したがそこにはなく、図書館員に尋ねると推薦図書として別の書棚に展示してあった。中学生向きとして推薦してあったが、それは如何なものだろう。一般の中学生には難しいのではないか。頭の悪い自分をものさしにしているようで申し訳ないがそう思う。『たんぽぽのお酒』という題名のイメージ、レイ・ブラッドベリ知名度、SFの名著であるという評価の高さから手に取る子も多いだろう。その子たちがストーリーを追って読み始めると途中で挫折してしまうのではと危惧する。レベルが高過ぎはしないだろうか。この小説は素晴らしい小説であり、名著といわれるにふさわしいものだということ間違いがないがしかし、むしろ普通の子が名著と賞される本書を読んだにもかかわらずその良さがわからなかったという経験は、無限に拡がり心をワクワクさせてくれる小説の海にこぎ出す機会を逸してしまうことに繋がりはしないか。この小説を中学生向きの推薦図書に推した人が誰だか知らないが、その人は非情にレベルの高い小説を推すことで、自らの知的レベルの高さに鼻高々かもしれないが、けっして若い子たちのことを考えているとはいえないだろう。「中学生にもこの小説の良さがわかる子はたとえ少数であってもいる。その子たちにブラッドベリの素晴らしい世界に触れる機会を与えて何が悪い」との反論もあろう。しかし、すでにそのレベルにある子は、放っておいても本書や世に数多ある名著に親しむに違いないのだ。ちと言葉が過ぎたかもしれないが、これが私の率直な感想だ。