佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

牡丹酒 深川黄表紙掛取り帖(二)

9月5日

牡丹酒 深川黄表紙掛取り帖(二)


「剛直な辛口でいながら、ふっとひとの和みをいざなう隙がある。それでいて媚を売らぬという芸当は、いかにも黒潮踊る土佐の気性であろうの」
 吉保は、ひとに媚を売らない酒だと何度も言葉を重ねた。

                               (本書P119より)

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『牡丹酒 深川黄表紙掛取り帖(二)』(山本一力/著・講談社文庫)を読みました。元禄広告代理店もの「深川黄表紙掛取り帖シリーズ」第二弾です。今回も若者四人衆が人を引きつける魅力と人並み外れた才気でプロジェクトを成功に導きます。

裏表紙の紹介文を引きます。

「ひとに媚びない、生一本な味だ」。定斎売り蔵秀、女絵師雅乃、文師辰次郎、飾り行灯師宗佑の裏稼業四人衆は、柳沢吉保をも唸らせた土佐の銘酒・司牡丹の江戸での広目を請け負う。佐川村までの道中厄介ごとを片付けつつも、知恵と技を揮った大仕掛けは今度も首尾よく運ぶのか!?シリーズ第2作遂に文庫化。

読後感の爽やかな小説です。これは登場人物の人柄によるものでしょう。それぞれが才気に満ち、人に温かく、矜持を胸に凛とした生き方をしています。その魅力に周りが引き込まれてゆき、大きな力となり企画が実現した時、人々の心に感動の波がひろがる。今回、四人衆が広目(広告)しようとした土佐の酒『司牡丹』は現存する酒です。どうやら作者・山本一力氏はけっして媚を売ることなく人の心を捉えていく主人公たちに、自分の出身地の酒『司牡丹』のもつ「剛直な辛口でいながら、ふっとひとの和みをいざなう旨さ」を重ね合わせたようです。

司牡丹酒造の酒は私も何度も飲んだことがあります。キリッとした辛口で切れ味鋭くいくら飲んでも飲み飽きない、飲めば飲むほどに旨味が増してくるような酒です。豪快な飲みっぷりで知られる土佐の酒とはこのようなものかといつも感心します。この本は小説として素晴らしいだけでなく日本酒ファンにはたまらない一冊です。いや、この本を読めばふだん日本酒を飲まない人もきっと飲んでみたくなるはず。それほど山本一力氏の『司牡丹』に対する思い入れが感じられる一冊でした。

 

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