佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

恋文の技術

 ところで、
 我が友よ! 小松崎君よ!
 まずはじめに、先日差し上げた手紙で俺が何を書いたか、ちゃんと読んだかと君を問いつめたい。「君とは長い付き合いだが、もう文通はやめる。さようなら」と俺は書いた。誰がどう読んだって、あれが絶縁状であることは間違いない。
 にもかかわらず、なにゆえ君は手紙を送り続ける?
 白ヤギさんではないのだから、読まずに書くのはやめたまえ。
                      (本書120Pより)


 『恋文の技術』(森見登美彦/著・ポプラ文庫)を読みました。

 

 

([も]3-1)恋文の技術 (ポプラ文庫)

([も]3-1)恋文の技術 (ポプラ文庫)

 

 

 

 

裏表紙の紹介文を引きます。


京都の大学院から、遠く離れた実験所に飛ばされた男が一人。無聊を慰めるべく、文通修業と称して京都に住むかつての仲間たちに手紙を書きまくる。文中で友人の恋の相談に乗り、妹に説教を垂れるが、本当に想いを届けたい相手への手紙は、いつまでも書けずにいるのだった。


 

 昨年末にエッセイ『美女と竹林』(光文社文庫)を読んで以来の登美彦氏である。思い起こせば『美女と竹林』は登美彦氏がなぜか竹を切りたいと思った。そして友人の明石氏を誘って竹林に出かける。しかし竹林は想像以上に手強かったというだけの話であった。その中身のない物語を氏の止め処なく拡がる妄想で膨らませ膨らませ328Pの本にしてしまったのだから開いた口がふさがらなかった。
 そして本作である。主人公、守田・おっぱいに目のない男・一郎は文通武者修行と称して知人に宛て手紙を書きまくる。能登の実験所に飛ばされた人恋しさ故の所行である。本書には守田一郎が書き散らした百通を超える手紙が延々と記されている。『恋文の技術』というタイトルから「炎々と燃えさかる恋心」が綴られているのかと言えばそうでもない。むしろ「悶々とくすぶる屈託」がそれこそえんえんと並ぶ。手紙以外何もないのだから開いた口がふさがらない。と、同時にこの百通を超える手紙をひたすら読んでしまった己の馬鹿さ加減に唖然としてしまう。
 それにしても諧謔を弄する登美彦氏の文章、危険です。極めて強い中毒性を有します。私においては既に毒されてしまい手遅れの感がある。その禁断症状に堪えかね、『STORY BOX Vol.18』から連載が始まった「モダンガール・パレス」を読み始めている始末だ。そして、それだけでは飽きたらず、本書に記された手紙の頭語と結語を書き出して眺めている始末。末期的症状である。あぁ、もう私は元の健康体を取り戻すことはないのであろうか。

 

(以下、書簡の書き出しと結びを抜き出す)

 


第一話 外堀を埋める友へ 

 

 四月九日
  拝啓。

     ・・・・・・・・・・・・・・・
                               匆々頓首
                               守田一郎
  小松崎友也様

 

 四月十五日
  拝啓。
     ・・・・・・・・・・・・・・・
                                   草々
     オチが決まらず吉田神社へ祈った守田一郎
  青春小松崎様

 

 四月三十日
  こんにちは。お手紙拝読した。

      ・・・・・・・・・・・・・・・
 では、さらばぢゃ。
            恋も仕事も後退戦 イチローモリタ
  マシマロ小松崎様

 

 五月十一日
  拝啓。お元気ですか。

       ・・・・・・・・・・・・・・・
 無知はいかんと骨身に染みた。
                          無知無知もりた拝
  おっぱい先生 足下

 

 六月十六日
  こんにちは。

       ・・・・・・・・・・・・・・・
 彼女を失うだけならばまだ良いが、人生を棒に振る。失った人生はpricelessだ。
                 今日はいいこと書いた守田一郎
  外堀を埋める友へ

 

 六月三十日
  拝啓。尊書拝読致し候。

      ・・・・・・・・・・・・・・・
  小生多忙につき、本日はこれにて失敬。
                                  匆々頓首
                             下等遊民拝
  小松崎様

 

 七月十日
  拝啓。

     ・・・・・・・・・・・・・・・
                                     敬具
                          一級ナメクジ退治士

 

七月二十二日
  拝啓。尊書拝見。

      ・・・・・・・・・・・・・・・
  インドへ逃げるのはよせ。
                         親友を心配する守田
  悩める友へ

 

 七月三十日
  拝啓。

     ・・・・・・・・・・・・・・・
                                   匆々頓首
                              男一匹守田一郎
  恋路を走り出した友へ

 


第二話 私史上最高厄介なお姉様へ

 

 四月九日
  拝啓。御無沙汰しております。守田一郎です。

      ・・・・・・・・・・・・・・・
                                   匆々頓首
                                    守田一郎
  大塚緋沙子様

 

 四月十九日
  拝啓。

      ・・・・・・・・・・・・・・・
                                       草々
                         能登のプリマ 守田一郎
  大塚姐さんへ

 

 五月二日
  拝啓。

      ・・・・・・・・・・・・・・・
                恋も仕事も後退戦 イチローモリタ
  大塚・深夜のラーメン大王・緋沙子様

 

五月十五日
  拝啓。お手紙ありがとうございました。

       ・・・・・・・・・・・・・・・
                                イルカ男爵拝
   おもしろ主義者さま

 

 五月二十一日
  拝啓。

     ・・・・・・・・・・・・・・・
                                         草々
                                 無知無知もりた
  大塚緋沙子大王 足下

 

 六月五日
  拝啓。

      ・・・・・・・・・・・・・・・
                                        草々
                                         一郎
  大塚様

 

 六月十日
  拝啓。

     ・・・・・・・・・・・・・・・
                                         頓首
                             温泉大王 守田一郎
  素晴らしき先輩 大塚様

 

 六月二十日
  拝啓。梅雨の候、お変わりなく御活躍のことと、お慶び申し上げます。

     ・・・・・・・・・・・・・・・
                                   泰然自若 守田一郎
  天下無敵大塚緋沙子様

 

 六月二十九日
  拝啓。大塚様。尊書拝読致し候。余は度重なる実験の失敗によって窮地に追い込まれたり。……

      ・・・・・・・・・・・・・・・
                                           匆々頓首
                                         守田イチロー

 

 七月十二日
  拝啓。

      ・・・・・・・・・・・・・・・
                                           匆々頓首
                      男のグローバルスタンダード 守田一郎
  悪のグローバルスタンダード 大塚様

 

 七月二十二日
  拝啓。大塚様。お願いがあります。…

       ・・・・・・・・・・・・・・・
                                           一郎拝

 

 八月二日
  拝啓。

      ・・・・・・・・・・・・・・・
                                           恐惶謹言
                        能登の海より愛をこめて 守田一郎
  私史上最高厄介なお姉様へ

 


第三話 見どころのある少年へ 

 

四月九日
  元気にしてますか。先生は元気です。

      ・・・・・・・・・・・・・・・
  おへんじもらえたらうれしくおもいます。さようなら。
                                          もりたいちろう
  まみやくんへ

 

 四月十六日
  お手紙ありがとう。

       ・・・・・・・・・・・・・・・
 それでは元気で。家庭教師の先生となかよくしてあげてください。
                                          もりたいちろう
  まみやくんへ

 

 四月二十三日
  こんにちは。お手紙ありがとう。

      ・・・・・・・・・・・・・・・
  それではさようなら。
                                          もりたいちろう
  おっぱい少年へ

 

 五月十三日
  こんにちは。

       ・・・・・・・・・・・・・・・
 マリ先生は美人ですか?
                                           もりたいちろう
  まみやくんへ

 

 六月四日
  こんにちは。お手紙ありがとう。

       ・・・・・・・・・・・・・・・
 きみはこのところマリ先生のことばかり書いていますね。
                                           もりたいちろう
  まみやくんへ

 

 六月十七日
  こんにちは。

       ・・・・・・・・・・・・・・・
 わるい人をやっつけるのは大人にまかせましょう。
                                                  もりた
  まみやくんへ

 

 七月十日
  こんにちは。

      ・・・・・・・・・・・・・・・
                                                 もりた
  まみやくんへ

 

 七月十六日
  こんにちは。

      ・・・・・・・・・・・・・・・
  またお手紙ください。
                                              もりたいちろう
  まみやくんへ

 

 七月二十九日
  こんにちは。梅雨があけて、夏らしくなりました。海がきらきらしています。

       ・・・・・・・・・・・・・・・
 夏休みはこれからです。
                                                  守田一郎
  見どころのある少年へ


第四話 偏屈作家・森見登美彦先生へ

 

 五月十八日
  拝啓。森見登美彦様。ご無沙汰しております。

       ・・・・・・・・・・・・・・・
 お仕事の合間にでも、気晴らしにお返事いただければ幸いです。
                                                     敬具
                                                  守田一郎
  森見登美彦先生 足下

 

 五月二十九日
  拝啓。さっそくお返事いただきまして、ありがたく思いました。

       ・・・・・・・・・・・・・・・
 それでは、お返事お待ちしております。
                                                  守田一郎
  森見登美彦先生 足下

 

 六月十一日
  拝啓。

                                                      草々
                                          一番弟子 守田一郎
  唾棄すべきドン・ファン 森見登美彦

 

 六月十二日

      ・・・・・・・・・・・・・・・
                                果てしなくロープライス 守田一郎
  美白偏屈王閣下

 

 六月十三日
  拝啓。取り急ぎ、申し上げたいことがあります。

      ・・・・・・・・・・・・・・・
                                                       頓首
                                   色々な瀬戸際に立つ 守田一郎
  森見登美彦

 

 六月二十一日
  お手紙ありがとうございます。

     ・・・・・・・・・・・・・・・
                                                    守田一郎
  森見登美彦

 

七月五日
  拝啓。

     ・・・・・・・・・・・・・・・
                                                        草々
                                       文通技術研究家 守田一郎
  意外に文通下手の登美彦様

 

 七月十三日
  実験に失敗してむしゃくしゃするたびに、「俺が男のグローバル・スタンダードなのだ」と力強く呟き、よりいっそう情けない気分になる今日この頃です。

      ・・・・・・・・・・・・・・・
                                           下等遊民 守田一郎
  高等遊民 森見登美彦

 

 七月二十三日
  拝啓。お手紙ありがとうございました。

     ・・・・・・・・・・・・・・・
                                                イチローモリタ
  森見・デキる男しかもイイ男・登美彦様

 

 八月朔日
  拝啓。森見さん、聞いて下さい。愚痴をもって愚痴を制す。

      ・・・・・・・・・・・・・・・
                                                 やさぐれ守田
  森見登美彦

 

 八月八日
  こんにちは。

      ・・・・・・・・・・・・・・・
                                          未来の社長 守田一郎
  森見登美彦

 

 八月十九日
  拝啓。

      ・・・・・・・・・・・・・・・
                                                 もりたいちろう
  御都合主義者・森見登美彦氏へ

 

 八月二十二日
  拝啓。新作の御原稿拝受しました。

       ・・・・・・・・・・・・・・・
 首を洗ってお待ちください。
                                       影武者森見登美彦・守田一郎
  偏屈作家・森見登美彦先生へ

 


第五話 女性のおっぱいに目のない友へ 

 

八月六日
  拝啓。京都はさぞかし暑かろう。こちらも日中は夏真っ盛りという感じだが、夜になると涼しい風が吹く。

      ・・・・・・・・・・・・・・・
 何か反論があったら手紙をくれ。
                               守田恋愛相談室筆頭相談員・守田一郎
  おっぱい先生 足下

 

 八月十一日
  拝復。
       ・・・・・・・・・・・・・・・
                                                      草々頓首
                                       守田・デリカシスト・一郎
  小松崎・おっぱい・友也さま

 

 八月十五日
  拝啓。お手紙拝読した。

     ・・・・・・・・・・・・・・・
  健闘を祈る。
                          おっぱいの絶対性を否定する会代表・守田一郎
  おっぱい先生 足下

 

 八月十八日
  拝啓。

     ・・・・・・・・・・・・・・・
                                                         頓首
                                            イチローモリタ
  おっぱい野郎さま

 

 八月二十一日
  拝啓。

     ・・・・・・・・・・・・・・・
  続報を待て。
                                                     守田一郎
  小松崎友也さま

 

 八月二十七日
  拝啓。

     ・・・・・・・・・・・・・・・
  おっぱいから自由になること。すべてはそこから始まる。
                                      女性のおっぱいに目のない男
  女性のおっぱいに目のない友へ

 

 
第六話 続・私史上最高厄介なお姉様へ

 

 八月二十七日
  拝啓、大塚緋沙子さま。

       ・・・・・・・・・・・・・・・
                                                  合掌
                                               守田一郎
  大塚緋沙子様

 

 八月二十八日
  急いでおります。急いで読んで下さい。

     ・・・・・・・・・・・・・・・
  取り急ぎ。
                                                    守田一郎
  大塚緋沙子閣下

 

 九月四日

     ・・・・・・・・・・・・・・・
                                      人類の希望の星・守田一郎
  緋沙子大魔王 足下

 

九月十日
  残暑は厳しく、そして私の置かれた状況もまた厳しい。

     ・・・・・・・・・・・・・・・
  この不毛な大人げない争いにけりをつけましょう。
                                              守田・聖人・一郎
  大塚緋沙子さま

 

 九月十五日
  お手紙受け取りました。

  乾杯。
      ・・・・・・・・・・・・・・・
                                          半島に暮らす策士より
  大塚緋沙子さま

 

 九月十八日
  拝啓。
      ・・・・・・・・・・・・・・・
  完敗。
                                        あなたの下僕 守田一郎
  大塚緋沙子閣下

 

 九月二十二日
  お手紙拝読。
     ・・・・・・・・・・・・・・・
                                                       頓首
                                      恋文初心者・守田一郎
  大塚緋沙子さま 足下

 

 九月二十四日
  ご無沙汰しております。

     ・・・・・・・・・・・・・・・
                                     必殺もめ事製造人・守田一郎
  大塚緋沙子さま

 

 十月十日
  拝啓。
     ・・・・・・・・・・・・・・・
                                                       頓首
                                              守田一郎
  私史上最高厄介なお姉様へ

 

 

第七話 恋文反面教師・森見登美彦先生へ

 

 八月二十七日
  拝啓。森見登美彦様。

     ・・・・・・・・・・・・・・・
                                                     守田一郎
  偏屈作家・森見登美彦氏へ

 

 九月十日
  ごきげんよう。守田一郎です。

      ・・・・・・・・・・・・・・・
  取り急ぎ、ご連絡迄。
                                               交渉人・守田一郎
  森見登美彦

 

 九月十五日
  拝啓。
       ・・・・・・・・・・・・・・・
                                                        草々
                                       悪の権化 守田一郎
  森見先生 足下

 

 九月二十二日
  拝啓。

     ・・・・・・・・・・・・・・・
                                                  崖っぷち男
  平成の責任男 森見登美彦

 

 九月二十九日
  拝啓。

     ・・・・・・・・・・・・・・・
                                     おっぱい思想家(著作準備中)
  「恋文本舗」代表取締役 森見登美彦

 

 十月五日
  拝啓。

     ・・・・・・・・・・・・・・・
                                                     迷い人
  森見登美彦

 

 十月十一日
     ・・・・・・・・・・・・・・・
                                              男一匹 守田一郎
  Tomio様

 

 十月十七日
  拝啓。尊書拝読。
     ・・・・・・・・・・・・・・・
                                                       草々
                                              守田一郎
  森見登美彦

 

 十月二十一日
  こんにちは。守田です。

      ・・・・・・・・・・・・・・・
                                        恋の泥沼にて 守田一郎
  恋文初心者 森見登美彦

 

 十月二十七日
  拝啓。森見さん、お元気そうで何よりと存じます。

      ・・・・・・・・・・・・・・・
  それではさようなら。
                                                  敗北者より
  恋文先生へ

 

 十月二十七日(追伸)
  拝啓。

        ・・・・・・・・・・・・・・・
                                 和倉温泉「海月」にて 守田一郎
  恋文反面教師・森見登美彦先生へ

 

 

第八話 我が心やさしき妹へ 

 

 四月二十九日
  拝啓。兄である。

      ・・・・・・・・・・・・・・・
                                                     草々
                                               兄
  我が悩み多き妹へ

 

 五月二十一日
  こんにちは。兄です。

      ・・・・・・・・・・・・・・・
                                                 温泉仙人
  守田薰様

 

 六月二十三日
  拝啓。

     ・・・・・・・・・・・・・・・
                                                 草々
                                      愛嬌溢れる兄
  愛嬌の足りない妹へ

 

 七月三日
  拝啓。

     ・・・・・・・・・・・・・・・
                                                   草々
                                             兄
  薰様

 

 七月二十八日
  こんにちは。兄である。暑くなってきたなあ。

     ・・・・・・・・・・・・・・・
  それでは失敬。
                                       科学界のホープ・兄
  受験界のホープ

 

 八月十二日
  やあやあ。兄である。

     ・・・・・・・・・・・・・・・
  それではまた。
                                                  兄
  薰様

 

 八月二十七日
  拝啓。

     ・・・・・・・・・・・・・・・
                                                  頓首
                                             兄
  守田薰様

 

 九月二十五日
  兄だ。夏も終わりであるなあと思う。

     ・・・・・・・・・・・・・・・
  それでは。
                                                   兄
  未来の宇宙飛行士へ

 

 十月十五日
  妹よ。夏は去ったということがしみじみ感じられるな。

     ・・・・・・・・・・・・・・・
  それではごきげんよう
                                                  兄
  薰様

 

 十一月三日
  拝啓。

     ・・・・・・・・・・・・・・・
                                                  兄
  我が心やさしき妹へ

 

 

第九話 伊吹夏子さんへ 失敗書簡集

 

 四月十四日
  拝啓。
    (中断)

 

 四月三十日
  拝啓。
    (中断)

 

 五月三十日
  拝啓。

         ・・・・・・・・・・・・・・・
                                          匆々頓首

 

七月三十一日
  やぷー。こんちは。守田一郎だよ。

     ・・・・・・・・・・・・・・・
  ではでは、あでゅー。

 

 八月十六日
  拝啓。
    (中断)

 

 八月三十日
  拝啓。
    (中断)

 

 九月三十日
  さわやかな秋晴れの日が続きますが、いかがお過ごしでしょうか。
    (中断)

 

 十月十七日
  拝啓。
    (中断)

 

 十月二十六日
  拝啓。
    (中断)

 

 

第十話 続・見どころのある少年へ

 

 八月九日
  こんにちは。

       ・・・・・・・・・・・・・・・
 それではさようなら。
                                 海辺のもりたより

  海辺の少年へ

 

 八月十七日
  こんにちは。

     ・・・・・・・・・・・・・・・
                                 遠くへいきたい もりた
  やきもちまみやくんへ

 

 八月二十七日
  こんにちは。

     ・・・・・・・・・・・・・・・
  それではさようなら。
                                             もりた
  まみやくんへ

 

 九月四日
  まみやくん、こんにちは。先生です。

       ・・・・・・・・・・・・・・・
 さよなら
                                       もりたいちろう
  まみやくんへ

 

 九月十七日
  こんにちは。九月をはんぶんすぎたのに。まだ暑いですね。
              ・・・・・・・・・・・・・・・
                                            もりた
  まみやくんへ

 

 九月二十八日
  こんにちは。

     ・・・・・・・・・・・・・・・
                                             もりた
  まみやくんへ

 

 十月八日
  こんにちは。すっかり秋になりましたね。

     ・・・・・・・・・・・・・・・
                                              もりた
  まみやくんへ

 

 十月三日
  拝啓。
           ・・・・・・・・・・・・・・・
                                            守田一郎
  見どころのある少年へ

 

 

第十一話 大文字山への招待状

 

 十一月六日(森見登美彦より守田薰宛て)
  拝啓

     ・・・・・・・・・・・・・・・
                                            匆々頓首
                                   森見登美彦
  守田薰様

 

 十一月六日(守田薰より森見登美彦宛て)
  拝啓

     ・・・・・・・・・・・・・・・
                                            かしこ
                                     守田薰
  森見登美彦

 

 十一月六日(谷口誠司より大塚緋沙子宛て)
  拝啓

     ・・・・・・・・・・・・・・・
                                              敬具
                                    谷口誠司
  ヒサコ・オオツカさま

 

 十一月六日(大塚緋沙子より谷口誠司宛て)
  こんにちは。

     ・・・・・・・・・・・・・・・
  それではまた会う日までサヨウナラ。
                             愛をこめて ヒサコ・オオツカ
  谷口誠司様

 

 十一月六日(三枝麻里子より間宮少年宛て)
  拝啓

                    ・・・・・・・・・・・・・・・
                                      かしこ
                                   三枝麻里子
  まみやくんへ

 

 十一月六日(小松崎友也より三枝麻里子宛て)
  拝啓。

     ・・・・・・・・・・・・・・・
                                              敬具
                                   小松崎友也
  三枝麻里子様

 

 十一月六日(守田一郎より小松崎友也宛て)
  拝啓。

     ・・・・・・・・・・・・・・・
                                  文通の達人 守田一郎
  我が友 小松崎・マシマロ・友也様

 

 

第十二話 伊吹夏子さんへの手紙

 

十一月五日
  拝啓。

     ・・・・・・・・・・・・・・・
                                       匆々頓首
                                    守田一郎
  伊吹夏子様

 

あとがき 読者の皆様

 

 拝啓
  読者の皆様、お元気でしょうか。森見登美彦です。

     ・・・・・・・・・・・・・・・
  それではごきげんよう
                                            草々頓首
  平成二十二年三月六日                    森見登美彦
  読者様足下

 

 

 「拝啓」という書き出しに句点を付すべきかどうか。私は付けていないし、一般的にも付けない方が多いだろう。しかし、森見氏はことごとく付けているのである。ということはこれは誤植ではない。そのうえ、森見氏は句点に限らず読点を付けている場合があるのです。「第六話 続・私史上最高厄介なお姉様へ」の八月二十七日の手紙を見ると「拝啓、大塚緋沙子さま。」となっている。これが「第四話 偏屈作家・森見登美彦先生へ」の五月十八日の手紙においては「拝啓。森見登美彦様。ご無沙汰しております。」と本書に一貫して流れる句点止めを踏襲しているのだから解らない。これは出版社の誤植なのか、森見氏の気まぐれなのか。どうでもいいことのようだが、気になる。いちど森見氏に尋ねてみたいものだ。
 また森見氏は頭語「拝啓」を一字下げて書いているが、一般には下げる必要はないのではないか。本書の作者あとがきは森見氏から読者に宛てた手紙の形式をとっているが、この手紙だけは「拝啓」が一字下げることなく書き出してある。これはいったいどういうことなのであろうか。森見氏はわざと一般的慣行に逆らおうとしているのか。慣行など気にしていないのか。あるいは単なる気まぐれなのか。どうでもいいことのようだが、気になる。いちど森見氏に尋ねてみたいものだ。
 頭語が「拝啓」の場合、結語は「匆々(草々)」ではなく「敬具」ではないのか。森見氏はわざと一般的慣行に逆らおうとしているのか。慣行など気にしていないのか。あるいは単なる気まぐれなのか。どうでもいいことのようだが、気になる。森見氏に尋ねてみたいものだ。
 「拝啓」の後に続けて時候の挨拶に入るか、改行して時候の挨拶に入るかはどちらでも良く好みの問題であろう。ある意味、クセの問題と言っても良いと思う。で、森見氏はどうかというと、日によって違うのである。書き出しのクセはだいたい変わらないものだと思うが、どうして日によって変わるのだろう。何か深い意図があるのか。それとも単なる気まぐれなのか。どうでもいいことのようだが、気になる。森見氏に尋ねてみたいものだ。

 この小説を読んで結語に「匆々頓首」を使った手紙を初めて読んだ。「匆々」は辞書を引くと「急いで書き記したことをわびる意で手紙文の末尾に添える挨拶の語」とある。なるほど。では「頓首」はというと「手紙文の末尾に記して相手に敬意を示す語。もと中国の礼式で、頭を地面にすりつけて拝礼すること」とある。これもなるほどである。要は慇懃に礼を尽くす結語なのだな。しかしこの結語にもちょっとした疑問がある。森見氏はほぼ一貫して「草々」ではなく「匆々」を使っているのだが、「第四話 偏屈作家・森見登美彦先生へ」の八月十一日の手紙だけは「草々頓首」としているのだ。森見氏のPCの誤変換なのか、出版社の誤植なのか、あるいは森見氏の単なる気まぐれにすぎないのか。どうでもいいことのようだが、気になる。いちど森見氏に尋ねてみたいものだ。
 さらに、宛名の敬称に至っては、私は「ウーン……」と腕組みをして唸ってしまうのである。「閣下」はおふざけとして、「様」と「さま」の使い分けはなにゆえか。何か深い意図があるのか。それとも単なる気まぐれなのか。どうでもいいことのようだが、気になる。森見氏に「そのあたりはなにゆえか? えっ? どうなのだ」と尋ねてみたいものだ。そして、「ただの気まぐれです」などというふざけた答えが返ってきたならば、「馬鹿者っ! ややこしいことをするでないっ!!!」と叱りつけてやらねばならぬ。

 

以上、長文失礼。