佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

郵便少年

本品は小説と入浴剤です。

食べられません。

                  (パッケージ注意書き)

 

 

 これは小説つきの入浴剤なのか、それとも入浴剤つきの小説なのか。どうでも良いことのようだが、どうでも良くないのだ。発売元は角川文庫なのかBANDAIなのか、いったいどちらなのだ、とパッケージ裏を見ると発売元は株式会社バンダイと記載してある。そのうえこれは全国のドラッグストア、スーパーマーケット、量販店の日用品売り場で売っているというではないか。とすると、これは日用雑貨(小説つきの入浴剤)なのか。しかし、私はこれをジュンク堂書店で買ったのである。ジュンク堂書店はその名のとおりれっきとした書店である。名は体を表すというではないか。従って私はやはりこれを入浴剤つきの小説であると言いたい。つまり、入浴剤はあくまで付録なのだと。

 

 

 『郵便少年』(森見登美彦・著/ほっと文庫)を読みました。本を読む前には、パッケージに小説と一緒に入っていた入浴剤をいれたお風呂に入りました。

 

 

この「ほっと文庫」というのはどうやら「お風呂でhot、ストーリーでホッと」というのがコンセプトの商品のようである。当然お風呂に入りながら読んでみたくなるが、小説は紙に印刷されているのでお風呂で読むわけにはまいりませぬ。私はそれをたいへん残念におもいました。

 お風呂からあがって、32ページの小説を読みました。そして、今日のお風呂の香りがアオヤマ君とハセガワ君がタイムカプセルを埋めた日の朝の森の香りだったことを知りました。

 信頼できる筋の情報によると、この小説の主人公・アオヤマ君は森見氏のご著書『ペンギン・ハイウェイ』の主人公で、『ペンギン・ハイウェイ』に登場するアオヤマ君は小学4年生、この『郵便少年』に登場するアオヤマ君は小学3年生だから、『郵便少年』は『ペンギン・ハイウェイ』の一年前のお話だという。『ペンギン・ハイウェイ』は早く読みたいと思いながら未だ読んでいない。私は一部の例外を除いて文庫読みを基本としている。たまたまそうなったのだが、読む順序としては適切だったようだ。世の中には単行本の『ペンギン・ハイウェイ』を読んだ後、この『郵便少年』を読んだ人が沢山いるのだ。ざまあみろなのだ。負け惜しみなのだ。まあいいのだ。

 この本はたったの32ページしかありません。でも、短くはあっても中身はすばらしいものです。これほど心温まる小説はそうあるものではありません。自称宇宙人のヒサコさんがアオヤマ君に宛てた手紙の素晴らしいことと言ったら、森見氏の傑作書簡小説『恋文の技術』において、守田・おっぱいに目のない男・一郎がまみやくんに宛てて書いた手紙に優るとも劣らないものです。みどころのある少年に対する優しいまなざしに溢れています。どちらも読んでいらっしゃらない方には、私がいったいなにをいっているのかさっぱり判らないと思います。是非、森見登美彦氏の傑作(あえてそう言わせていただきましょう)たる両書、『郵便少年』と『恋文の技術』をよむことを強くお薦めしたい。初森見として『郵便少年』もありだと思います。たったの32ページの小説ですけれど。

 このバンダイ角川書店のコラボはナイスな企画だと思います。まことにもって素晴らしい。一つだけ苦言を呈するなら、この小説にISBNコードがないのはいかがなものでしょう。きちんとISBNをつけてほしかった。なぜなら、これはとても素敵な小説なのですから。たったの32ページしかないけれど、とてもとても素敵な小説なのですから。

 

【ほっと文庫】

 

http://bandai-lifestyle.jp/hotbunko/