佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

真贋

毒がまわっている人の特徴は、何でもやりすぎるということです。

                                  (本書P33「善悪二元論の限界」より)

 

 

『真贋』(吉本隆明・著/講談社文庫)を読みました。本屋に平積みしてあったのですが、目にとまったのは本の帯に書いてあった次の一言。著者のお嬢さんにして作家のよしもとばなな氏の言葉です。


 

「自分の親の本だということを忘れてのめりこんだ。
 この本を持っていれば普通の意味での迷いは消える。
 自分の人生に寄り添ってくれる希有な本だった」


 この一言が目にとまらなかったら、この本を買うことはなかっただろう。私は吉本隆明氏が決して嫌いではない。むしろ尊敬している。しかし、氏の本を読むには気力が充実していることが必要だ。有り体に言ってしまうと難しいのだ。私が好んで読むミステリーやファンタジーのようなわけにはいかない。普通なら手にしないところ、『真贋』というインパクトのある題名とばななさんの一言が気を惹いた。
 読んでみてどうだったか。意外に簡単明瞭ではないですか。しかし、文体がおかしい。すらすら読める。私が記憶している氏の文章とは明らかに違う。幾分中身が薄いというか、思ったほど深くないというか、そのような印象です。なるほど、これはインタビューの書き起こし本なのですね。単行本が発刊されたのが2007年の2月、吉本氏がお生まれになったのが1924年11月というから、出版された時点で御年82歳。インタビューの書き起こしという形を取るのもやむを得ぬことでしょう。
 それにしても流石は吉本隆明氏、読んでいて目が開かれることが随所にある。よく考えもせず正しいと思いこんでいることが実は間違いであると気付かされる。氏の本を読むと物事を考えるうえでの姿勢というか、態度を学ぶことができる。ただ一点、政治に対する見方を除いてはという条件付ではあるが。政治に対する見方において、私は氏とは相容れない部分がある。

 

最後に裏表紙の紹介文を引きます。


「小説や詩を読むことで心が豊かになると妄信的に信じている人がいたら、ちょっと危いと思います。世の中の『当たり前』ほど、あてにならないものはありません」――今こそ「考えること」に真剣に向き合ってみませんか。突き詰めた思考の果てにうまれた、氏の軽妙かつ深遠な語りにどうぞ耳を傾けてください。