佐々陽太朗の日記

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武士道エイティーン

 『武士道エイティーン』(誉田哲也・著/文春文庫)を読みました。待ちに待ってました。実際に首が2㎝くらい伸びたのではないかと思うほど首を長~くして待っていました。しかも、解説は有川浩氏。文春文庫さんの粋な計らいに感謝感謝であります。

 

 

 本書では『シックスティーン』『セブンティーン』と続いてきた香織と早苗を主人公とした剣道少女青春小説に副えて、脇役を固めてきた登場人物(早苗の姉・緑子、桐谷道場の師範・隆明とその弟・玄明、香織の後輩で香織に憬れを持つ田原美緒、福岡南高校の酔っ払い先生・吉野正治)の逸話がサイド・ストーリーとして語られている。このシリーズを読み続けてきた読者にとってそれこそ垂涎ものである。私はかねがね「脇役が魅力的なのは良い小説の証拠」と言っているのだが、誉田氏はこの武士道シリーズで見事にそれを証明してくれた。

 

 誉田哲也氏といえば最近は警察小説『ストロベリーナイト』を原作としたテレビドラマで脚光をあびているが、その主人公刑事・姫川玲子シリーズとこの武士道シリーズともに主人公は女性である。男性作家でありながら、なぜ敢えて女性を主人公とした小説を書くのであろうか。それはご本人に訊いてみないと判らないが、とにかくその主人公の気持ちの描き方が上手い。驚くほど堂に入っているのだ。有川浩氏も解説でそのことに触れ、「誉田哲也は心に少女を飼っている」と書いていらっしゃるほどだ。また、姫川玲子シリーズと武士道シリーズは「本当に同じ作家が書いたの?」と疑うほどに作風が違うのも興味深いところ。誉田哲也という作家、ただものではない。それこそ心にいろいろなキャラクターを飼っている稀代のストーリーテラーなのだろう。

 

 余談であるが、有川氏の解説には続編について次のように書いてある。


今回、氏に解説を頼まれ、私は「いつか『ナインティーン』を書いてくれるなら引き受けましょう」と返した。氏は断らなかった。


 ナインティーンになるか、大人の香織と早苗になるか判らないが、続編が出ることを信じて待つことにしよう。誉田さん、また首が2㎝も伸びないうちにお願いします。

 

 更に余談であるが、前作『武士道セブンティーン』を読んだ後、私はひそかに香織が中学の剣道部で一緒だった清水の存在に注目していた。清水君はヘタレで糞握りで優柔不断、しかも中学で剣道をやめた根性なしで、さっぱり女子にモテず、いつも半分ひっくり返ったような声で喋る挙動不審男。さっぱりと男前な性格の香織の母性本能をくすぐって……、意外や意外……などという驚きの展開を期待していたところもちょっぴりあったのだが、やはりそうはならなかった。まぁ、当然でしょう。ほんのちょい役での登場にとどまった。仕方ないなぁ。なにせ、「ヘタレで糞握りで優柔不断」ですからねぇ。しかし、私は諦めない。ヘタレで糞握りで優柔不断の清水君がいつか大人になった香織の前に現れた時、高校の頃とは似ても似つかぬ凛々しい男になっていたりして……と私の妄想は留まるところを知らないのである。

 

裏表紙の紹介文を引きます。


宮本武蔵を心の師と仰ぐ香織と、日舞から剣道に転進した早苗。早苗が福岡に転校して離れた後も、良きライバルであり続けた二人。三年生になり、卒業後の進路が気になりだすが…。最後のインターハイで、決戦での対戦を目指す二人のゆくえ。剣道少女たちの青春エンターテインメント、堂々のクライマックス。 解説・有川浩