佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

風の中のマリア

オオスズメバチは、幼虫時代は肉食だが、成虫になると逆に肉などの固形物は一切食べられなくなる。そのため樹液や花蜜が食物となるが、最高の栄養源は幼虫の出す唾液だった。そこには特殊なアミノ酸化合物が含まれていて、これのお陰でオオスズメバチのワーカーは体内の脂肪を直接燃やしてエネルギーに変換することが出来る。人間を含むほとんどの生物は脂肪を燃やす場合、いったんグリセリンに変えてから分解してエネルギーに変換するが、この時、乳酸が発生し、筋肉疲労をひきおこす。しかし脂肪を直接燃やすことのできるオオスズメバチは、体内に乳酸を発生させないので、どれほど運動してもほとんど筋肉疲労を起こさない。オオスズメバチが一日に百キロ以上も飛べる驚異的な運動量を誇る秘密はそこにある。

                                 (本書P26より)

 

『風の中のマリア』(百田尚樹・著/講談社文庫)を読みました。

 

まずは出版社の紹介文を引きます。


 

命はわずか三十日。ここはオオスズメバチの帝国だ。晩夏、隆盛を極めた帝国に生まれた戦士、マリア。幼い妹たちと「偉大なる母」のため、恋もせず、子も産まず、命を燃やして戦い続ける。ある日出逢ったオスバチから告げられた自らの宿命。永遠に続くと思われた帝国に影が射し始める。著者の新たな代表作。


 

 

 

オオスズメバチ(ヴェスパ・マンダリニア)の物語だったとは。題名からの想像を全く裏切られた。しかし、その裏切りはけっしてがっかりではない。非常に興味深い小説でした。以前、竹内久美子さんの御本で「生物はみな利己的自己複製子の乗り物<ヴィークル>なのであって、どうあがこうともその事実からは逃れられない」といった話を読ませていただいたが、蜂の世界においてはその事実がこれほどまでに生態に現れていようとは。驚きである。すべての生物のふるまいはゲノムによってあらかじめプログラムされたものなのだと「改めて痛感した次第。