『新版 落語手帖』(矢野誠一・著/講談社)に紹介された274席のうちの64席目は『九州ふきもどし』。
立川談志で聴きます。
この噺はまったく初めて聴く。この本に紹介された古典をすべて順番に聴いてやろうとしなかったらおそらく生涯聴く機会は無かっただろう。談志もまくらでやり手がいないと言っている。なぜやり手がいないかというとつまらないからとも。つまらないかどうかは聴いてみなければ判らない。どうやらこの音源は談志が録音に残すことを目的として客の前でやったもののようだ。
なるほど、今の時代、この噺を聴いてもピンとこないだろう。というのも、今は東京から熊本、さらには鹿児島まで新幹線で行けてしまう。それどころか羽田から飛行機を使うなら朝早い便に乗れば午前中に着いてしまうのだ。ただ、この噺を江戸時代の人間になったつもりで聴けば、それなりの旅情があり、冒険のニオイもあるものだ。感じる距離が全然違うのである。私のように昭和世代がなんとかこの噺の良さが判る最後の人間では無いか。
TVの寄席番組を一生懸命追いかけていても、この噺を聴くことはかなわなかったにちがいない。YouTubeのおかげである。ありがたや。