佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

『仕事で大切なことはすべて尼崎の小さな本屋で学んだ』(川上徹也:著/ポプラ社)

『仕事で大切なことはすべて尼崎の小さな本屋で学んだ』(川上徹也:著/ポプラ社)を読みました。

 まずは出版社の紹介文を引きます。

目標がなく、なんとなく社会人になった、出版取次「大販」の新人社員・大森理香が、ある小さな「町の書店」の女店主と出逢うことで、「仕事とは何か」を学び、人生の目標を見つけ出していく――。尼崎に実在するまちの書店をモデルにした、ベストセラー『物を売るバカ』『キャッチコピー力の基本』の著者・川上徹也が書く感動のフィクション。読むだけで仕事への熱意とやる気があふれてくる一冊です。

(ストーリー)
東京生まれ・東京育ちで、中学からエスカレーターで東京の私立大学を卒業した大森理香(おおもり・りか)。特に夢もなりたいものもなく、なんとなく受けた大手出版取次「大販」に内定するものも、配属でいきなり縁もゆかりもない大阪勤務を命じられる。
関西弁が大嫌いで、さらにはベタベタした人間関係も大の苦手な理香だったが、研修でよかれと思ってやった行為で大きなミスをやってしまう。自分のふがいなさと理不尽さに涙があふれる理香に対し、上司が連れていったのはある小さな書店。そこでひとりの「書店のオバチャン」と出逢う。この書店のオバちゃんとの出会いをきっかけに理香の仕事と人生への考え方が少しずつ変わっていった――。

 

 

 

 小さな書店のオバチャンの話はほぼ実話で、出版取次の新入社員の物語はフィクションということか。ハッキリ言って主人公の理香の入社時点での心がけ、思考傾向では物語に描かれたような成長は望めない。大学卒業年齢ぐらいになれば、さまざまな人との出会いや経験に触発される機会はいくらでもあったはず。それをことごとくぼんやり逸して、自分なりの考えや規範がないのなら、この子はそれまでの人間だろう。一事が万事、この子の性根が書店のオバチャンの経験談に感銘を受けたことぐらいで劇的に変わるとは思えない。と、少々辛口のコメントを書いてしまいました。

 しかしそれはそれとして、出版取次に入社して、様々な書店経営者、書店員と出会い、本が好きな人のこんなことができればなあという思いをかたちにしていく成長物語りは良かった。そして主人公の成長のきっかけとなる町の小さな書店のオバチャンの話は実在の書店経営者の経験談としてズシリと重い。あたりまえのことをしていてはネット書店や大手書店に勝てない。長くその町にあって、一日一日の積み重ねの結果生まれる信用が書店経営の基本であること。どこで買っても同じ本を、わざわざこの店で買って下さるお客様への心からの感謝の気持ち。あきらめないでなんとかしようとする粘りと根性、さらには周りを巻きこんでいく熱意と行動力。どんな苦労にもめげない明るさ。市井にあって頑張っている人の姿に奮い立つものがあった。

 本書のモデルとなった小林書店があるあたりは、一時期縁があっていろいろ活動したところ。お世話になった先もある。コロナが終息したらお礼に伺い、ついでに小林書店を訪れてみよう。ひょっとしてオバチャン(小林由美子さん)に出会える僥倖に恵まれるだろうか。楽しみである。