佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

『雨降る森の犬』(馳星周:著/集英社文庫)

2021/06/18

『雨降る森の犬』(馳星周:著/集英社文庫)を読みました。

 まずは出版社の紹介文を引きます。

9歳で父を亡くした中学生の雨音は、新たに恋人を作った母親が嫌いだった。学校にも行かなくなり、バーニーズ・マウンテン・ドッグと立科で暮らす伯父・道夫のもとに身を寄せることに。隣に住む高校生・正樹とも仲が深まり、二人は登山の楽しみに目覚める。わだかまりを少しずつ癒やしていく二人のそばには常に溢れる自然や愛犬ワルテルの姿があった。犬の愛らしい姿が心に響く長編小説。

 

 

 

 馳星周氏の本を読んだのは本書で7冊目。皮切りは直木賞受賞作『少年と犬』、その後は『ソウルメイト』『陽だまりの天使たち ソウルメイトⅡ』と人と犬との愛と信頼の物語を、そして『不夜城』『鎮魂歌 不夜城Ⅱ』『長恨歌 不夜城完結編』と殺人と裏切りと復讐の物語を読んできた。同じ作家のものとは思えないほどの作風の違いにとまどいつつ、どちらの魅力にも引き込まれて読み込んだ。どちらのほうが馳氏らしいのかは分からないが、馳氏にある種のウェットな部分があるのは確かな気がする。『不夜城』シリーズの非情な暗黒世界にあっても、その非情さは人のウェットな部分の裏返しなのだという気がするのだ。馳氏の作品世界の二面性に思い浮かぶ言葉は ”If I wasn't hard, I wouldn't be alive. If I couldn't ever be gentle, I wouldn't deserve to be alive.” 彼のフィリップ・マーロウの科白だ。

 馳氏のウェットな世界にどっぷり浸り、おわりに少し泣いた。