佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

あべのハルカス美術館「コレクター福富太郎の眼」展、『明治屋』、そして『めなみ』

2022/01/14

 午前中はあべのハルカス美術館で開催中の「コレクター福富太郎の眼」展を観た。

 ”眼”と言う意味では、以下の三点が印象に残った。まずは本展のポスターにも使われ、美術館入り口にも象徴的に掲示された北野恒富『道行』。これから心中するのであろう男女の眼にある虚無。”虚無”が”眼にある”などと矛盾した言葉だが、私にはそう表現するのが一番しっくりくる。もう未来を見つめようとはしない虚ろがなんともやりきれず、観る者の心にやりきれなさがしみ込んでくるようだ。しばらくはこのイメージが頭の中から拭えないのではないかと不安になったほどである。

 そんな私の心を温めてくれたのが岡田三郎助の『ダイヤモンドの女』。和服の少女が頬杖をつきまっすぐこちらを見つめている。その眼が潤んでいるのである。ドキンとした。しばらく放心したほどの可憐なまなざしでした。

 もう一点は満谷国四郎の『軍人の妻』。戦地で亡くなった夫の遺品を持つ妻の姿。その目をよく観ると今にもこぼれそうでこぼれない涙がある。気丈で凜とした立ち姿。その姿の中で唯一”眼”だけが妻の偽らざる気持ちを表しており、胸がえぐられるほどであった。

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 美術館の後は居酒屋。阿倍野と言えば『明治屋』。昼の13:00から開店している。開店直後に訪れたので一番乗りであった。暖簾をくぐるとそこには昔ながらの居酒屋風景。一瞬にして五十年以上時間を溯った錯覚に陥る。店内は写真不可と聞いているので写真はない。カウンターの隅に腰掛け燗酒と「湯どうふ」を注文。燗酒は樽酒で香り良し。酒は「川亀」。愛媛の銘酒。なかなか良い。豆腐は昔風のしっかりした木綿。これまた良し。続いて「どて焼き」を注文。よく煮込まれた甘辛味で酒がスイスイすすんでしまう。お銚子をもう一本と「いわしフライ」も頼んだ。以上で勘定をお願いしたら2,000円でおつりがきた。カウンターで過ごす静かで極上の時間の対価としては安すぎる。

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 久しぶりの『明治屋』に満足した後は京都に向かう。京都京セラ美術館で開催中の「日展」が明日で最終日を迎えるので駆け込み見学するためである。しかし今日は行かずホテルにチェックインして荷物を置くと、さっそく街に出た。ホテルから10分ばかり歩いたところに『めなみ』がある。10年ぶりにその暖簾をくぐった。10年前に訪れた時はカウンターの一番奥、焼き物調理の前の席で「かどさん」と呼ばれたのを覚えている。今日は入ってカウンターの一番手前の席である。何と呼ばれるのだろうと酒と肴を注文すると「てまえさん」と呼ばれた。どうやら一番手前から奥に向かって「てまえさん」「まえさん」「なかさん」「そとさん」「かどさん」と呼ぶらしい。知らんけど。

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 酒は「莚寿(えんじゅ)」の燗。京都の酒らしいが初めて飲む。なかなかうまい。カウンターにおばんざいの皿が並んでおり、その中で大きな「からすみ」が眼を引いた。どうして食べるのか訊いたところ「からすみもち」として出しているのだとか。最初から餅というのもどうかと迷っていると、「からすみ大根」にしましょうかと薦めてもらったのでそうしてもらうことにした。ほかには「よこわの造り」も酒に合った。

 酒が空いたので次はビールを呑むことにした。サッポロの黒ラベルは私の好きなビールである。「ラム肉のソーセージ」を合わせた。これまたうまい。

 〆は「粕汁」。蕪のすり流しが入っているようでとろりまったりしてうまい。

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