佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

『新しい国へ (美しい国へ 完全版)』(安倍晋三:著/文春新書)

2022/08/29

『新しい国へ (美しい国へ 完全版)』(安倍晋三:著/文春新書)を読んだ。

 まずは出版社の紹介文を引く。

 日本を取り巻く環境は日増しに悪化している。長引く景気低迷、押し寄せる外交・安全保障の危機、さらには少子高齢社会の訪れによる社会保障の拡充。この国のリーダーは今なにをすべきなのか?大ベストセラー『美しい国へ』に、新たな政権構想を附した完全版。


【目次】第1章 わたしの原点

    第2章 自立する国家

    第3章 ナショナリズムとはなにか

    第4章 日米同盟の構図

    第5章 日本とアジアそして中国

    第6章 少子国家の未来

    第7章 教育の再生

    増補最終章 新しい国へ

 

 真の保守とは何か?総理に返り咲いた著者による経済・外交安保の「政権公約」を附したベストセラーの完全版。保守の姿、この国のあり方を説く必読の書。
3年3ヵ月に及んだ民主党政権から、ふたたび自民党が政権与党に復帰しました。そして総理大臣の重責は安倍晋三氏が再び担うことになりました。戦後では吉田茂以来2人目、64年ぶりの総理の再登板です。長引くデフレからどう脱却するのか、緊張がつづく外交・安全保障問題にどう対処するのか。こうした疑問に答えた月刊「文藝春秋」1月号掲載の政権構想「新しい国へ」は、話題を集めました。本書『新しい国へ――美しい国へ 完全版』は、2006年に刊行した50万部を超える大ベストセラー『美しい国へ』に、この政権構想を増補した、新装完全版です。(SH)

 

 

 

 世間は今、旧統一教会云々でかまびすしい。TV、新聞などマスコミがこぞって取り上げ、安倍氏を含め自民党があたかも旧統一教会とズブズブの関係で、それによって国政がゆがめられたかのような印象を与えようとしているように見える。かつてモリカケ疑惑が取り沙汰されたときに似た様相を呈している。保守的な考えを嫌う野党と一部マスコミによる印象操作が意図的に、しかもかなりしつこくなされているように見えるのだ。どんな政治的信条を持とうとそれは自由である。もちろんその立場を表明することも。しかし自分たちが持つ信条に反するものを悪意を持って貶めようとするのはいかがなものか。モリカケ疑惑が取り沙汰されたときのことを思い出すと、当時の安倍首相が指示等直接関与したとの証拠は何もない中で、「忖度」論まで持ち出してなんとしても白(あるいは灰色)を黒にしてやろうと躍起になっていた。あまりにも不当で偏向した報道が目に余った。私は昭恵夫人が矢面に立つようなことにならないよう、ただただ我慢を重ねた安倍首相の態度にむしろ好感を持っている。「桜を見る会」に関しては言い訳の出来ない失点だろう。ただそれほどの悪意といおうか、いやらしさは感じない。いずれにしても小さな問題だ。そしてこのたびの旧統一教会問題である。力のある議員であれば、宗教関係に限らずあらゆる団体からの接触があり、そこに接点は生まれる。現に、旧統一教会に関しては自民党のみならず、野党の議員にも接触はある。さすがに公明党共産党はないが。まして政治信条が保守であれば、関係をどんどん辿っていけば、いずれどこかで国際勝共連合(反共の政治団体)との接点がでてくるのも無理からぬところ。そのこと自体は、思想信条にかかわることであり、法律に照らしても公序良俗に照らしても、これほどのバッシングを受けることでは無いはずである。今、問題になっているのは霊感商法まがいの高額な財産の寄付行為であり、そうした行為を行う悪質な団体の行事に出席するなどしたことが教団に宣伝広告的効果をもたらしたことだろう。そのこと自体は確かにあまりよろしくないし、批判もあるところだろう。ただ、今、マスコミがやっていることは多分に魔女狩り的なバッシングであって、常軌を逸している。「モリカケ疑惑」も「旧統一教会との接点問題」も不当なまでに過大に取り扱い、しかも安倍元首相や政府与党に悪印象を持たせることを意図した偏向報道が過ぎるのではないか。いやしくもジャーナリズム、それも強大な社会的影響力を持つ者は、公平公正の視点を旨とし、良識ある報道を心がけていただきたいと思うのは私だけではないだろう。特定の意図をもっていたずらに世論を扇動し国民をヒステリックに突っ走らせるのごときは先の大戦の反省として戒めてきたことではないか。その矛先が時の政権だからといって許されることではないだろう。

 安倍元首相の国葬が来月下旬に執り行われる。国葬とすべきかどうかについては意見が分かれている。特に旧統一教会に関連した報道が過熱してからは「国葬とすべきでない」という意見が増えてきている。マスコミの印象操作でいかに世論が誘導されやすいかを目の当たりにして暗澹たる気分である。確かに安倍元首相に関しては、つい最近まで政権の座にあったということがあり、未だその功績に対する評価が定まっていない。したがって国葬とすべきかどうかで意見が分かれるのも無理からぬところ。しかし安倍元総理の「功」と「罪」をあげてみれば、圧倒的に「功」のほうが大きいことは明らかだ。そのことは海外各国政府要人の追悼リアクション、即ち安倍氏に対する圧倒的な高評価をみても決定的だろう。不思議なことに日本国内にいる者にはそこまでの高い評価を受けていらっしゃったことに驚くほどだ。日本のマスコミがいかに安倍氏の功績を過小に報道し、かたや何らかの瑕疵があれば過大に報道してきたかということの証左だともいえる。人間誰しも完全無欠ではない。安倍氏とて人間。欠点もあれば失敗もある。しかし少しでも悪いところがあれば美点はすべて打ち消されるべきなのだろうか。そんなことわりはない。欠点も美点も、それはそれ、これはこれと分けて理知的に認識されるべきことがらだ。その上で素晴らしい美点、他に類をみないほどの功績は(多少の欠点には目をつぶって)賞賛されて良いのではないか。国葬とするとした判断が正しかったかどうかはさておいて、そう決まったからには安倍氏の功績を称え、彼を首相にいただいた日本国民としてそれを誇りに思い、他国要人の真摯な弔慰をありがたく受ければ良いではないか。それこそが国益にかなう。国を思い、人生をかけてこうあるべきと信ずる国の姿を実現しようとした偉大な政治家を、偏狭な料簡にとらわれて貶めるようなことはどうかやめてほしいものだ。

 前置きが長くなりすぎた。さて、本書について書く。

 安倍氏が総理として課題とした最も重要なテーマは「戦後レジームからの脱却」であり、それは一度目の就任のときも、そしてまた二度目の就任のときも変わってはいない。政治家を志したときからの終始一貫した問題意識といえる。では「戦後レジームからの脱却」とは何か。敗戦国の占領下の枠組みに閉じ込められ、枷をはめられた日本の戦後体制からの脱却に他ならない。国防・安全保障上の現実に則した態勢や緊急事態条項、国のあり方や教育の理念など独立国として持っていて当たり前のものが欠けた状態のまま七十数年が過ぎた。そしてその根っこにある憲法はひとつの理想ではあっても、現在の世界情勢の現実に合ってはいない。それは2014年のロシアのクリミア侵攻、そして今年の2月のウクライナへの本格的侵攻をみれば明らかである。北朝鮮、中国の動きも予断を許さない情勢だ。このような情勢からすれば、今の憲法は国民の生命財産、そして領土を守るうえで現実的でもなければ、有効なものでもないことは明らかだろう。日本の未来がより確かで良いものになるよう日本国民の意志で、日本国民の手で憲法を改正すべきだろう。それはとりもなおさず「日本を、取り戻す」ということである。

 本書の帯には「『戦う政治家』原点の書」と謳われている。安倍元首相ご本人はけっして本意ではないだろうが、戦わない政治家ばかりの中では「戦う」というイメージも間違いとは言えない。では何と戦うのか。誤解を恐れずに言えば安倍氏はリベラルを気取ったマスコミや言論人に扇動されやすい大衆と戦ったのである。安倍氏は国のリーダーとして正しい決断に対し大衆が必ずしも友好的でないことを知っている。それは安倍氏の祖父・岸信介氏が総理大臣として1960年に日米安全保障条約改定を押しすすめた結果退陣に追い込まれたことを子供ながらに見知ったことにも起因しているだろう。岸氏は革新勢力が大反対する文教改革も断行している。国の将来のために真に必要な施策と確信すれば、たとえ大衆に大反対の嵐が吹き荒れようと断行する。それがリーダーたるものの持つべき姿勢であり、そのことが正しかったことは歴史が証明してくれる。現に後の政治学者の多くが岸氏の政策の正当性を評価している。そうした祖父の姿は安倍氏におおきな影響を与えたに違いない。本書の中には、(私には至極真っ当な主張と思われるが)左翼系の人間にはいちいち勘にさわりそうなことが書いてある。「戦う」というよりは、「対立」することを承知のうえで、正しい主張をし議論しようとする姿勢だと評価したい。中身をよく吟味せず、とにかく「革新」だとか「反権力」という者の胡散臭さ、国家と国民を対立した概念でしかとらえないことの浅はかさ、安全保障の議論になるとすぐに軍国主義につなげ議論すら受け付けないことの無責任、国のために命を捧げた人を貶めるかのような言論のあること、邦人を拉致した北朝鮮への制裁に慎重な一派の存在、安倍氏はそうしたことに対し異を唱える。これらもまた、私には至極真っ当な主張と思われる。

 本書の中で最も重要なのは「第四章 日米同盟の構図」と「第五章 日本とアジアそして中国」だろう。外交安全保障は安倍氏が首相在任中に最も力を注いだことがらであって、世界に安倍氏の評価が高いのもそのことがあるからだろう。「第四章 日米同盟の構図」に記された考えを基に2015年の安全保障関連法(集団的自衛権行使容認)を成立させ日米同盟の強化を図った。現実的な防衛を考えればそれだけでは不十分であるが、まだまだ安全保障問題へのアレルギーが国民にある中、現実に目を向け一歩踏み出した功績は大きい。また「第五章 日本とアジアそして中国」に記された考えを基に、「自由で開かれたインド太平洋構想」を自らビジョンとして民主主義諸国に提示し、諸国の賛同を得たこと。この構想が後にQUADとして実現しつつある。

 これらのことは日本国内の政治にとどまらず、世界の政治における安倍氏のレガシーであろう。ひょっとして世界で安倍元総理の評価が一番低い国は日本ではないだろうか。そんな疑念すら頭にうかぶ現状に憤る日々を送る昨今である。