佐々陽太朗の日記

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『人生を変えた時代小説傑作選』(山本一力・児玉清・縄田一男:選/文春文庫)

2023/06/07

『人生を変えた時代小説傑作選』(山本一力児玉清縄田一男:選/文春文庫)を読んだ。正確には再読した。記録によると2010/09/09に読んでいる。もう13年ちかく経っているが読んだことを忘れていた。ということはどうやら私にとって「人生を変えた」というほどのインパクトがなかったらしい。とはいえ選者が私が敬愛する山本一力氏、児玉清氏、縄田一男氏、収められた六作品はすべて素晴らしいものでした。

 出版社の紹介文を引く。

自他ともに認める時代小説好きの三人が、“人生を変えるほどの衝撃を受けた”短篇小説を二篇ずつ選んだアンソロジー菊池寛「入れ札」、松本清張佐渡流人行」、五味康祐「桜を斬る」、藤沢周平「麦屋町昼下がり」、山田風太郎「笊ノ目万兵衛門外へ」、池宮彰一郎「仕舞始」。一度は読みたい選りすぐりの名作、全六篇を収録。

 

 

 六編の収録作の中で私の一番のお気に入りは『麦屋町昼下がり』(藤沢周平:著/児玉清:選)です。なんといっても私は藤沢ファン。読んでいて、どういう結末になるのかワクワクする剣豪の勝負。文章もしっくり来ます。まあこれは藤沢氏をやっぱり好きという話。

 今回読んであらためて凄い小説だと認識したのは『入れ札』(菊池寛:著/山本一力:選)。これを選んだ山本一力氏の次のコメントにこの小説の凄さが表れています。

 今は、臆面もない連中が、いろんなことを全部、俺がやった、俺がやった、あれをやった、これもやったって言いまくっている。で、人を責めることしかしない。
『入れ札』は、自分で自分に札を入れるということがどれほどみっともないことだったのか、ということを説いてくれている。このへんがかつての日本人の心の敷居だったんだろうな、と思うんですよ。

 今、間違いなく敷居は下がってきていますよね。説教を垂れずに話の中から敷居の高さを教えてくれる、これはすごい小説です。

「心の敷居」良い言葉です。さすがは山本一力氏と思いました。私も晩節を汚すことのないよう「心の敷居」を大切に生きてゆきます。

 最も衝撃を受けた作品は『佐渡流人行』(松本清張:著/山本一力:選)でした。男の嫉妬の恐ろしさが描かれて秀逸なのはもちろんだが、美しさ、愛らしさの裏にある女の底知れない恐ろしさが描かれている。これは若いうちに読むと良い小説です。個人的なことでもう四十年も前の話になるが、まだ私がうぶで純情一徹であったころ、ある女性Yさんに「女って恐いのよ」と忠告してもらったことをふと思い出した。まだ女性に対しうぶな幻想を抱いていた私に危うさを感じて言ってくれたに違いない。おかげで還暦を過ぎるまで、女性関係でなんとか酷い目にあわずに過ごしてきました。ありがとう。なんのこっちゃ?