佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

『ほかげ橋夕景』(山本一力:著/文春文庫)

2023/08/10

『ほかげ橋夕景』(山本一力:著/文春文庫)を読んだ。

 まずは出版社の紹介文を引く。

大工として生計を立てる傳次郎は、娘のおすみと二人で暮らしている。おすみの祝言が決まった途端、傳次郎はそっけない態度をとるようになり…。不器用な父と娘の情を描いた表題作や、晩年の清水の次郎長を主人公にした「言えねえずら」など、まっすぐにしか生きられない、心優しい人々を描いた人情小説全8篇を収録。

 

 

「男には、やせ我慢がでえじだからさ。」 本書の表題となった短編「ほかげ橋夕景」に出てくる言葉である。このひと言につきる。私が山本一力氏の小説が好きなのは、登場人物にこうした心意気があるからだ。男たるもの、むやみやたらに感情をあらわにするものではない。泣きたかろうが、寂しかろうが、辛かろうが、それをグッと胸に秘め、表に出ないよう我慢するのだ。その我慢は自分のためにするのではない。大切な人への思いやりなのだ。そしてその男の深い思いは、いくら我慢しようとそこはかとなくにじみ出てくるのだ。それこそが山本一力氏の美学。