佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

『旅のことばを読む』(小柳淳:著/書肆梓)

2024/01/26

『旅のことばを読む』(小柳淳:著/書肆梓)を読んだ。知人からの借り本である。

 まずは出版社の紹介文を引く。

どこかに行きたい。知らない街を歩いてみたい。
世界中を旅してきた著者には、具体的な旅行の計画を立てる前に、普段の暮らしのなかで夢想する旅がある。その時間を充実させるのが、旅のことばを読むこと。それはガイドブックにとどまらない。世界中の人々の衣食住、民族、言語、交通、自然、歴史、文化、芸術、宗教。せっかく出会う未知のものごとを、自分がいま持っている知識だけで判断し、決めつけるのはもったいない。素直な気持ちで向き合いたい。そういう気持ちになる本や、未来の旅を豊かに深める本、手本としたい憧れの旅人について、旅好き、乗り物好き、そして歴史好きの著者が紹介するエッセイ。

 

 

 著者小柳淳氏のことは全く知らなかった。お名前も知人からこの本を借りて初めて目にした。本のあとづけにある著者略歴によると「鉄道会社にて観光宣伝販促、商品企画、インバウンド開発などを経て、旅行業、ホテル業に携わり、2022年に退任」とある。鉄道会社とはどうやら小田急電鉄のようだ。小田急電鉄には一人だけ知り合いがいるが、小柳氏とはまったく接点がなかった。

 本書はあとがきに著者自ら書いていらっしゃるように「旅のブックレビューみたいな本」である。小柳氏は「どこかに行きたいな」と思い、どこに行きたいかが定まってくると「ノートを買うこと」と「旅先に関する本を読むこと」から始められるという。ノートに旅の計画を書き、旅先に関する紀行文、歴史書など様々な関連本を探し読むのだという。場合によってはガイドブックも読まれるそうだが、最近はその土地のことをしっかりと文章で説明したガイドブックはあまりないそうで、ほとんど写真中心のものしかないところが多いらしい。文章の多いものは売れないからだという。むなしい話ではないか。

 事前に旅をする土地の風土や自然、歴史を調べ、頭に入れたうえで旅をするのだから、旅は自ずと深く味わい深いものになる。ただ綺麗なところ、めずらしいものを巡るだけの薄っぺらなものではない。まさしく旅の王道、正統派の旅と言えよう。事前の計画、読書から旅を楽しんでいらっしゃる。というより小柳氏にとって事前の計画からが旅なのだろう。私にはとても真似できそうもない。

 私の旅はといえば、移動手段とルート、そして何を食べるか、良い居酒屋があるかを調べるだけ。旅の手段も自転車が多いので、1日の移動距離の制約を考慮して大まかな計画を立てるだけで、あとはなんとでもなるさと出たとこ勝負だ。しかし自転車なので、それでも町の様子や生活ぶりを感じながらゆっくりと観てまわる旅となり、それなりに充実したものになる。

 旅好きという共通点はあっても、小柳氏と私とは興味の対象にズレがあるので、読んでいて興味を持てなかったところも多い。いちばん楽しめたのは終盤の「旅人」という章に書かれた沢木耕太郎松尾芭蕉、車寅次郎について書かれたエッセイ。彼ら旅の達人ともいえる人々は私にとっても憧れの人なのである。