佐々陽太朗の日記

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『「テロリスト」と呼ばれた男』(ドルクン・エイサ:著/有本香:監訳/三浦朝子:訳/飛鳥新社)

2024/02/02

『「テロリスト」と呼ばれた男』(ドルクン・エイサ:著/有本香:監訳/三浦朝子:訳/飛鳥新社)を読んだ。

 まずは出版社の紹介文を引く。

習近平が最も嫌うウイグル人のリーダー、日本初書籍! 長年、ウイグル問題に取り組む有本香氏が監訳!

強制収容所」に300万人!
~虐殺国家・中国と、30年以上にわたる闘いの記録~
中国の「罠」は世界中に仕掛けられていた――。

彼はなぜ、トルコに脱出し、ドイツに亡命せねばならなかったのか。
彼はなぜ、国際指名手配となったのか。
彼はなぜ、「テロリスト」に認定されたのか。
彼の母はなぜ、強制収容所で殺されたのか。

沈黙こそが、ジェノサイドの始まりだ!

「78歳の母が収容所に閉じ込められ、命を奪われた時、母の『罪』はただひとつ、私の母であること、そしてウイグル人であることだった」(「まえがき」より)

「あなたの力を決して過小評価してはいけない。あなたが沈黙を破る日、それが一人のウイグル人の命を救う日となるだろう。100万人が沈黙を破る日、それが100万人のウイグル人の命が救われる日となる。2500万人が沈黙を破り、私たちを支持する日、それが東トルキスタンの2500万人が自由を取り戻す日となる」(「あとがき」より)

 

 

「78歳の母が収容所に閉じ込められ、命を奪われた時、母の『罪』はただひとつ、私の母であること、そしてウイグル人であることだった」 これは本書の「まえがき」に記された著者ドルクン・エイサの言葉である。

「俺が電話口で泣きそうになると『母親の私が泣かないのに、なぜお前が泣くの。しっかりしなさい』と叱られるんだ」 これは監訳者である有本香氏が「監訳者あとがき」で紹介したエピソードだ。ドルクンは中国に帰ることがかなわない。国家への反逆者として即刻拘束されてしまうからだ。両親の無事を確認する方法は時々電話をかけ話をする以外に方法がないのである。しかしその会話は当然のこと中国政府当局に盗聴されているので、当たり障りのないことしか話せない。ドルクンは母と父が強制収容所に閉じ込められ常に監視され苦しんでいることに思いを馳せ、つい泣きそうになってしまうのだ。そうすると母がドルクンをこう叱咤したという。なんと強い母か。親というものは子のためなら自分がどんな目に遭おうともかまわない、場合によっては命すら投げ出す。世界に共通する親の心だ。中国共産党はウィグル人に対し大量虐殺、逮捕と重刑判決、収容所への隔離、洗脳、つまりはジェノサイドを行っている。理由は共産党支配が揺らぐことは許さないということだけ。つまりは現体制を維持することで自らの保身を図るためだ。人間のすることじゃない。

 ドルクン・エイサはウィグル人の人権活動に尽力したことによって中国当局から反政府の危険人物と認識され、身の危険を感じるまでになる。彼はやむなくトルコに脱出し、ドイツに亡命する。しかし中国政府はドルクンがテロリスト活動者で多くの罪を犯したとでっち上げ、インターポールのレッド・ノーティスに登録される。そのことによって多くの国で拘束され中国に強制送還される危険にさらされた。自由と法の支配を謳う自由主義国においてさえ、その危険は現実化した。ドルクンがその危機を免れたのは幸運に恵まれたことと、自由主義社会に辛うじて人権に対する配慮があったからだと言える。たとえば第五章「韓国からの逃亡」に詳しく記されたが、自由主義国陣営とみなされる韓国において、二度中国に送還されそうになるのだ。ドルクンは当時、ドイツの市民権を得ていたのでドイツ政府とアメリカ、その他西側諸国が韓国に圧力をかけ最終的になんとか韓国から脱出することができたが、一時は韓国はドルクンの送還を中国に約束していたという。どちらに転ぶか分からない正に危機一髪の情況だったようだ。韓国に限らず中国の強い力のおよぶアジア諸国にあっては中国の言いなりになるところは多かったようだ。その点、日本においてそうした危険を一切感じることはなかったとの記載を誇りに思う。ここで重要な視点はインターポールも大国である中国の影響下にあること。金も人も出しているからである。それは国連も同じこと。国際機関だからといって、無条件に信用は出来ないということだろう。私などは、本書のような記事に触れなければ、国際機関は公平公正に運営されているに違いないといったお花畑的発想をついついしてしまう。己の能天気さを反省せねばなるまい。

 本書に書かれたとおり「中国の夢」は悪夢だろう。「一帯一路」などと華麗な夢を描いてみせるが、その実、中国という大国の力の前に従属させ跪かせようとする意図が透けて見える。中国共産党イデオロギーに世界が従属させられ、人々が抑圧される姿など見たくないものだ。