佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

『成瀬は信じた道をいく』(宮島未奈:著/新潮社)

2024/02/02

『成瀬は信じた道をいく』(宮島未奈:著/新潮社)を読んだ。

 まずは出版社の紹介文を引く。

その前途、誰にも予測不能

唯一無二の主人公、再び。

・・・・・・と思いきや、

まさかの事件が勃発!?

成瀬の人生は、今日も誰かと交差する。「ゼゼカラ」ファンの小学生、娘の受験を見守る父、近所のクレーマー主婦、観光大使になるべく育った女子大生……。個性豊かな面々が新たに成瀬あかり史に名を刻む中、幼馴染の島崎が故郷へ帰ると、成瀬が書置きを残して失踪しており……!? 読み応え、ますますパワーアップの全5篇!

【新川帆立】

 すっかり成瀬中毒。また会いたかった! 成瀬、最高に映えているよ!

【佐久間宣行】

 なんだ、楽しい人生を送ることを諦めなければいいのか。成瀬、ありがとう。

西川貴教

 成瀬はゼゼカラ! 僕はヤスカラ! 共に、滋賀を元気にしよう!

 

 

 ファン待望の成瀬シリーズ第二弾。おそらくファンの多くは小説としての魅力よりも、成瀬あかりというキャラ推しが多いのではないだろうか。周りとの調和を考えて自分を抑えること、これは他人と共に生きていくうえでの大人としてのマナーだろう。そこのところ成瀬は自分の心のまままっすぐに突き進む。成瀬にすれば、彼女のもって生まれた怜悧な頭脳で考え導き出されたなすべき事は明々白々。戸惑ったり迷ったりする理由がないのである。自信がなければ他の人はどうしているだろう、どう考えるだろうと周りに合わせ無難な道を行くことも選択肢になる。そのほうが周りとの軋轢もなく生きやすくもある。それが同調圧力の本質だろう。しかし成瀬はちがう。ノイズを排除し問題の本質を捉える目と頭脳から導き出されたあるべき姿はブレることがない。なぜならそれこそ正解だからだ。正解を確信すればあとはそれを行うだけ。そのまっすぐな姿は爽快だ。

 今作で特に味わい深かったのはあかりの父。優秀でなにをやっても満点を取ってしまう子を娘に持ちながら、親としてやはり娘を心配してしまう。高校3年生にして既に親を超えているのは明らかなのだが、京大受験の際には何かあったらいけないからと仕事を休み娘が受験会場に入るまで見届ける。あかりは試験結果に微塵も不安を抱いていない、つまり合格が当然と思っているが、父は世間並みに心配する。大学に入れば一人暮らしを望むかもしれないと一抹の寂しさを感じながらも、親として助けてやらねばと覚悟する。ほほえましくも哀しい父の姿がここにある。そんな父にあかりは感謝の言葉をかけたり、特段のやさしさを見せることもない。しかしそれでもこの家庭は温かい。成瀬あかりと彼女を取り巻く人々との関係も温かい。それは成瀬あかりの歩みが疑いようもなく真っ当で正しいからだろう。

 シリーズ第三弾が刊行されるのかどうか定かでないが、できることならもっと成瀬あかりの生きる姿を見たい。

 先日『成瀬は天下を取りにいく』が「坪田譲治賞」を受賞した由。また同作が「24年度本屋大賞」にノミネートされたというニュースも流れた。めでたしめでたし。

jhon-wells.hatenablog.com