佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

精霊の守り人(上橋菜穂子:著)を読了

 ファンタジーとは縁がないと思っていた。しかし、クポノさんの勧めに従い読んでみた。人の仰ることは聴いてみるものである。おもしろく読ませていただきました。ありがとうクポノさん。

(以下、本文より女槍使いバルサの台詞を引用)
「ジグロが死ぬとき、耳元で言ったんだよ。父さん、父さんが犯した罪は、私が償うから安心して眠って、ってね。八人の命をたすけるからって。そうしたらね、ジグロは苦笑して、いったのさ。 − 人助けは、殺すよりむずかしい。そんなに気張るなってね。
 ジグロは正しかったよ。争いのさなかにある人を助けるには、別の人を傷つけなければならない。ひとりたすけるあいだに、ふたり、三人の恨みをかってね。もう、足し算も引き算もできなくなっちまった。 − いまは、ただ、生きてるだけさ」

 人が生きていくときに、自分が正しいと思うことを貫こうとしたときに、たとえ目的を達成したとしても、同時に自分が望まなかった結果をも生んでしまう。物事にはすべて裏表がある。己を貫くってことは、それによって生じる結果を、(良いことだけでなく悪いことも)すべてを引き受けると言うこと。その覚悟をすること。バルサはそういった思いを皇子チャグムに伝えたかったのではないだろうか。

 皇子チャグムは、自分に降りかかった災厄を、周りの人々に助けられながら振り払い、冒険を終えた後に思う。自分で望んだわけでもなく皇太子にされていく運命に激しい怒りを感じながらも、皇太子となるべき自分の運命をきちんと受け止める。そこには、己が望むと望まざるとにかかわらず、自分に課せられた責任を全うしようとする少年の姿がある。皇子チャグムが己の命を賭して他の者を守り、そして、その皇子を命がけで守ってくれた人々がいることを知ったことによって、少年が大人になった瞬間である。

本シリーズは新潮社から文庫化されているようである。続編を読みたい。

精霊の守り人 (新潮文庫)

精霊の守り人 (新潮文庫)

  • 作者:上橋 菜穂子
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2007/03/28
  • メディア: 文庫