佐々陽太朗の日記

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『悩む力 / 姜尚中(著)』(集英社新書)

『悩む力』を読みました。著者は東京大学大学院情報学環であり、政治学者であり、在日でもある姜尚中(Kang Sang-jung)氏です。

本書を一言で言えば、「ボーダーレスに拡がる情報ネットワークと自由でグローバルな市場経済の発達という目まぐるしい変化の中で、何が確かなものなのか、あるいは何を信じたらいいかといったことが非常に曖昧な現代社会においてどう生きればいいかを論じた本」です。それを考えていくうえで、姜氏は文豪・夏目漱石社会学者・マックス・ウェーバーを手がかりにしています。姜氏は夏目漱石マックス・ウェーバーには通底するところがたくさんあり似ているといいます。その部分を引きます。


ウェーバーは西洋近代文明の根本原理を「合理化」に置き、それによって人間の社会が解体され、個人がむき出しになり、価値観や知のあり方が分化していく過程を解き明かしました。それは、漱石が描いている世界と同じく、文明が進むほどに、人間が救いがたく孤立していくことを示していたのです。


漱石が生きたのは日露戦争以降、新興国家として隆盛を極める一方で、それまでの価値観のまま生きて良いのかという不安に似た疑問を人々が持った時代。漱石と同時代を生きたマックス・ウェーバーもまた「呪術からの解放」は人間に何をもたらし、近代合理主義はどこまで普遍的なのかを突き詰めようとしていました。その二人の時代への向き合い方も似ている、それは「時代を引き受けてやろうという覚悟のようなもの」であったと著者は言います。
要するに姜氏は本書の中で、確かと信じられるものが何一つ無い現代にあって、時代と真面目に向き合い、真面目に悩んで、悩み抜いて、悩みを突き抜けることが必要だと言っているようです。「悩む力」=「真面目に悩み抜く覚悟」こそが尊いのだと。