佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

町長選挙

7月18日

町長選挙

「ははは」満男は乾いた笑いを発した。馬鹿馬鹿しくて、笑うしかない。ささいな汚点をあげつらい、実力ある者を引き摺り下ろす。これが衆愚社会だ。黒か白かでしか物事を見られない。清濁併せ呑むということがわからない。

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町長選挙』(奥田英朗/著・文春文庫)を読みました。

裏表紙の紹介文を引きます。

町営の診療所しかない都下の離れ小島に赴任することになった、トンデモ精神科医の伊良部。そこは住民の勢力を二分する町長選挙の真っ最中で、なんとか伊良部を自陣営に取り込もうとする住民たちの攻勢に、さすがの伊良部も圧倒されて…なんと引きこもりに!?泣く子も黙る伊良部の暴走が止まらない、絶好調シリーズ第3弾。

トンデモ精神科医・伊良部一郎シリーズ第3弾です。私、もうすっかり伊良部先生と看護婦のマユミさんにはまっています。今回は次の四篇の短編で成り立っている。( )で表示したのは物語の中で神経症に罹り伊良部医師を訪ねる主人公の名です。

  1. オーナー    (田辺満雄)
  2. アンポンマン  (安保貴明)
  3. カリスマ稼業  (白木カオル)
  4. 町長選挙    (宮崎良平)

そして1~3の主人公にはそれぞれ実在の有名人モデルがあります。すなわち、「田辺満男」(通称ナベマン)=「渡辺恒雄」(通称ナベツネ)、「安保貴明」(通称アンポンマン)=「堀江貴文」(通称ホリエモン)、「白木カオル」=「黒木瞳」です。この点が前二作(『イン・ザ・プール』と『空中ブランコ』)と異なる点です。読者の中で主人公が実像を結んでいて物語を楽しみやすい反面、イメージが実在の人物に引きずられてしまう嫌いがあります。四篇目の「町長選挙」も主人公に有名人モデルはないものの、舞台となった島にはモデルがありそうな気がします。たとえば私は「選挙のたびに島を二分して実弾(金)飛び交う激しい選挙戦が繰り広げられる島」として徳之島をイメージしながら読みました。今回は病んだ人だけでなく病んだ島まで伊良部流に治療してしまうところが何とも不思議であっぱれです。そして今回も私はいつか伊良部総合病院の薄暗い地下にある神経科を患者として訪ねそうな気がしながら読みました。私はけっして物語のモデルになったような有名人でもなければ重要人物でもないけれど……。マユミさんになら注射を打たれてもいいなぁ。(笑)

 

 

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