佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

種と遊んで

「野菜は旅が好きで何処にでも出かけ、気に入ったところで根を下ろして定住し、その地に順応して姿、形や性格(味)までも変えていく」ものだと思うと、とてもロマンチックでもある。人間も旅をするし旅が好きだ。古来そのポケットに「種」はあり続け、一緒に旅をしてきた。そして一つの食物としての役目にとどまらず、根を下ろした地域に独特の文化さえ創りだす大きな力にもなってきた。古代エジプトギリシャからはるばる旅してきたという歴史に思いを馳せながらソラマメを収穫してすぐに茹で、塩をまぶしながら飲むビールは、また一味違ったものになる。

                                      (本書P188より)

 

 

 『種と遊んで』(山根成人・著/現代書館)を読みました。

 著者の山根さんは「ひょうごの在来種保存会」の代表を務めていらっしゃいます。ご縁があって山根さんとは月に一度、お酒を飲みながらお話をさせていただく間柄です。初めてお会いしたときにお聞かせいただいた話が私にはたいへん衝撃的でした。そのお話はあらかた次のようなものだったと記憶しています。

在来種・地域固有種が減少の一途をたどっている。今、畑で作られている野菜は違った両親を人工的に交配させてつくるF1品種とよばれる種からできている。F1品種は在来種に比べ収穫量や見た目、育てやすさに勝っており、市場で売れやすいため在来種・地域固有種を栽培する農家はどんどん減っているのだ。それどころか、最近ではできた種を翌季に植えても芽が出ない「ターミネーター」という種子まで生まれており、一握りの国や穀物企業による食糧支配の様相を呈しているありさまだ。現状の市場原理優先の農業では品種の単一化をすすめてしまい品種の多様性が失われるのは火を見るよりも明らかだ。在来種・地域固有種は、長い間、その土地で生き続け、その気候風土に順応した結果、独特の個性を持っている。今、これを保存しておかないと二度と手に入らなくなってしまい忘れられてしまう。いま大切なのは地産地消をすすめ、その地域こ受け継がれてきた種子を採り続けることで種を保存することだ。そうすることが豊かな食文化を支えていくことにつながる。
 

 

 種子は旅をする。旅先で根を下ろし、その土地に順応し形や性質を変えて定住する。そして、その性質(味)の中で素晴らしいものが、美味しい野菜としてその地の農家に受け継がれていく。我々の祖先は、そして我々はその恵みにあずかってきたのです。山根さんが行ってこられたフィールドワークが、多くの人々に受け入れられ拡がりを持ちつつあります。私も微力ながら応援させていただきたいと思います。

 

 月イチの飲み会に私がこの御本を持っていくと、山根さんは二宮尊徳の歌とともにサインをして下さいました。

 

     この秋は 雨か嵐か知らねども 今日のつとめの 田草刈るなり

 

 まだきていない将来のことをあれこれ心配するより、今日なすべきことに全力を尽くすことの大切さを詠んだものでしょう。未熟な私への戒めとしてこの言葉を御本と一緒に大切にさせていただきたいと思います。ありがとうございました。